第43話 脱け殻


        【脱け殻】



慶長三年五月某日


戦国の悪魔が海を渡った頃から秀吉は体調をぐずしていたが、五月になってとうとう寝込む程の状態に悪化した…


魔物は秀吉の病状を察して大陸を目指したのか…


魔物が離れた事で秀吉は力を失い病に伏せたのか…


 いずれにしろ、病人の秀吉は戦国の大名を震え上がらせた頃の面影は無く…生気を無くし虚ろな目で虚空を見つめている…



伏見城 豊臣秀吉



… 何故だ、大陸制覇は目の前…この大事な時に魔物の力が抜け、体の力も抜けたようだ…

なんて事だ…信長様を殺すまでして手に入れたのに…今更、裏切るか魔物め……認めん…そんな事、絶対に認めん ……



秀吉は敬愛する信長より魔物の力を選んだ、なのに信長越え目前で魔物に裏切られた…

 魔物の力を失った事に気付いた秀吉は、怒りを魔物に戦国の悪魔に向ける…



 自らの死を悟った秀吉は家臣に五大老筆頭の徳川家康と五奉行筆頭の石田三成を呼ぶよう命じた。




伏見城 翌日



石田三成

「遅くなりました」


秀吉

「遺書を書く…」


石田三成は、遺書を書く…すなわちもうすぐ死ぬと言う事に気を使い答える。


石田三成

「…まだ…早いのでは」


秀吉

「この体はもう駄目だ…」


石田三成

「今日は、何時もより顔色が良いように思いますが…」


秀吉

「…そうかもな、ひとつ志しが出来た」


石田三成

「なるほど、それは良い事です…」


話の流れ的に志しが何なのか秀吉が話すと思いきや、しばし沈黙がつづく…


石田三成

「いったい、どの様な志しかは秘密ですか…」


秀吉

「…お前…俺の人生を、どう思う」


石田三成

「はっ?」


自分の死を悟った発言の後に、突然の質問…これは何か意図がある話かと考えを巡らす三成…


秀吉

「…誉めろといってる訳ではない… 単純に一般論としてだ…」


石田三成

「……」


秀吉

「答えにくいか、まぁいい俺の人生は一言で言えば・あ・り・え・な・い・につきる… なんせ、俺は百姓の出だ…それが今じゃ天下人で、大陸制覇目前…」


石田三成

「そうです!明制圧は目前です…太閤に弱気など似合いません…」


秀吉

「…そうか…お前もそう思うか?」


五大老筆頭の徳川家康が到着した。


徳川家康

「太閤様、今日は体調が宜しいようですな」


石田三成

「…それが家康殿、太閤は遺書を書くと言ってます」


徳川家康

「なるほど…体制を保つためには、事前の準備が大事と言う事ですか…」


思慮深い家康は、何となく秀吉を流石だと持ち上げるが、直ぐに否定される。


秀吉

「違う、この体はもう駄目だ…」


徳川家康

「…医者は何と言ってますか?」


秀吉

「医者などすでにお手上げだ…直に祟りだ何だと言い出すだろう…まぁ、あながち外れて無いけどな…」


石田三成

「何か心当たりが有るのですか?」


徳川家康

「……」


秀吉

「そうだ、さっきの話の続きたが……百姓出身の俺が…何故ここまで登り詰める事が出来たのか、それは… 魔物が俺に取り憑いたからだ…」


石田三成

「……」


徳川家康

「魔物…?」


… まったく…派手な呆け方だな、秀吉も病には勝てないか …


秀吉が何やら変化した事に気付いていた石田三成でも、この発言には驚いた…徳川家康も驚いたが、秀吉が呆けたと思い心の中でほくそ笑む…


秀吉

「…信じられないだろうが、事実だ…そうでなければ百姓が天下人に成れるか?」


石田三成

「それは、下剋上の戦国で太閤の力量が発揮されたまでです…」



徳川家康は、秀吉の更なる言葉を求め聞き入る…


秀吉

「なら…何故、下剋上の世が出来た…」


石田三成

「そっそれは…」


口を挟む石田三成を制して家康が話を促す…


徳川家康

「それが太閤の…いや魔物の力だと…」


秀吉

「そうだ…俺は魔物…この醜悪な顔…それに指が六本だ…」


六本指の手を見せられ驚愕する二人…


秀吉

「幼い頃に親が一本切って五本指だったが…また、生えてきた…魔物の証なのか明智光秀を射った頃からまた生えてきた…」




これは流石の秀吉も信長を殺した頃とは言えずに明智光秀の名前をだした。


この話に徳川家康は震えた、心の奥で何故か事実だと本能で感じたからだ… しかし、なら何故死にかけているのか?と疑問が沸き上がる…


徳川家康

「…太閤様の話が事実だとすると、ひとつ疑問が有ります」


秀吉

「この話は無理に信じ無くて良いが…疑問とは何だ…」


徳川家康

「天下を取る程の力が有りながら何故病に…」


秀吉

「そうだ…本来なら病などならない…だが、大陸制覇を目の前にして魔物が裏切った…」


石田三成

「…日本軍は快進撃を続けて朝鮮半島は、太閤の計画通りいや…それ以上の結果を出してます…」


徳川家康

「そう考えると、魔物の力はまだ太閤様のものでは…」


秀吉

「それは、無い…俺を離れ大陸に渡った魔物は…狂った様に人を殺してるだろう…」


徳川家康

「…魔物が大陸で人を殺している…」


秀吉

「日本軍が強いから当然…そう思うかも知れないが…驚くほど死人が出るのは…魔物の力だ…」


… 信じられんが、本当の気がする…最初は姉様(信長)だ、自分で第六天魔王だと言っていた… そして今度は秀吉の正体が魔物だと…馬鹿げた話だが…何故だ…本当な気がする …


徳川家康

「日本軍の快進撃は、魔物の力だと…」


秀吉

「そうだ…」


石田三成

「そうだとしても、殺されるのは明朝鮮軍ばかり…魔物は太閤の味方をしてる、明を制圧したら太閤の下に戻るのではないですか」











豊臣秀吉Wikipedia参照

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