第31話

そしてサイゼリア。

六年後。兄は他界していた。

五歳年上で、教師として立派に独立していた。

なぜか祖母の元に小さい頃養子に出され、その経験から自身の進路を決めたようだった。

 

小沢彩美は。


「私達、親戚同士ですよね。群馬県出身。祖父母たちは十一人きょうだい。家業は床屋。でも、」


みんな散り散りになった。誰かは分からない。ただ酒癖が悪かったのか。働かなかったのか。暴力的だったのか。怠け者だったのか。だれかを、みんなを

不幸せにしたのか。


父は私達を生家から遠ざけた。こちらに来たのは、兄のため。母の直感。私達の共通の能力。


「彩美という名前の、アヤと呼んでいる友人の事も、関係あるんですか?」


小川は脂ぎり、うねった髪を揺らしながら首を傾げ。

「わからないけれど、」薄く笑って言う。


「本人も大変だったんだろうね。自分もきっと前にされて、悪習として学んでしまい、腹黒いしっぺ返しをする黒いお局になった」


まだ若いのに、と付け加える。


違う。私達はもう二十八だ。若手の域だが女として、若くはない。この人はいくつになったのだろう。


やっと正社員になれたのに


アヤ。お局。悪習。正社員。寿退社はしていない。

ブラックとは言わない。小川の忍耐力が足りなかったのかもしれない。会社自体はクリーンだ。ただ。


憂さ晴らし。八つ当たり。あてつけ。


小川彩美は、小林彩美は。


壊れてしまった。


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