第30話
やがてアルバイトも辞め、就職する。
彼は配送・宅配サービスの職についた。道も住宅の並びもよく知っている。真中は一時単位だの卒論だだのが危なかったらしく、おまけに実家のお父上が倒れたそうで災難続きだったが無事卒業。なんと本当に旅行関連の職に就いた。就職して二年で貯金も貯まり、余裕もほんの少しだけでき。
私は、初めての彼氏と結婚した。
そこから先は。
いやその前に、私が就職先を決めた後の事を話そう。ある日、百均のスタッフルームの扉の前で、聞いてしまったのである。
「アリアちゃんにはさー、もっと本屋じゃなくて、ワールドワイドに活躍してほしかったよねー」
この方は奥様か、あえて結婚しなかった女性か。誰か。わからない。だが確実に私の就職先への不満、強くはないが、少し、揶揄する気持ちが入っていて。
侮るなかれ、書店員。そして私のこと。
「えっ、でも!」
この「でも」で始まるのは。
小林さんだ。
「いいと思いますよ、書店員。あれだけ本が読める胆力と、読書量もすごいと思いますし。
これから出世していく中で本のソムリエみたいな資格や、もしかしたら司書さんみたいな資格も取るかも!」
応援している。心からではない。誰かが誰かを貶しそうだからだ。平穏を望み、このまま自分のペース泳がなければ。皆が泳いでくれなければ。
わかっている。わかってきた。
「それに今、美人すぎる女社長とか、オシャレすぎるカフェ男子とか、流行ってますもん。美容師は、もともとおしゃれな人が多いけど。
いけますよ!
美人すぎる書店員!」
・・・・・・。
会話の相手はそっかー、そういうのもありかー、とひっこんだ。
私もスタッフルームに入るのをやめてお手洗いに向かう。
颯爽と、お手洗いに立ち入って窓を開けて、鉄格子先に建物を囲むように並んだ木々とショッピングモールの駐車場、道路を行き来する車たちを見る。
絶対になってやる。書店員に。きっと子供の頃からの夢なのだ。本屋さんの店員さん。もう叶えているけれど生きるために成ってやる。
なんだ、ワールドワイドって。世界で活躍しろという事か。世界中の本を読んでやる。扱ってやる。
そして、いつか必要なものを、筆記用具や研修、仕事に必要なものを、領収書で買って売上を伸ばすお客様になってやる。
ありがとう、私の人生。
明日は土曜日。久しぶりに午前が休みだ。
父にピアノを弾いてもらおう。母が控えめな声量で歌い、私はトランペットを吹く。
少し遠くにいる、兄に届くように。
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