第12話

小林彩美。苗字が変わったと言っていたが変わっていないではないか。今も昔も小林では。疑惑。そして、さらなる探求。

わたしはショッピングモールで母に、

知り合いに会ったからご飯食べてくる、と告げる。

母は、

わかった。本見てる。

と大型複合施設の書店へ向かう。

本屋さんを書店と呼ぶ様になったのはいつからだったか。


私は小林彩美をサイゼリアに誘った。

ごめん、お金が。

だいじょぶです、私が出します。


有無を言わさない。こちらが有利だ。小林の返事もなしに食事処は向かうのは聞きたいことがあったから。

私はニンニクなど気にせずエスカルゴのオーブン焼きを頼んだ。フォカッチャみたいな名前のミニパンも。これで料理が運ばれてくるまでオーブン焼きで時間が取られるはずだ。会話あるいは共にいる時間が長くなるはず


小林彩美は遠慮した。私は教える。

女の人は大体パスタを頼みます。ピザを食べられても気にしません。イカ墨は匂いが独特なので避けるべきかと。


小林は瞠目し、ありがとう、という。

彼女は自分が何を選んでいいのか分からない。おそらく友人同士で食べる割り勘の仕方もわからないだろう。


でも、奢られるわけにはいかないし、とメニューだけ捲り始める。


では、そうですね、・・・・・・それにしてもスウェットですか。


小林は恥ずかしげもなく笑って、もうこれじゃないと、体が服に入らない。


体が

服に

入らない。不思議な言い回しに、なぜか聞こえた。


小林さん、苗字が変わったって、ご両親の件で。

そう言いましたよね。


・・・・・・そうね。


急に彼女が大人びた。本当の彼女は、こっちだ。


その苗字は、小川ですか?


彩美さんが黙る。水だけ取ってくるね。

と、席を立つ。ウェイターが、お水とドリンクバーはセルフサービスです。と言っていたのを彼女は学習していた。


たっぷりと水を入れた細長いコップを持ってくる。


その時私が頼んだエスカルゴがやったきた。パンも二つ。


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