第8話 顔合わせ

「ここが待合室になりますので、ここでお持ちください。もう少しすれば、社長が来ると思いますので」


待合室は、前の面接の時とは違う場所であった。外から見てみるに、前ほど広い場所ではなさそう。

確かに、前回は50人ぐらいは人がいたから、それだけ広くないと入れなかった。

今回は、多分そんなに人はいないから、少し小さめの部屋にしたんだろう。


「わかりました。ありがとうございます」


鈴木さんは少し頭を下げて、どこかに歩いて行ってしまった。


「ふーー…」


少しだけ深呼吸をする。

面接の時にもやった、緊張を和らげるものなのだがほぼ意味はない。けれど、何もやらないよりかは多少マシだから、一応やっておく。

この中に、合格者…いや、同期になるかもしれない人がいるのか。まだ、何人いて、男の人がいるのか女の人がいるのか何もわかっていないが、少し楽しみだ。


「よし、入るか」


俺はそう言い、ドアを開ける。


すると中には…


二人の女性がいた。


「あら、最後の一人は男性の方だったのね。初めまして、私は倉井静よ」


「…あ、えっと、伊東蓮と言います。よろしくお願いします」


俺が入るとすぐ、一人の女性…倉井静さんが挨拶をしてきてくれた。髪はショートカットより少し長めになっていて、背も高めになっているから、モデルさんをやっていてもおかしくないくらいだと俺は思う。

ぱっと見の印象、クールそうで、少しお姉さんぽい感じの人だ。


…正直に言おう、俺はあんまり女性の方と話したことがない。

すなわち…そう、


めちゃめちゃに緊張している。もう、挨拶を返すだけでも声を少し詰まらせちゃうくらいには緊張している。


「ええ、よろしくね。で、こっちが…」


「はい、初めまして。紅葉沙耶と言います」


そして、今紹介された女性…紅葉沙耶さんも挨拶をしてくれた。髪は肩まで綺麗に伸びており、礼儀正しそうな方で、少し和を感じる。


「はい、伊東蓮です。よろしくお願いします」


よし、今度は詰まらずに言えた。


「ここに案内されたってことは、君…蓮くんもファミールの面接を合格して来たってことであってるかな?」


「はい、そうです。俺もまさか合格するとは思わなかったですけど、」


「それは私もです。面接の自信なかったんですけど、封筒の中身を見てびっくりしました」


マジか、紅葉さんも自信なかったのか…。

見る限り、とても礼儀正しそうで、上手くやっていきそうな人に見えたから少し意外だ。


「それは私もそうだよ。けど…ここに来れたってことは、みんな何かしらが認められたんじゃない?」


そう、倉井さんが言ってくれると、紅葉さんが少し思いだすような素振りを見せた。

かく言う俺も、少し思いだす。

俺が覚えているのは、ピアノと歌をやったことなのだが…、倉井さんの言うとおり、それが認められたって言うことだったら、俺は嬉しいな…。

もしかしたら、《他のところ》でよかった場所があったのかもしれないけれど。


「ファミールに合格した。ファミールは今ではもう、大企業って言っていいほどに大きい事務所なんだから、自信もっていこうよ!」



………



「「倉井さん…」」


倉井さん、めちゃめちゃいい事言ってくれるじゃないですか…。

やっぱり、お姉さんぽいって言うのは当たっていたんだ。紅葉さんも絶対同じことを思ってるよ。


俺はもうその言葉だけで嬉しい…。


「っはい、この話しはお終い。せっかく合格した3人が集まってるんだから、もっと色んな話しをしようよ!」


確かに、せっかく3人が集まって話せるんだから、俺も色々と話してみたい。

…まだ緊張してるけど、話して言って慣れて行こう。

話しかー…


「…、倉井さんと紅葉さんってファミールのメンバーだったら誰が一番好きなんですか?」


少し考えた結果、やっぱファミール関連の話しをすることにした。そっちの方が、話しが広がりそうだしね


「…!!私はもう、ユキちゃんだね!あの、少しクールな見た目なのに、話しが面白いし、メンバーへの対応とかも上手だし…。もうかれこれ、2年間以上は推し続けてるね。あ、それと、クールな見た目とは裏腹に少しおっちょこちょいな部分があったり、同期には少しだけ甘えていたりするところも可愛いんだよねー…!」


「あ、私もそれわかります。私が一番好きなのは、椿さんなんですけど、二人でのコラボとか、同期とのコラボでやっぱユキさんがいないとなって思いまっすもん。」


「やっぱり?けど、私も椿ちゃんのこともよくみてるんだよねー」



二人が言っているのは、如月ユキさんと椿のぞみさんのことだろう。二人とも、同期ユニット シーズンのメンバーになっている。


..ただ、俺もそのユニットだったら少し気になる人が一人いる。


「俺もシーズンのメンバーだったら、ひまりさんを一番みてますね。」


「ひまりさんということは…。蓮さんって歌とかお好きですか?」


「え?!そうですけど、よくわかりましたね」


「それはもう、ひまりさんはファミールの中でもトップレベルの歌の上手さですしね。ひまりさんを好きな方ってやっぱり歌が好きな人が多いんですよ」


「そうだね、私もひまりちゃんの歌枠とかたまに見させてもらってるけど…本当に上手なんだよね」


胡桃ひまり。彼女もシーズンのメンバーだ。

俺も、ファミールを知ってすぐに、”ファミール 歌ってみた”と検索した所、早乙女シンカさん、胡桃ひまりさん、来栖センさんの歌ってみたが圧倒的に再生数が多かったのだ。他の人も歌ってみたを上げていて、今挙げた三人と同じくらいの再生数を持っている動画もあったのだが、それはごく一部だけで、その三人は全ての歌ってみたが圧倒的な再生数を持っていたのだ。

俺もその再生数をみた時は驚いたが、中身を聞いて納得した。


「俺…もともと歌い手をやってたんですけど、

それぐらい歌が好きなんですよ。だから、ひまりさんだったり…他にもシンカさんやセンさんみたいな歌が上手な人に少し憧れを感じてるんです。特に…これはその三人に限ったことではないんですけど、いろんな人の周年や生誕祭でのライブをみて…俺も、こんな風に歌いたいなって思ったんです。このみんなと一緒に歌ってみたいって」


生誕祭ライブ、そして周年ライブ。

これはその名の通り、誕生日や1周年、2周年などに行う歌のライブだ。

俺は面接が終わってから、そのライブを見たのだが、本当に感動したし驚いた。人によって違う歌の構成、種類、歌い方。曲によっては、歌うメンバーが違ったりもして、どの人が歌うライブも視聴者のみんなを楽しませようと考えているんだなと感じ取れた。

ただ、やはりシンカさん、ひまりさん、センさんは歌も上手く、声の響き方や、歌い方なども違った。

けれど、どのライブをみて共通して言えたことは…みんなが笑顔で楽しんで歌っていたこと。

俺はこれを見て…、いつか俺もここで歌いたい、このメンバーの中に入ってみたい。

そんな風に思ったんだ。


………………


………………


って?!

俺は何少し語っているんだ…!

目の前に倉井さんと紅葉さんがいるんだぞ…


「す、すいません!なんか少し語っちゃて…」


「…いや、全然大丈夫だよ!ただ…少しだけびっくりしちゃった。そこまで歌に力が入ってるとは思っていなくて」


「はい、それに、話してる時の顔も目をキラキラさせつつも、少し覚悟のようなものを持っている顔をしていましたから」


…え?!


「俺、そんな顔してましたか?!」


「うん、ばっちしね」


…うおおおおおおおおおお……!

なんかめっちゃ恥ずかしいぞ…!

俺そんな顔してたの?目はキラキラで、顔は覚悟が決まってる?

たしかに憧れてはいるし、そこまで行きたいという気持ちは持ってるけど…、なんでそこまで顔に出るんだ…。


「…けど、私はそれすごいと思いますよ」


「…え?」


「…私は、ただファミールが好きで、ここに応募して、合格してきたんです。けれど…私はまだ何がしたいかなんて決まっていませんし、何をやっていこうとかも何も決まっていません。けど…蓮さんは少しは決まっているじゃないですか。だから、私からしたらすごいなと思うんです」


……紅葉さん、


「私も沙耶ちゃんと同意見かな。そんな風に、夢を持ってきてるのってカッコいいと思うよ」


倉井さんも…、


(初め、書類を送る時、何も考えていなかったんだよな…。今は…少しは考えているけどね)


…けど、そんな風に言ってくれると、こっちとしてもなんか嬉しくなる。


「えっと、ありがとうございます!」


「うんうん、これから頑張っていこうね!沙耶ちゃんも!」


「はい!」


あ、…、なんかこの感じ、めっちゃ心地いいかも。

なぜか…少しだけ感動してる自分がいる。

そして…、知らないうちに緊張もしなくなっていた。





コンコン


「入るわね」


…あ、この声は面接の時に聞いた声だ。

てことは…


「うん、三人とも揃ってるわね。ファミールの社長をしてる、加藤あかりよ。よろしくね」



———————————————————


ちょっとずつ考えて、書いていたんですが、会話部分をどうしようかと悩んでいたら遅くなってしまった…。

申し訳ない。


誤字、脱字が有ればよろしくお願いします






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