決戦準備 ジン

 ユーリはドロシーから何も知らされず連れ回される。


「次の店に行く前に、酒場の仕入れ分を注文していいかしら?」


「いいけど、次はどこへ行くの?」


「それは内緒」


 ドロシーはテキパキと酒と食材の注文をしていく。こんな風にゆっくり自分の為の時間を過ごしたのは何年ぶりだろうとユーリは思った。

 そもそも街へ来ることも少なかったユーリは、新鮮な気持ちで周りを見渡した。


 カシャン


 隣を通った大きな男の人が、特段大きなハサミのケースのようなものを落とした。

 落とした事に気がついてはいるが、両手いっぱいに荷物を持っている為、拾えずに困っているように見えた。ユーリはその落し物を拾う。


「はい、どうぞ。えーっと…どこに入れれば良いでしょうか」


「ありがとうお嬢さん。重たいだろうに、腰のホルダーケースの紐が切れてしまったみたいで…」


 その男性を正面から見ると、顔に傷があり屈強な戦士という言葉がとても似合うユーリでも怯んでしまう強面だった。


(こっわ。え、どうしよう、どうしたらいいのこれ…)


「あら?ジンじゃない」


 背後からドロシーの声が聞こえた。どうやら注文を終えて帰ってきたようだ。


「ドロシーお嬢さん!」


 どうやら2人は知り合いのようだった。


(ジン?どこかで聞いたような)


「ちょうど貴方のお店に行こうと思っていた所よ!」


「どの様なものをご入用ですか?」


「私じゃなくて、こっちのユーリへ」


 ドロシーはサラッとユーリを紹介する。

 この屈強な男性が営むお店…。鍛冶屋?いや…まさか暗殺依頼とか…!??色々と一人で考える。


「これはジンのハサミでしょう?ついでに持っていくわ!ユーリお願いね」


「え、あ、うん」


「ありがとうございます。すみません」


 見た目とは裏腹にとても低姿勢で物腰が柔らかい。そんなに怖くないような…?


「あ、いえ…」


 目が合って顔を見る。前言撤回、やっぱり怖い。


「ドロシー。私、別に刀は要らないわよ…」


「何の話してるのよアンタ」


 ドロシーは、何言ってんだこいつと言う顔で見てくる。どうやら行先は鍛冶屋ではないらしい。


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