アマリリス

 お店にはすぐ着いたが…。


(え、さっきより可愛い店に着いちゃったんだけど…え?????)


 店を見て、隣の男を見て店を見る。どうしても結びつかずに頭が困惑する。

 ドロシーはユーリがそんなに悩んでいるとは露知らず、着いた店の扉を開く。


「いらっしゃいませぇー!」


 扉を開けると小柄な可愛い女の子が迎えてくれた。


「ただいま、アリス」


「お兄ちゃん!!」


 横にいる強面の男を、可愛い女の子が迎えた。


「久しぶりね、アリス」


「ドロシーお姉ちゃん!…と、お客さま?いらっしゃいませ!アマリリスへ!」


 中には、可愛い色とりどりの服が沢山並んでいた。


「アリス、このお姉さんの採寸と登録をお願い出来るかしら?」


「任せてー!」


 そう言うとユーリへ駆け寄りグルグルとまわりながら観察する。


「自分はとりあえず奥に荷物を置いてきますので……机の辺りにハサミを置いていただけると助かります」


「え、これお兄ちゃんのハサミ!?お姉ちゃんこれ持てるのすごーい!アリスは重くて持ち上がらないの!」


 ドロシーは掛かっている服を物色している。

 ユーリはハサミを近くの机へ置いた。するとアリスに手を引かれ、カーテンの掛かったスペースへ連れ込まれた。


「お姉ちゃん、とりあえず脱いで!」


 そう言うとアリスは、慣れた手つきでユーリの服を剥ぎ取った。


「えーと上から…」アリスは採寸を始めていた。小さい女の子にされるがままのユーリ。


「かわいい服ばかり凄いね?お母さんが作ってたりするの?」


 パンツスタイルからワンピースにブラウスにスカート。色々なものが揃っていて、全て繊細で可愛かった。


「作ってるのはジンお兄ちゃんだよ!私は販売担当」


「えっ?」


 聞き間違いではないだろうか?と耳を疑ったが、ジンお兄ちゃんに該当するのは今この中に1人しか居ないため間違いようが無かった。

 人を簡単に消せそうな筋肉と体格と人相で…この可愛いドレス達…。ユーリは世界はまだまだ広いなと実感する。


「この服もジンお兄ちゃんのお手製なの!」


 アリスは黙々と仕事をこなしながら話してくれる。レースの着いたとても可愛らしい赤の服に、リボンが刺繍されていて…。


(とてもあの人が作った服とは思えない…)


「お姉ちゃん、お名前は?」


「えっと、ユーリ…です」


「はい、ユーリお姉ちゃん登録完了!」


「えっと…登録?」


 ガシャー!


 勢いよくカーテンが開けられる。

 そこにはドロシーが立っていた。

 ユーリは下着姿だったので思わず隠す仕草をする。


「想像した通り下着も貧相ね…。改善の道程は長いわ」


 ドロシーが白のブラウスに黒のワンピースを手渡してきた。


「これに着替えなさい」


 ドロシーに有無を言わさず押し付けられる。


「あのーっ…閉めてもらっても…」


「今更よ!早くして」


 言い争うより着た方が早いと思ったユーリは服に袖を通す。

 とても肌触りが良く、とても可愛い。着ると自然と背筋が伸びた。


「最後に仕上げをしまーす!」


 そう言うと、アリスが腰のポシェットからリボンを取り出し、襟元で結んでくれた。


「わー!ピッタリですー!」


 ニコニコと手を叩くアリスと満足そうに仁王立ちするドロシーがいた。ユーリは鏡で確認すると、久しぶりに新しい服を纏う自分の姿をみて恥ずかしくなった。胸元に付けてもらったリボンが動く度に色を変える。


「このリボン凄い」


「えっへん!そうでしょうそうでしょう!」


 アリスが腰に手を当て誇らしそうに笑う。


「この服がアマリリス製の物であるという象徴なのです!光に当たると角度によって見える色が変わる不思議な、お兄ちゃん特製のリボンなのです!」


「この店は完全会員制の人気店なのよ。普通に一般人には入ったり買う権利すらないわ」


 ドロシーが続けて説明する。


「なんでドロシーが入れるのよ?」


「ドロシーお嬢さんの父君は、私の恩師ですので」


 奥からジンが戻ってきた。


「あくまで趣味で始めた事でして、運良く人に買ってもらえる訳です」


(めっちゃ怖いのに……凄い謙虚!)


 ユーリは、ジンの顔と言動の不一致に振り回される。


「ユーリも登録して貰ったから何時でも入れるわよ!ジン!これ頂くわ、おいくらかしら」


「ユーリさんには先程助けていただいたので、お礼に宜しかったら着て行ってください」


「あら、良かったじゃない?やっぱり善行はしておくものね」


「そういうつもりで助けた訳じゃないので!払わせて下さい!」


 ユーリは慌てて昨日貰った紙袋を取り出す。


「お金は結構ですので、大切に着てくださると嬉しいです」


(いい人すぎて後光が差して見える…!)


「ありがとうございます、大切に使わせていただきます」


「はい、また来て下さい」


「また来てねー!」


 元々着ていた服はドロシーに捨てろと言われたが、勿体なくて捨てづらいと言うと店の袋に入れて渡してくれた。笑顔の二人に見送られて店を後にする。


(人は見かけで判断しちゃいけないなぁ…)


「似合ってるわよ!昔のユーリみたい」


 嬉しそうに褒めてくれる友に、ユーリは温かい気持ちになる。


「ありがとうドロシー」


 男運は無くても友達には恵まれたなぁとしみじみと思うユーリだった。

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