第4話 恋のライバル。


4時間目の授業が終わり今は昼休み。

クラスの女子はというと、中休みのたびに俺の席に来ていた。

でも、それ以上に莉子の俺への怒りの眼差しが気になった……


昼休みということで、弁当は普段なら莉子と食べるのだが、莉子は現在ご機嫌斜めなのでどうしようかと悩んでいると一人の女の子が話しかけてきた。


「明人くん、すごい見違えましたね」


「そうかな?そう言ってくれてありがとう」


話しかけてくれた彼女はクラスメイトの伊那芽衣。

アニメ好きのヲタク友達なので、今日もそっち系の話なのかと思って話しかけてきた理由を聞く。


「今日はどうしたの?何か新作アニメで面白いのあったの?」


「そ、そうなんですけど、そうではなくて……」


芽衣が恥ずかしそうに顔を赤らめて言い淀む。

アニメの話以外で話しかけてくるのは珍しいので何かあったのだろうか。

芽衣に何があったのか考えていると、芽衣が右手に持っている小さなランチバッグを俺の机の上に置いて言った。


「あの、よかったら一緒にお昼食べませんか?」


「お、お昼?」


「は、はい……ダメ、ですか………?」


予想外のことに驚いて確認してしまう。

そういえば、芽衣と一緒に弁当食べたことなかったような……

深く考えずに了承する。


「全然いいよ、どこで食べる?」


自分磨きをすると決意しても、根はやはり陰キャのアニメ好きなので趣味の話ができる芽衣との時間は居心地が良くて結構好きだ。

なので二つ返事で了承したのだが、まさか了承されると思っていなかったのか芽衣は慌てた様子でいた。


「い、いいんですか?その、茅野さんが……」


茅野……?

あぁ、俺がいつも莉子と食べてるから心配なのかな?

でも今日一緒に食べるのは少し気まずいんだよなぁ……

なんであんなに怒ってたのか未だに分からないしなぁ。

あ、でも、莉子の恋が進展してしまうとも限らないし……


どうしようかと、俺が頭を悩ませていると不意に後ろから話しかけられた。


「明人!一緒にご飯食べ……あ、えっと、伊那さんどうしたの?」


いつもみたく誘ってきた莉子だったが、どうやら芽衣の存在に気づいたらしく芽衣に話しかけた。


「そ、その……明人くんと一緒にご飯を……」


気まずそうに芽衣が言うと、莉子は申し訳なさそうに謝った。


「わ、私は邪魔だよね、ごめんね」


そう言って莉子が帰ろうとしたので、俺が芽衣に提案する。


「莉子も一緒に三人で食べるっていうのはダメかな?」


「私はいいですよ」


「本当!?ありがとう伊那さん!」


一緒に食べれることが余程嬉しかったのか、莉子は先程までのご立腹顔が嘘かのように綻んだ笑顔になった。

芽衣はあまり話したことない人と一緒に弁当を食べるのは嫌だろうけど、これが最善の案だと思ったので、了承してくれて感謝しかない。


「それじゃあ、上の階に空き教室があるのでそこで食べましょう」


そう言って置いていたランチバッグを持って教室を出る。

芽衣に俺と莉子がついていく。

少し歩くと空き教室に着いたようで、芽衣はドアを開けて中に入る。

空き教室には、椅子が五脚と長机が一つだけだった。


「ここの教室って鍵開いてたんだね?」


「鍵穴が壊れてるらしいですよ」


「へぇ~、知らなかったよ~」


莉子の疑問に答える芽衣。

二人なら、きっと仲良くなれると思うから俺が橋渡し役になろうかな?

そんなことを考えていると、莉子と芽衣が椅子に座って食べ始めようとしていたので俺も急いで座る。


「「「いただきます」」」


弁当を食べ始める。

話題を考えていると、最初にまさかの芽衣が話し始めた。


「あの、明人くんと茅野さんは付き合っているのですか?」


「「ゲホッ!?ゴホッ!?」」


突然の話すぎて思いっきりむせる。

それは莉子も同じだったようで莉子もむせていた。


「いや、幼馴染なだけだよ」


莉子がむせて声が出しづらそうだったので、俺が答える。

俺の返答を聞いて安心したように芽衣は「はぁ……そうなんですね!」と安堵のため息を吐いた。


その姿を見て何故か莉子は不思議そうな顔をしたが、すぐに分かったような顔をした。


「伊那さんって、好きな人いるの?」


また突然の質問に俺が莉子を二度見する。

芽衣は驚いた顔で自分を指差した。


「わ、私ですか……?」


「うん、いるのかな?と思って……答えにくかったら答えなくていいんだけど………」


莉子がさっきの質問の仕返しの意味を込めて質問し返したのかと思ったが、思った以上に莉子は真剣な顔をしていた。

芽衣はというと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてちらちら俺を見てきた。

もしかして、俺がいると話しづらいのかと思っていると芽衣がゆっくりと頷いた。


「は、はい……います………」


莉子は俺のほうを見た後、小さな声で何かを呟いて少し気まずそうな顔をした。俺がその答えに驚いていると、莉子は芽衣のほうを向いた。


「そ、そうなんだね……じ、実は私もいるんだ!お互い頑張ろうね!」


「は、はい……!」


今まで、莉子が俺のいる場所で好きな人がいると言ったことがなかったので、金曜日に聞いた莉子の『好きな人がいる』という言葉は空耳じゃなかったんだと少し悲しくなる。


勿論、それで諦めるわけじゃないけど……


……そっか。

やっぱり莉子には好きな人いるのかぁ……


その事実が俺の胸を痛いくらい締め付けた。

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