第5話 好きな人がモテ始めた。


授業が終わり放課後になって明人と一緒に下校する。

私の前を明人が歩く度に、明人がどこかに行ってしまいそうな気がして胸が締め付けられた。


「ねぇ、明人はさ、イメチェンは続けるの?」


朝からずっと、気になっていたことを聞く。


「イメチェンというか、自分磨きは続けるよ」


「そっか……が、頑張ってね」


「うん、頑張るよ」


気持ちを押し殺して、なんとか言葉にする。

本音なんて、言えるはずがなかった。


私は家に着くと、逃げるように玄関前に行く。


「じゃあね明人、また明日」


「う、うん、また明日」


私はそう言って玄関のドアを開けて、そのまま自分の部屋に行ってバッグを置く。


「明人、どうしちゃったんだろう…」


部屋着に着替えるとき、ふとそんな独り言を呟く。


なんで明人はイメチェンしたのかな?

単なる気分とか?

なんて、理由を考えるけど答えはもう察している。


「好きな人、できちゃったのかな………」


着替えを終えて、ベッドに横になる。

不意に涙が零れそうになった。


明人はかっこよくなった。

見違えるほどにかっこよくなって、クラスのみんなが明人に注目していた。

たぶん、明人は明日からいろんな人に告白されると思う。

そうなったら私は………


もう、明人の隣にはいられなくなっちゃう。


私が先に明人を好きになったのに……

私だけが、明人の魅力に気づいてたのに……


告白をしなかった私が悪い。

そんなことは分かってる。

分かってるけど…………


自信がなかった。

明人の彼女になれる自信がなかった。

幼馴染の関係が居心地よくて、それに甘えていた。


堪えていた涙が、私の意に反して溢れ出る。

明人にもし彼女が出来たら、私は祝えるのかな。

泣かずに、背中を押せるのかな……


無理、だろうなぁ……

私、泣いちゃう気がするなぁ……


諦めたくない気持ちはあるのに、心のどこかで諦めてしまっている私もいて……

私より可愛くて優しい子はたくさんいるから、明人ならすぐに彼女ができちゃうと思う。


そう言えるくらい、私とって明人は魅力的な最高の幼馴染。


でも私は、明人と釣り合わない。

だって私は、性格が悪いから。


今日だって明人を誰にも奪われたくなくて、明人の学校生活の邪魔ばっかりした。

明人は何も悪くないのに、イメチェンしたことで私から離れていくかもって考えて勝手に一人悲しくなって、やつあたりで睨んで。

それに、伊那さんはきっと明人のことが好きなんだろうなぁ。って、分かったら『私も好きな人がいるんだよね』って言ってけん制しちゃって……


私、ほんとに醜いなぁ……

最低、だよね…………私。


そんな人が、明人と付き合えるかもなんて夢見すぎだよね……


私はさっきまでの出来事を思い出す。


帰り道、明人はこれからも自分磨きは続けるって言ってた。

明人に「自分磨きはしてほしくない」

なんて、醜い本音を言ってしまいそうになった。


私、明人に依存しちゃってるんだろうなぁ……


明人にとっては迷惑な話だと思う。

ただの幼馴染なのに勝手に恋されて、努力の邪魔ばかりしてきて、依存されて。

このままだと私は、好きになってもらえるどころか嫌われそうな気さえする。


嫌われないためにも、私が身を引くべきなのかな……

なんて考えるけど、明人のいない私の人生が想像できなかった。


私はこれからどうするべきなのか……

それは、嫌われる覚悟で明人にアプローチする。

これが私にとっての最善策だと思う。


そうしないと、明人が誰かの彼氏になっちゃう……

そんなの絶対に嫌だ。


あと、何回明人の隣で笑えるのかな……

一秒も無駄にしたくない。

いずれ、なくなってしまう関係なら、私は最後まで諦めたくない。


明人の隣にいるのは、私がいい。

誰も明人の隣にいてほしくない。


ごめんね、明人。

私、明人のこと、好きなんだよね。

昔から、ずっと前から。

今更焦っても遅いのは分かってる。

でも、諦めたくないから。

明人の隣には私がいたいから。

私、頑張るね。


私がアプローチしたら明人にいつか言わなくちゃいけないんだよね。


明人、好きだよ。って……


私言えるのかな……?

今まで逃げてきたのに……


でも、頑張らないとね。

そうしないと、明人の彼女になれないから。

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