第3話 拗ねる幼馴染。


莉子と二人で登校し、学校に着いた。


下駄箱で靴を履き替えているときに、周りの生徒からの視線に気付いた。

そんなにワックス塗りたくったわけじゃないのに、変に目立ってしまっている気がする。特に近くの女子が俺のことを指さして話しているのが気になる……


俺が周りの視線を気にしていると、莉子が俺の袖を掴んできた。


「ん?どうしたの?」


突然の莉子の行動に意図が分からず聞く。


「なんでもないけど、絶対私から離れちゃダメだよ?」


そう言って離れないようにかさらに強く袖を掴んで教室へ歩き始めた。

俺は嬉しいからこのままでいいけど、この状況を莉子の好きな人に見られたらどうするのかな……もしかして莉子の好きな人は他校の生徒だったり……?


そんなことを考えていると、いつの間にか教室についていたようで俺は入ろうとすると、莉子が俺の袖を掴んだまま立ち止まっているせいで中に入れなかった。

クラスメイトの反応が気になるので早く中に入りたいのだが、莉子は俺に目線を合わせずに立ち止まったまま俯いてしまった。


「ねぇ、明人、本当にその姿で教室行くの?」


上を向いたかと思うと、莉子はどこか縋るような眼で俺のことを見てきた。


そんな目で見られると、まるで俺が髪のセットに失敗したかのように感じられてしまうが、家出る直前にチェックはしたから失敗はしていないはず……たぶん。


「うん、戻すにしても今更じゃない?」


もう学校に着いていて、あと一歩でドアを開けたら教室に入れてしまうこの状況で、もう今更髪を元に戻しても遅いんじゃないかな……

ここまで来たなら笑われる覚悟だけしてあとは教室に突撃しよう。


よしっ!と覚悟を決めると莉子が辛そうな表情をした後、無理に笑顔を作った。


「そうだよね、今更だよね……えっと、私の言葉は気にしないでね!明人の髪形はちゃんと似合ってるから安心して!」


そう言って莉子はドアを開けて教室に入ろうとする俺の背中を押した。

莉子の無理に作った笑顔が気になって、後ろを振り向こうとしたらクラスの女子に絡まれた。


「キミ、誰なの?うちのクラスじゃないよね?」


この人は確か、クラス委員長の秋本沙耶さんだよな……?

てか委員長に顔も覚えてもらえないくらい昨日までの俺の存在感は薄かったのかよ。

別にそこまで劇的ビフォーアフターしたわけじゃないんだけどなぁ……


俺がショックを受けていると、まるで私のものとでも言わんばかりに背後から莉子が腕を組んできた。


「何言ってるの?明人だよ!加賀明人!」


莉子の言葉を聞いて秋本さんが二度見してきた。


「えっ、この人が!?」


まったく信じられないと言った様子で首を横に振る。

もしかして、イメチェンは成功したのかも?なんて少し浮かれそうになる。

イメチェンした俺を秋本さんが観察していると、クラスの女子たちが次々とやってきた。女子からは「本当に加賀くん?連絡先交換しよ!」や「加賀くん、すごくかっこよくなったね~!」とか言われた。正直めちゃくちゃ嬉しいのでもっと褒めて!と思っていると、隣で未だに腕を組んでいる莉子がものすごい形相で俺と周りの女子を睨んできた。


莉子はいつも元気なのにこんな怒ることあったんだ……と、莉子に視線に怯えていると「はぁ」とため息を吐いた後、腕を引っ張って席に誘導してきた。


何か気に障ることをしてしまったのだろうか……

莉子の顔色を窺うと、大層ご立腹の様子で頬を膨らませておられた。

ここは黙って莉子様の指示に従おう。と、クラスの女子からちやほやされるのを諦めて莉子に引っ張られるまま席に移動する。


俺の席に着くと莉子は「座って」とだけ言ってきたので大人しく座る。

すると、莉子が俺にだけ聞こえるくらいの声で話してきた。


「ねぇ明人!私以外の女子とは話しちゃダメだからね?」


こんなに怒っている莉子を見るのは初めてで俺は言い返せずに黙って頷く。

その様子に満足したのか、莉子が嬉しそうに「うんうん!」と首を縦に振って自分の席のある場所へと移動した。


一体なんだったのだろうか……

まるで、俺がちやほやされてることに怒っているような……


まさか、莉子は俺のことが好きとか!?

って、そんなことあるはずないか。ちょっと調子に乗りすぎだな。

俺はまだ全然莉子に相応しい男になれていない。

そのためにも、これからもっと自分磨きしないとな……

そうしないと、莉子が好きな人と付き合ってしまう。

それだけは絶対阻止だ。


莉子の隣には、俺がいたいんだ。

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