第14話 アンジェラさんとの別れ

 パラスマウンテン鉱山――おっちゃんの孫娘ソフィアの居所が判明した。奴隷商人ホレイショによれば、パラスマウンテン鉱山は、ここカーナの町の北にあるという。

 しかし、これだけの情報では、少々心許ない。


 俺は情報収集の為に、奴隷商人ホレイショの店から冒険者ギルドへ向かった。


 昼過ぎの冒険者ギルドは、ごった返す朝、夕と比べると落ち着いている。俺は受付カウンターでアンジェラさんを呼び出した。


「ソーマか。どうした?」


「アンジェラさん。パラスマウンテン鉱山に行くのだけれど、道順を教えてくれないか?」


「ああ、構わないぞ」


 アンジェラさんは、特に疑いもせずにパラスマウンテン鉱山への道順を教えてくれた。パラスマウンテン鉱山は、ここカーナの町から三日の距離にある。町から北へ延びる鉱山街道を真っ直ぐ進み、ダンジョントンネルをくぐり、さらに鉱山街道を北に進んだ所にあるという。


 俺は聞き慣れない言葉、ダンジョントンネルについて、アンジェラさんに質問した。


「ダンジョントンネルって、何ですか?」


「元はダンジョンだったが、今はトンネルとして使われている。山の下を通り抜けられるのだ」


 アンジェラさんは、身振り手振りを交えて説明してくれる。

 カーナの町の北に山があり、山の麓にダンジョンがあるそうだ。ダンジョンのもう一方の入り口が、山の向こう側にあるので、山越えするよりもダンジョンをトンネルとして利用した方が早いらしい。


「へえ。ダンジョントンネルの中にモンスターは出ないのですか?」


「出ない。既に踏破されたダンジョンで、ダンジョンコアを取り外してある。だから、モンスターはわかない」


 ダンジョンコアは、ダンジョンのエネルギー源らしい。ダンジョンコアを取り外すと、ダンジョンは死に、地下迷路だけが残るそうだ。残った地下迷路にレンガを運び込み、迷路の横道を塞いであるので、迷うことはない。

 なるほど、それでダンジョンをトンネルとして利用出来るのだな。


「それで、ソーマ。何日くらいパラスマウンテン鉱山へ行くのだ? 珍しい鉱石が狙いか?」


 一通り説明を終えるとアンジェラさんは、俺の日程について確認してきた。


 どうするかな……。

 俺は適当に誤魔化そうかとも思ったが、アンジェラさんには世話になったので、この町を出ると正直に伝えることにした。


「アンジェラさん。ちょっと用事が出来てパラスマウンテン鉱山へ行くのですが、恐らく戻って来ません。町を出ます」


「そ、そうか……。残念だな……。娘も懐いていたから、この町で暮らして欲しいが、ダメなのか?」


 俺が町を出ると伝えると、アンジェラさんは驚き、とても動揺していた。女の顔で俺を引き止める。アンジェラさんは、可愛い愛嬌のある目をしているので、引き止められると俺も後ろ髪を引かれる。

 だが、おっちゃんとの約束は、果たさなくてはならない。


「アンジェラさん。ありがとう。けど、恩人との約束があるから、行かなきゃならない」


 俺が決意を込めて告げると、アンジェラさんは俺の目を真っ直ぐ見てうなずいた。


「そうか、わかった。なら、餞別をやろう。野営の道具は持っていないだろう? 私が冒険者時代に使っていたテントや毛布がある。持って行ってくれ」


「そりゃ、助かるけど、いいのかい?」


「ああ。ウチの物置に仕舞ってある。今から取りに行こう」


 アンジェラさんの家に向かった。

 アンジェラさんは、冒険者ギルドの近くにある集合住宅の二階に住んでいて、何となく良い雰囲気になってしまい、昼間なのに一戦交えてしまった。



 *



 アンジェラさんの家でゆっくりしていたら夕方になってしまった。『何をやってるんだ! 早くおっちゃんの孫娘ソフィアを探せ!』という罪悪感と、『アンジェラさんと楽しく過ごしたのだから良いじゃないか!』と言う幸福感が綱引きをした結果、幸福感が勝ってしまったのだ。すぐに行動できなかった。


 アンジェラさんから、テントや毛布など野営に使う道具が詰まったリュックサックを譲ってもらった。

 俺はリュックを背負い、見送りのアンジェラさんと町の北にある鉱山街道へ向かった。


 鉱山街道は、カーナの町の北側から真っ直ぐ延びていて、森へと続いている。舗装などされていない土の道だが、馬車が通れる程度の道幅がある。アンジェラさんによれば、森はモンスターが出ないので、夜でも通行可能だそうだ。


 カーナの町の北にある鉱山街道に到着して、アンジェラさんと別れの言葉を交していると、魔女風の格好をした女性がアンジェラさんに話しかけてきた。


「アンジェラ! どうしたの? こんな所で?」


「グリンダ! これから帰りか?」


「ええ。買い物していたら遅くなっちゃた」


 魔女風の女性は、グリンダさんというらしい。

 大きな三角帽子、いわゆる魔女帽子をかぶり、眼鏡をかけた黒髪の美人さんだ。ローブを羽織っているところを見ると、魔法が使えるのだろうか?

 だが、ミニスカートにニーハイのブーツを履いているのを見ると、冒険者ではないだろう。

 あの格好では、野外で活動出来ない。


 二人は親しげに話していたが、すぐにアンジェラさんが俺を紹介してくれた。


「グリンダ。こいつはソーマだ。これからパラスマウンテン鉱山へ向かうので、途中まで一緒に行ってくれないか?」


「私の店までなら良いわよ」


「それで構わない」


 どうやらグリンダさんに、途中まで道案内をしてもらえそうだ。

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