第29話 快斗君を追い詰めた張本人のくせによくそんな白々しい事言えるよね

 快斗君の飛び降り未遂事件が起きてから1日が経過していた。昨日は学校に救急車が来たり急遽授業が中止になって全校集会が開かれるなど学校中が騒然となった一日だったが、今日は比較的落ち着きを取り戻していて割といつも通りだったと言える。

 ただしそれは私のクラスではの話であり、快斗君とアランのクラスでは色々あったようだ。というのも私が作った飛龍ヒカルとアランの捏造キス写真が事件の発端となっているため、2人は周りから色々と疑いの目で見られているらしい。

 特にアランの彼女である佐伯美穂が怒り狂って飛龍ヒカルと教室内で朝から喧嘩を始めたらしく、クラスの雰囲気は一日中最悪だったとの事だ。まあ、他のクラスのトラブルなんて私にはどうでも良い話だが。そんな事を思いながら帰る準備をしているとクラスの友達から話しかけられる。


「エレン、辛いと思うけど元気出して」


「そうだよ、何かあったら頼って」


「……うん、ありがとう」


 励ましの言葉をかけられた私は悲しそうな表情を浮かべながらそう答えた。正直悲しいどころか快斗君を想像以上に追い詰められて嬉しい私だったが、普通の女の子は絶対そんな反応はしないため悲しむふりをしているのだ。

 帰る準備が完了した私は鞄を持つと友達に別れを告げてからまっすぐ靴箱に向かい始めたわけだが、突然後ろから誰かに話しかけられる。後ろを振り向くとそこには無表情な飛龍ヒカルの姿があった。


「如月さんだよね、ちょっと話したい事があるんだけど。屋上まで来てくれない?」


「うん、いいよ」


 無言で移動する私達だったが、屋上に着いた瞬間飛龍ヒカルから話しかけてくる。


「如月さんはどうしてここに呼ばれたか分かる?」


「多分快斗君の事だよね。飛龍さんも彼氏の快斗君があんな事になっちゃって絶対辛いと思う。私も仲の良い幼馴染だから同じ気持ちだよ」


 呼び出された理由に心当たりしかなかった私だったが、あえてしらばっくれてみる事にした。するとさっきまでの無表情から一変し、鬼のような表情を浮かべながら口を開く。


「快斗君を追い詰めた張本人のくせによくそんな白々しい事言えるよね」


「……なんだ、やっぱり知ってたんだ」


 その言葉を聞いてもはや演技する必要が無くなったと判断した私は素に戻ってそう話すと、飛龍ヒカルは激昂して私に詰め寄ってくる。


「如月さんは快斗君をそんなに傷付けて何がしたいの? 大切な幼馴染なんでしょ、全然意味がわからないよ!」


「理由なんて一つしか無いわ。それは快斗君の身も心も私だけの物にするためよ……」


 完全に頭に血が上ってしまっている飛龍ヒカルに対して、機嫌の良かった私は丁寧に理由を説明してあげる事にした。最初は興奮気味だったが、私が理由を話すにつれてだんだん表情が歪んでいく。


「……ま、まともじゃない。そんなの完全に狂ってるよ」


「ええ、あなたの言う通り。私はとうの昔に狂ってるわ、気付くのが遅かったね」


 私は理解できないと言いたげな表情を浮かべる飛龍ヒカルに対してそう笑顔で答えた。するとついに我慢が限界に達したのか私を思いっきり突き飛ばす。そしてそのまま床に倒れ込んだ私に対して馬乗りになった。


「如月さんさえいなければ快斗君は不幸にならずに済んだのに!」


 そう叫び声をあげながら私の首筋に手をかける。どうやらこれから私の首を絞めようとしているようだ。だが残念ながらそれは叶わない。首を絞められそうになった瞬間、勢いよく扉が開かれて屋上にアランと教師数人がなだれこんでくる。


「今すぐ如月さんから、離れなさい」


「……えっ!?」


 その姿を見て激しく動揺する飛龍ヒカルだったが、それとは対照的に私は冷静だった。なぜなら今のこの状況を作り出したのは全部私だからだ。私に危害を加えようとしたところを教師達に現行犯で取り押さえさせて、学校から強制的に排除するという計画もいよいよ大詰めに差し掛かっている。

 快斗君を追い詰めた黒幕が実は私であるとアランから飛龍ヒカルに暴露させたのも、話している最中に色々と挑発するような態度を取ったのも、全ては学校から排除するためだ。状況を全く理解できていない様子の飛龍ヒカルは教師達に取り押さえられると、そのままどこかへと連れて行かれる。

 しばらくしてから私達2人に対して事情聴取が始まったわけだが飛龍ヒカルはまだ頭に血が上っているらしくヒステリックに声を荒らげていた。それに対して私は淡々と事情を説明していく。勿論自分の不利になるような情報に関して私は一切喋らなかったが。


「……飛龍さんが如月さんの首を絞めて殺害しようとした件は流石に学校側としても看過できない。警察にも通報させて貰ったから飛龍さんは恐らく逮捕される事になるだろう」


 学年主任からそう告げられ、まるで死刑宣告を受けたような顔になった。まあ、校内で殺人未遂事件を起こしたのだから当然の結末だろう。すると飛龍ヒカルは私に嵌められたのだと性懲りも無く騒ぎ始める。

 しかし私の日頃の態度が良いこともあって教師達はその主張を誰1人として信じなかった事は言うまでもない。こうして飛龍ヒカルは殺人未遂で逮捕される事となり、無事に学校からも追放できたため私としては非常に満足のいく結果となった。

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