第10話・番外編:団欒。1

「ホント、読めないわー。」

机の上の本を広げる。

自室の…。

女の子部屋の自分の机で。

ある少年から他の貴族に強制上納される所にとっさに割り込んで収めた。

貴族と平民のトラブル回避は王族の役目。

その結果、今、手元にある本。

魔法の光で照らされた”星の本”著者はネブラ・アルボル・デービス。

お父様の落書き風味。

著者とは会った事は無いけど観測棟に肖像画が飾ってあるので顔は知っている。

初版で…。

早速、図書室から同じ本星の本を借りてきた。

初版と第三版を見比べて差分を書き出す。

「お父様の文字って何でできているのかしら?」

書き出した表は…。

お父様の文字暗号種類文字が多すぎる。

何か大事な事が書いてある。

幼少の時からそう感じた。

だから何度もお父様に尋ねたが教えてもらえなかった。

幼いころ泣いてクズったら。

「これは俺の書いた必要な人にしか理解できない魔法の文字なのだ…。本当に困っている人、その物事を真に理解している人にしか読めない、そんな手紙なんだぞ。」

大きな手が優しく髪に触れた。

「お、お父様はそんな手紙をたくさん書きなぐって、ひっく。誰に何を伝えるんですか?」

「実はそれほど考えていない。汎人は困難を乗り越え環境に耐えて繫栄する。そのためのレシピだ。必ずしも必要なわけではない。だが、ヒント程度の手紙だ。未来の汎人の繁栄の手助けだ。」

「お父様は未来が見えるのですか?」

「見えない、だが想像はできる。」

「どんな?」

「俺の子供達が之からも来る過酷な環境に耐えて大地を征服して空に向かうだろう。」

「お空?」

なぜ空なのか…。

あの時の強烈な疑問がこの本への違和感だ。

「ふむ、空は早いかな?まあその内…。の話だ。」

はぐらかす表情のお父様の記憶の姿…。

星の本の転記部分は完全に写し終えた。

それから久しぶり屋敷に帰られたお父様の出迎えに出る。

「「「お父様ー!!」」」

「お帰り、オットー君!!」

「ああ、すまんな。フラン、風呂は飯を食べた後にしたい。」

「わかった準備しておくー。」

走り去るお母さま。

「「「「おとーさま!!」」」うわ、くさい。」「うわー」「「うわわー」」

「おう、ちびっ子達も久し振りだ、俺は領地で汗まみれ(ぬるぬる温泉天国)だぞ。後で抱っこして(髭)スリスリしてやろう。」

「「「「いやー」」お父様本気だー」にげろー」「なんでー。」

蜘蛛の子を散らす弟妹達。

笑顔のお父様に声を掛ける。

「お父様よろしいでしょうか?」

「うむ、なんだ?エリザ」

「お父様の謂れのある本が、所有者の争いになっております。」

星の本を収納から出す。

受け取った本を半分までページを流し…。

「これは俺が譲った本だ!何故ココに在る!!」

怒気迫る声…。

さすがに怖くなる。

「が、学園で。所有者を名乗り出る者が複数現れ、私めが一時預かりとなり納めました。」

「ふーむ、下らん話だ…。むっ!誰がこの本の今の持ち主だ?どの様に入手した!!」

こんなに怒ったお父様は見た事がない…。

「バリエンテという少年と…。図書室司書委員です。」

「ばり…。」

「バリエンテ…。わたくしと同じ年頃のお父様の領地の子で魔法学園の受験生です。」

「バリエンテ…。バリエンテ…。むっ、思い出した。うーむ!!アイツこの本を手放したのか?」

声を荒げるお父様…。

「いえ…。所有権を王侯貴族と争っています。」

ここまで怒るのは見たことが無い。

「では何故ここに有る!」

「わたくしめがその場を収める為に預かりました。」

一呼吸して怒りが収まるお父様…。

「この本は我が領民の少年に正当な取引として譲渡された。」

「はい。」

正当な取引…。

お父様に正当な取引ができる相手少年…。

「この本の俺の認識できる所有者は…。わが領民の星を見るのが好きな少年だけだ。」

「はい理解しました…。」

頭を下げる。

この本の持ち主はお父様の選んだ人…。

「必ず返せ、持ち主に。」

「はい。必ずや…。」

下げたまま答える。

「ところでお父様、バリエンテとはどの様な殿方なのでしょうか?ご領地でのお役目は?」

「むっ!!」

途端に無言に成るお父様…。

何となく、お母さま達が詰め寄る光景を思い出す。

無言なお父様に尋ねる。

「何かあるのでしょうか?」

無邪気を装い首を傾げる。

「何もない!」

言い切るお父様。

初めてお父様を困惑させる事ができた?

「では…。」

バリエンテとは正当な取引相手だ。」

「はい?」

正当?取引相手…。

「だからこの本はバリエンテの所有物だ。」

「判りました。」

バリエンテが望んでこの本を手放したのなら…。実に残念だ。俺の目が無かった、それだけだ。」

「そうでしたか…。では持ち主はお父様の領民のバリエンテでよろしいのでしょうか?」

「ああ。そうだ…。待て、誰が他に所有権を名乗っている?」

あっ、声が低い。

コレはいけません。

「図書委員です。」

ごまかす。

お父様とエレノア母さんとの因縁の在る貴族だ。

向こうから言われて仲良くなった。

家同士ではなく個人的な繋がり。

相手は侯爵で私は王家を名乗る事がギリギリ許される階級…。

「蔵書印で判るだろう?」

心臓が早くなる。

巻末から捲るお父様…。

熱くなる顔を下げて胡麻化す。

なんでそんな簡単なことを忘れていたんだろう…。

「ふむ…。図書室の本では無いな。」

わたくしはダメな子です。

「はい。」

こんな簡単な事に気が付かない。

「わが領民は…。魔法学園での待遇が悪いのか?」

「いえ…。未だ数が少ないので。良い噂も悪い噂も有りません。」

そして、保護する者もいない。

「ふむ…そうであろう。まだ数が少ないが我が領地の子供達だ、良くしてあげなさい。夕食にしよう。」

食堂に進むお父様の大きな背中…。

「はい、心に誓います。」

これはお父様の命令だ。

お父様はこの少年の何かに賭けている。

「お父様の正当な取引相手…。」

お父様は自分の暗号を家から出す事は無い。

人目に触れない暗号をあの少年に託したのだ。

「この本は…。あの人の物。」

お父様は”欲しい”と願った物は全て与えてくれる。

お母さまが”暖かいお風呂が欲しいと言ったら、大浴場を作ってくれた。何年も掛けて…。”いつも自慢して話している。

そして時々風呂の調子が悪くなる。

お父様の不在が長いと直せないのであっという間に不便になる。

お父様が帰ってくると、直ぐに使える様になる。

修理が終わった大浴場を見てお母様の興奮していた。

「ほら!!こういうのは男じゃないとダメなのよ!」

ドヤ顔のお母さまが言う男…。

何でもしてくれる旦那様だ。

弟達の行動を見て直ぐに理解した。

基本、男の人は何もしてくれない。

だけど、目的を…。

目標を持った男は脇目も振らず、どの様な犠牲も苦痛に耐えて突き進む。

目標の無い男は目の前のことから逃げている。

男の人達は凄い過酷な世界に生きている。

わたしの将来の旦那様もそんな前に進む人が良い。

「速く見つけないと。」


「エリザ姉さん、夕食の準備ができた。」

弟のクロウが呼びに来た。

マルカ母さんの言付けでしょう…。

帝国の皇族である弟で長男の諸子奴隷の子のクロウ。

いきなり王宮に外国カペー帝国から皇族籍の認定書類を送られて、お父様とお母さまフランチェスカが激怒していた。

書類を受け取ってしまった国王エルネスト陛下はしどろもどろだった。

クロウは目の前の貴族と皇族の義務から逃げている。

他のと同じだ。


あの少年は何を見ているのだろう?

興味が出てきた。

「お父様の命令ですから。」

良くしてあげないと…。

「明日のお昼でも誘って見ようかしら…。」



(#◎皿◎´)敵中突破で分離した部隊を間違いなく掌握したか?

(´・ω・`)…。(ククククッ誰が転生者かな…。)お断りされた様子です。

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