第8話 ・入学式。2

カリキュラムの細かい説明や選択授業の受け方の決まりを先生が話している。

リリーさんはノートを開いて書き取っている。

他の生徒は新しい教本を開いて上の空だ。

鐘と共に午前の授業が終わる。

「昼からもこの教室。」

先生が出ていくと…。

生徒たちが立ち上がってめいめいの食事を始める。

「さあ、バリエンテ。食堂に行くぞ。」

いまいち浮かばれなかったがグラントが気合を入れてくれた。

「あ、私も。」

「リリーさん女子は…。」

「寮生ってお弁当ないのよ。」

「そりゃ僕らも寮生だから…。お弁当?」

「そう、あんな感じになっちゃう。」

朝食で出た梨とパンの半分を机の上に広げたハンカチに並べる女子生徒たち…。

「身体が持たないな。」

寮の食事は質素だ。

「でしょ…。」

「まあ食堂に向かおう。」

生徒達が合流してぞろぞろと廊下を進む…。

同じ方向、目指す先は食堂だ。

その先に生徒の一団が居た。

学校に生徒が居るのは当然だ、しかし同じ制服なのに立ち振る舞いが違う。

何でだろう?

目立つ集団だ、獣人もエルフも居る。

コレは…。

「あ、見つけたわ。」

転がるような声。

女生徒の笑顔に心臓が止まるかと思った。

「こ、コレはフランチェスカ様。」

確か男爵令嬢だった。

「バリエンテですね。探しましたわよ。」

笑顔に身体が危険を示す。

「わざわざ有難うございます。」

頭を下げる。

「あら…。貴方は私の使用人でもないので学園で頭を下げる謂れは無いわ。」

言葉の末尾が怖い。

「はっ!申し訳ございません。」

背筋がじっとりしてくる。

「はい、用件は貴方にこの本を返すわ。」

一瞬で何処かから星の本が出てくる。

「ありがとうございます!」

緊張でカクカクしながら受け取る。

「…。」

が、掴んだ本が固定されている。

そっと顔を上げると…。

フランチェスカ様がすごい嬉しそうな顔だ…。

なぜか寒気がする。

「この子がバリエンテ…。お父様の領地の子です。」

「見せて置きたい子ってこの少年?」

お嬢様の後ろの誰かの声…。

「ええ、私たちの兄弟ではないから。」

「あら?そうなの。」

エルフの少女が困った顔だ。

「こ奴、兄弟ではない。」

「間違いないです。他人です。」

白い獣人の双子幼女が肯定する。

「兄弟でないなら…。なぜ?」

重い色の金髪の少年が…。

「お父様から良くしてあげなさいという託です。」

鷹揚にはなすお嬢様。

「ああ。」

「はい。」

「バリエンテだな。」

「顔覚えた。」

納得する取り巻きの…。

そうか!上級貴族近親者の集まり…。ご兄弟か!!

「さて…。わたくしの要件は終わりです。」

良かった!解放される。

遠巻きに見る周囲の普通科生徒達からの視線が痛い。

「バリエンテさん、これからお食事ならご一緒にサロンに行きませんか。お招き…。」

サロンって何だ!?

「フランチェスカ様!申し訳ございません!新入生と授業の選択の相談があるので!!」

お断りの頭を下げる。

「あら、そう。ならばまた今度に。」

一瞬の能面の顔から笑みを零して立ち去る上級貴族の生徒達…。

絶対何か企んでる!!

居なくなるのまで頭を下げたままだ。

動けない。

他人の振りをしていたグランドが声を掛けてきた。

「バリエンテ…。貴族とは関わるなといったよな。」

「いや!ご領主様のご家族なんです!!」

冷たく言い放すグランドに言い返す。

「ええー、あの子たち貴族でもかなり上ね…。バリエンテって良いところの子?」

「リリーさん違います!ぼく猟師の息子なんです。」

「フランチェスカ…。男爵?かな女男爵でビゴーニュ。うわ…。」

腕を組んだグランドが思い当たる。

「男爵なのに偉そう。」

同じ男爵令嬢のリリーさんが言う。

「リリーさん!複雑なんです!!王国ではとっても偉い方なんです。」

リリーさんが笑顔で答える。

「そこんところ詳しく…。食べながらね?」

絶望を引きずって…。

うきうきリリーさんと難しい顔のグランドで食堂の長机の一角を確保した。

並ぶ麵料理。

リリーさんがお茶を入れる。

「えーっと、先ず、バリエンテの出身のビゴーニュの領主の…。」

三人分を並べて珍しい注ぎ方だ…。

帝国式かな?

「お屋敷の下働きなんです…。」

コレしか言いようがない。

「ビゴーニュ辺境伯というと今の国王の義理の兄弟?かな?お芝居になってる。」

グランドがお茶を受け取りながら話す。

「「お芝居?」」

声が合う、それは僕も知らない。

「王都でビゴーニュ辺境伯侯爵三男はお芝居の演目で人気なんだよ…。噂も多いし嘘も多い。」

「えー。」

「嘘?」

聞き捨てならない、ビゴーニュ辺境伯ご領主様が嘘なんて…。

「嘘みたいな話が多いんだ…。ドラゴン倒して王様の娘を嫁に要求したり。好きな娘さんと婚約するために他の貴族と決闘したり。」

「へー。よくあるお芝居の話じゃないの?」

「決闘に勝った侯爵三男が負けた貴族の親戚が戦利品の銘剣を取返しにトーナメントで賭けに申し込んだり。」

「ふーん。」

麺をつつくリリーさん。

「グランド詳しいな。」

グランドが…。

お芝居好き?

「教会のお祭りで芝居一座を王都から呼ぶんだよ…。あまり有名な所は呼べないし、聖典の演目だけでは見に来る人も少ない。」

「ああ、なるほど…。」

お祭り関係か…。

「珍しい話だと王国軍が芝居を開いたことがある。昔聞いた。」

「王国軍が?」

「ああ、街道の標識を大事にしろって話だったらしいが…。話を戻すぞ?腕っぷし自慢の王様の姫が…。ビゴーニュ辺境伯侯爵三男に決闘を申し込んで負け続けて押しかけ女房になったり…。」

「主人公が全部同じ人なの?」

「お芝居のモデルはすべて同じ人だ。熊を素手で殺して魔法でドラゴン倒すらしい。て、戦争で…。万の敵兵を倒した。」

南方に侵攻してきた帝国軍を撃退した。

「うん。その…。リリーさん。実際にご領主様は奥さんが多い。」

片手で足りない、情婦はその10倍だ。

「ふーん。」

興味が無さそうなリリーさん。

やはり女性はそう言うのダメなんだろうか?

「実際にお子さんも多い、最新の演目は…。ビゴーニュ辺境伯侯爵三男は幼少の頃に奴隷で買った娘が敵国の姫で、今まで遣って来た事、全てが奴隷に落とされた姫の復讐の為…。宿敵の王の敵国に攻め込んで、停める今の王様と敵国の大使の前で啖呵を切るんだ。」

「それって…。本当の話?」

いきなり食い気味のリリーさん。

やっぱり自国の関係には興味が在るのだろう。

ビゴーニュ辺境伯侯爵三男は…。軍人だった頃は軍学者で有名だった。お芝居の設定では。」

「ご領主様は…。確かに軍人でした、その前はこの魔法学園の教授だったそうです。短い間ですが。」

母はココでご領主様の師事を受けた。

だから僕に魔法学園へ薦めと。

「へー。で?あの男爵令嬢が何の関係があるの?」

「えーっと。」

返答に困るグランド。

「多分、ご領主様の子…王都の本妻のお子様です。」

言葉を絞り出す。

「本妻?」

「芝居ではドラゴンの皮持って国王…。前の国王に”女男爵お前の娘と結婚させろ、出来るように領地を寄越せ森で良い開拓する。”と言って女男爵に”今は無位無官だが国王に約束させた。俺は領主になる!君の為に!”って言うのが在ったな。」

「事実として…。ご領主様は…。前の国王の姫が二人も嫁いでいます。今の国王の姉と妹が…。」

之は家令と庶子の子の基本知識なので僕も教え込まれた…。

「え!!なんで!!」

混乱するリリーさんに、ここら辺は僕でも説明できる。

「姉は庶子の子で女男爵家の当主で…。妹は…。正式な姫で…。押しかけ?」

「あーなんか、頭が痛くなってきた…。」

できなかった。

「まあそうだよな、帝国の一神教で、夫婦は永遠に…。では理解できないだろうけど…。」

司祭助手のグランドが説明できない時点で僕には無理だ。

「とにかくビゴーニュ辺境伯はビゴーニュを名乗る前から軍人としてカ・ペー帝国と戦争して戦功で領地を貰い。ついに領民軍を揃えてで国王の命令に背いて帝国に勝手に攻め込んで…。帝国の皇帝を殺すと言い切った、女の為に。」

グランドが上手く三行位に纏めた。

「えー、帝国北方騒乱ってそんな理由なの…。」

他人事だ。

良かった!リリーさん、本当に良かった。

「そうなんだよ。ご領主様は…。マリーさまの復讐を果たすだけの為に領地もらって軍隊を揃えて、君の祖国に攻め込んだんだ。」

帝国の人に説明するのは非常に言葉を選ぶ。

「『うわー戦争パートの人だ…。』で。マリー様って誰?」

帝国語で何かを呟くリリーさん。

そりゃ引くだろう。

「前の皇帝の末娘…。で、今の皇帝の妹?ご領主様の奥様の一人で…。王都にいる。」

ここら辺の情報を帝国の人に話してよいのだろうか?

「敵国の跡継ぎ争いで負けて奴隷になってビゴーニュ辺境伯侯爵三男と出会って…。お芝居の話だぞ?」

「お芝居の話ばかりね。」

グランドと視線を合わせる。

言いたいことも言えないのだ。

特に帝国の人には。

「そう考えると…。さっき会った男爵令嬢の取り巻きの中にマリーさまのお子様が居るかもしれないな…。」

なぜか感慨深い表情のグランド。

お芝居の中の人だ。

会えたら…。

どうだろう?

「え、ええー『あっ、文字邪魔!』」

首を振るリリーさん。

かなり驚いている。

食事を終え、午後の授業に教室に入ったら…。

空気が変わっていた。


(#◎皿◎´)主人公なぞ居ない…。

(´・ω・`)…。(ククククッ誰が転生者かな…。)

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