第12話 チーム崩壊の危機!走れユーグ!
「ちくしょう!なんでこんなことになってんだよ!!」
俺はヘヴィメタさんが収監されている刑務所に向かって走っていた。ここ何年もやっていない長距離走だが弱音は吐いていられない。全力疾走で彼の元へ向かう。
新聞にはヘヴィメタさんがデュエルでハーピィさんに暴行を加えてケガをさせたと書かれていた。もちろん俺はこの記事が何かの間違いだと思っている。ハーピィさんを愛しているヘヴィメタさんが彼女を傷つける訳ないじゃないか。
そして記事にはヘヴィメタさんの処遇は現在審議されているがほぼ死刑で確定だと書かれていた。ふざけるな!このままじゃヘヴィメタさんは「法の裁き」とやらで殺されちまう!
20分ほど走ってようやく刑務所に到着し入口にいた門番にヘヴィメタさんとの面会を求めた。
「お願いします!ヘヴィメタさんに会わせてください!」
「近親者以外の面会は許可できない!」
「僕はヘヴィメタさんがリーダーを務めるチームドランカードのメンバーです!」
俺は身分証明に使っているカードを提示して門番に見せる。
「・・・チームの一員なら会ってもいいが、面会時間は5分だ」
「そんな!短すぎですよ!」
「規則は規則だ。例外は認められない」
ここで文句を言っていても仕方ない。限られた時間の中でヘヴィメタさんの真意を聞くしかない。
面会用の部屋に案内され席についてヘヴィメタさんの到着を待った。20分ほどでヘヴィメタさんは部屋に入ってきたが、見張りで看守が一人ヘヴィメタさんと一緒に部屋に入ってきた。ヘヴィメタさんは俺の目の前に座っているが、ガラスの壁で仕切られていて近くにはいてもヘヴィメタさんに触ることはできない。
「ヘヴィメタさん、どうしてこんなことを?」
「簡単な理由だ。連敗が続いたことをあいつがぐちぐち言ってきたからカッとなってやったんだ。・・・お前が聞きたいのはそんなことか?」
「嘘ですよ!ヘヴィメタさんがそんなことする訳ないじゃないですか!確かにここ最近はケンカになることが多かったけど仲直りできたじゃないですか!」
「お前がどう考えようと俺がハーピィに暴行したのは事実だ。神聖なデュエルで人を傷つけてしまった。俺は裁きを受けて当然の人間だ」
「・・・だいたいおかしいでしょ!?ハーピィさんは暴行されてケガしたとしても死んじゃいない!なのにどうしてヘヴィメタさんが死刑にならなきゃいけないんですか!?」
「ユーグやめろ」
ヘヴィメタさんは険しい顔で俺に語りかける。
「ここは刑務所で法に関わる人間が話を聞いてるんだ。法を否定するようなことを言ったらお前も罪を着せられるかもしれない」
確かに看守は俺たちのすべての会話を記録している。でも・・
「今は俺の心配なんかしてる場合じゃないでしょ!」
「お前はこれからデュエリストとして世に出ていくんだ。キャリアに傷を付けるようなことはするな」
「何言って・・」
「面会時間終了だ」
「まだ話は終わってない!頼む!もう少し時間を・・」
「黙れ」
「くっ・・離せ!離せーーーーー!!!」
俺は看守に羽交い絞めにされて無理やり部屋を追い出された。
結局確信めいたことは何一つ聞き出せなかった・・・。だが俺は諦めない。まだヘヴィメタさんを救う方法があるはずだ・・・・・!
俺は犯行現場とされているチームドランカードの事務所の入り口前に来ていた。犯行は昨日の夜に二人の口論から始まりやがてデュエルに突入し暴行に至ったらしい。だが建物の壁や周辺の地面に破壊の跡は見られない。デュエルで相手を傷つけるならデュエリストだけじゃなくて周囲にもダメージが及ぶはず。
「おい貴様!ここは立ち入り禁止だ!」
「ここで暴行事件が起こったんなら破壊の跡がどこかに残るはずでしょ!なのにどう見ても昨日までと変わってない!やっぱり事件なんて起こってないはずだ!周辺の建物の住民に聞き込みをしてみてください!目撃してる人なんていないし悲鳴や爆発音も聞いてないはずです!」
「何を言おうと被疑者も被害者もはっきりと証言しているんだ。今更何を疑う必要があるんだ」
「この税金泥棒がぁ!!まじめに仕事しろ・・」
くっ!・・・・・腹に激痛が走る・・・・・どうやらこの警官に腹を蹴られたようだ・・・・・
「今の発言は侮辱罪だが今回は蹴りだけで勘弁してやる」
「・・・ちくしょう・・・」
腹の痛みはなかなか癒えないがそんなこと言ってる場合じゃない。俺はハーピィさんの住居に向かったが中には誰もいない。彼女の周囲に住んでる人に聞いて回ってようやく「チームグリード」の所にいるとの情報を掴んだ。このチームも俺たちと同じくプロのデュエルチームで、実力はあるが対戦相手を度々罵倒する発言が見られる素行の悪いチームだ。そしてチームドランカードに強い嫉妬心を持っているチームでもある。ハーピィさんはどうしてあんな奴らと一緒にいるんだ・・・。
暗くてじめじめしたダウンタウンのような所にチームグリードのアジトはあった。周りには俺を睨みつけるギャングのような男たちがいたが、俺は無視して建物の中に入りハーピィさんと話していた。ハーピィさんの手足には申し訳程度に包帯が巻かれていたが、俺には彼女がケガをしているようには見えなかった。
「ハーピィさん、今からでも遅くない。真実を告発してください!」
「・・・どういうことかな?」
「俺にはわかってますよ。ハーピィさんもヘヴィメタさんも嘘をついている。本当は事件なんか起こってない!全部あなたたちのでっちあげなんだ!あなたはチームグリードに脅されて仕方なくヘヴィメタさんを罠にかけた。見返りにチームグリードに入れてくれると言われたんでしょう。・・・・・ヘヴィメタさんはあなたがデュエリストを続けられるなら罪を引っ被ってもかまわないと思ってこの話に乗った。全部あなたを愛してるからこそだ!ハーピィさんは本当にいいんですか!?このままじゃヘヴィメタさんは死んじゃうんですよ!?」
「・・・・・仕方ないのよ・・・私にはデュエリストの才能なんてない・・・それでもデュエリストを続けるためにはこんな方法しかないの」
「今のハーピィさんは弱ってるところを付け込まれてこいつらに利用されてるだけなんです!!ハーピィさんはこんなことができる人じゃない!
・・・・・あなたは誰よりもチームの絆を尊重してた。俺がデュエルで負けてヘヴィメタさんに説教された後いつだって俺を励ましてくれていたじゃないですか・・・。あなたのデッキは
二人で話していた部屋に急に一人の男が入ってきた。チームグリードのリーダー「ザルーグ」。こいつがチームドランカードを崩壊させた元凶・・・
「あんただろ?ハーピィさんにこんなことさせたのは」
「なんのことだ?」
「とぼけるな!お前がドランカードを妬んで事件をでっちあげたんだろ!」
「いいがかりはよくねぇなユーグ。それよりもハーピィはもうチームグリードのメンバーだ。部外者が余計な話をしないでくれないか。最もお前も俺らのチームに入るんなら別にいいけどな。お前が入ればチームグリードは最強だ!だははははは!!!」
「お前らのチームに入るなんて死んでも御免だ!この真実を全部警察にぶちまけてやる!お前らのチームは破滅するぞ!」
「なんだ脅しのつもりか?証拠もないのになにかっこつけてんだよ?ふぅん・・それに万が一お前の話が全部本当で警察に告発できたとしても俺らだけじゃなくてハーピィも地獄に落ちるだろうよ」
確かにそのとおりだ・・・。ハーピィさんは奴らの入れ知恵とはいえ実行犯の一人。ヘヴィメタさんを犯人に仕立て上げたことに変わりはない。これを告発すればハーピィさんも神聖なデュエルを穢した罪で「法の裁き」とやらで殺される。
「なぁ?俺らのチームに入った方が利口だぜ?どうせお前もいくとこないんだろ?」
ザルーグはハーピィさんの腰に手をまわしていた。ハーピィさんの曲線美に・・・
「なめんじゃねぇ!お前みたいな犯罪者がいるチームには入らない!俺が帰るチームはドランカードだけだ!!」
「そうかそうか、もう勝手にしな。もっと話が分かる奴かと思ってたがな」
俺は荒々しくドアを開けてここから出た。
外に出ればあたりはすっかり暗くなっていた。今朝からずっと走りっぱなしで体も心も疲れ切っている。
この街は狂ってる・・・何の罪のないヘヴィメタさんが裁かれて、ハーピィさんの心に深い傷を負わせて、こんな悪魔のようなシナリオを作り上げたザルーグが高笑いをしている・・・・・
俺は今になってデュエルに支配された「ドミネイト」の異質な磁場を感じて震えていた。
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