第13話 無力

「よし・・・・・準備完了だ・・・」

俺はヘヴィメタさんを助け出すためにある計画を立てた。計画なんて言ってもデュエル漬けの生活をしていた俺の浅知恵じゃ思いつく策なんてたかが知れてる。

 一旦自宅に戻って準備を進めて深夜になってから行動に移す。これからやることを考えたら方が成功率が上がる。



 俺は再び刑務所に来ていた。これから俺がやろうとしていることは間違いなく犯罪だが、もう手段にこだわっている場合ではない。全身黒づくめで覆面を付けて目立たないような恰好をしているが細心の注意を払い門番に気づかれないよう刑務所の敷地の裏手に回り事前に用意しておいた時限爆弾を15分後に起爆するようセットした。本当に狂った街だぜ・・こんなものが街はずれの闇市に行って金を出せば身分証明もせずに簡単に手に入るんだからな。俺は再び刑務所の入り口に向かい門番に気づかれないよう少し離れた所で起爆時間を待つ。


 起爆まであと5分か・・・思ったよりも時間に余裕があるな。こんなことが世間にバレたら俺はもうデュエリストではなくテロリストだな、なんて自嘲した。両親やエリアルやクロス先生の顔が頭に浮かぶ。もし俺が犯罪者として警察にマークされたらもうあの人たちには会えないな・・・・・

この期に及んで俺は迷っているのか?じゃあヘヴィメタさんを救い出すのは諦めて一人でプロデュエリストを目指すか?・・・・・そんなこと・・できない・・・!


起爆まで残り30秒。俺は荒ぶる動悸を抑えるように深く深呼吸をする。ここはヘヴィメタさんらしくあの掛け声で自らを鼓舞しようじゃないか。俺は看守に聞こえないように小声でぼそぼそとつぶやく。

「3・・2・・1・・ファイア!」

時限爆弾が起動して刑務所の裏手が炎と轟音に包まれる。

「なんだ!どうした!!」

予想通り門番が様子を見るために入り口前から離れた。彼の姿が見えなくなるのを待ってから俺は刑務所の中に侵入する。

 刑務所内はけたたましいほどのサイレンが鳴り響いているが看守たちはさっきの爆発で混乱している。警備が手薄なことは明白で俺はすんなりと牢屋が並ぶフロアに到達する。看守は一人もいないがそれも時間の問題だ。急いでヘヴィメタさんを見つけなければ・・・

「そこのお前!!何をしている!?」

まずい!見つかったか・・・

「どけ!今はお前にかまってる暇はない!」

「さてはこの爆発騒ぎはお前の仕業か!おとなしく捕まれ!」

看守は俺の方に向かってくる。俺の邪魔をするなら容赦はしない。

「行け!《虹彩騎士こうさいきしーダークナイト》!!」

カードからモンスターを召喚し応戦する。漆黒の剣を持ったダークナイトが嘲笑を浮かべながら看守を切りつける。

「ぐわーーー!!!」

看守は気を失ってその場に倒れた。殺してはいないがしばらく動けない程度に痛めつけてやった。

 鉄格子の中にいる奴らを一人一人物色しながら俺はようやくヘヴィメタさんが入っている牢を見つける。

「ヘヴィメタさん!今すぐここから出ましょう!」

「ユーグ!・・・お前なんでこんなことを・・・」

「今は話してる時間はない!」

俺はダークナイトの斬撃で鉄格子を壊そうとしたがヘヴィメタさんはその場に立ったまま動こうとしない。

「ぼさっとしてないで鉄格子から離れてください!!」

「・・・・・ユーグ、俺は言ったはずだ『キャリアに傷を付けるようなことはするな』と・・・俺にかまうな」

「馬鹿言ってないで・・」

「いたぞ!あそこだ!!」

看守が二人俺たちの方に向かってきた。くそっ!!邪魔しやがって!!こうなったらもうこいつら殺してでも・・

「早く逃げろ!これは俺と・・・ハーピィの問題なんだ!お前には関係ない!」

「ふざけないでください!俺もチームの一員でしょ!?」

「・・・・・ここでお前が捕まったらエリーちゃんはどうなる!?・・・お前はあの子を犠牲にするのか!?」

「くっそぉ・・・このわからず屋!!!!!」

俺はヘヴィメタさんを置いてその場から逃げ出した。



 俺は全力で看守たちの追走を振り切って刑務所を後にした。覆面で顔は隠していたから襲撃犯が誰かまでは看守たちにはわからないかもしれないが時間の問題で俺も逮捕されるかも・・いや、もうそんなことはどうでもいい。

 結局感情的になってヘヴィメタさんを見捨ててしまった。だがまだあの人を助け出す方法はあるはずだ・・・考えろ・・・

 この事件の証拠を自分で集めて警察に告発する。俺が現場で聞き込みをすれば証拠がでてきてこの事件が嘘だとわかる。だがこれをやればハーピィさんが裁かれる。

 なら示談金を積んでこの事件をもみ消すように頼んでみるか?俺もファイトマネーが貯まって少しは貯金があるしエリアルの両親は大金持ちだ。奴らが黙秘するくらいの大金を用意できるはず。ああいう頭の固い連中は金で脅せば・・・・・何を考えているんだ俺は・・まだエリアルと結婚もしていないのに彼女の両親の世話になるなんて図々しいにも程がある。それに事件をもみ消す協力をしてその事実が世間にバレれば俺だけじゃなくエリアルの両親もタダじゃ済まない。犯罪を幇助ほうじょしてデュエルを冒涜ぼうとくしたとか言われて下手をすれば死刑になるかもしれない。

 ・・・だったら俺が裁判に乗り込んで裁判官とデュエルをするか?勝てばこの裁判をなかったことにする交換条件を出せば奴らも納得するはずだ。ここはデュエルに支配された街ドミネイト・・・どんな荒事だってデュエルで勝てばなんでも解決できちまうんだ・・・だが俺の実力で本当に勝てるのか?もし負ければ俺だけじゃなくて近親者である俺の両親まで裁きを受けることになるかもしれない・・・・・

「ふふ・・・はは・・・あはははははははは!!!!!」

まったく俺って奴は・・・ヘヴィメタさんを救うとか言っておきながら少しでも自分や他の人間が被害をこうむることを拒んでる。誰かを救うとか大層なこと言って本当は自分が助かりたいだけじゃねぇか・・・!


 ヘヴィメタさんを救いたいのは結局俺があの人に依存してるからだろうが!自分一人でデュエルを極める自信がないからあの人に甘えて頼って責任を押し付けてるだけだろうが!そんな他力本願野郎が誰かを救えるわけないだろうが!

 

 何が努力だバカバカしい・・・そんなものあの人を助けるのに何の役にも立っちゃいない・・・俺は今までなんてくだらないことをやってきたんだ・・・


 俺はデュエルに支配されたこの街が大嫌いだ。俺はヘヴィメタさんを死に追いやったデュエルが大嫌いだ。俺は恩人一人救うことができない無力な自分が大嫌いだ・・・・・。

 


 







 

 


 

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