夜の繁華街

「刑事さん、アポ取った。一旦帰ろ」


 スキップしながら狂はその場を動くと剣先が「おい」と呼び止める。


「腕どうした?」


「ん?」


 そういえば、ヒリヒリするな、と狂は右腕に目をやると大胆に手首から肘まで裂ける服。爪で引っ掛かれたような三本傷があり、血がジワりと滲み出ていた。


「おかしいな。特に引っ掻けたりしてないんだけど……」


 腕を見るや出血を止めようと強く手で圧迫。恐がらす、痛みすら鈍感なのか。狂の落ち着きある行動に剣崎は感心しつつも、ハンカチ使え、と差し出す。

 コンビニで手当て出来るものを買い、治療しつつ狂は何か気になることがあるのか。ボーッと走る車の景色を眺める。


「狂、とりあえずお前を俺の家に送る。俺は署に戻る。あとで合流しよう」


 剣崎の堅苦しい口調がほんの少し崩れる。ゲームでいう信頼度が上がったか。


「そういや、なんでオレがホテルを出ると知ってたの刑事さん。場所とか言ってないのに」


 運転の邪魔しないようさりげなく声かけるとフッと鼻で笑られる。


「お前の行動を見てれば分かる。しかも、不定期収入でインスピレーション関係となれば殺す時期に乱れがある。“普通の殺し屋”にしては使い勝手が違うからな。それに、俺は基本家には戻らない。作品はアトリエで。“それ“を守ればいい。近所に迷惑かけるなよ」


「あーい」


 我が子のように言い付けられ、躾られているような感覚は何年ぶりだろうか。懐かしい感覚に狂は視線を下に微笑む。



 ――なんか父親みたいなこと言ってる――



 剣崎本人は気づいてないらしいが狂は何気嬉しかったのだろう。


「まぁ、気を付けるよ。家事とかそこら辺を含めて」


 冗談交じりの言葉に珍しくハハッと剣崎が声出し笑った。



 二人は別れ、各自時間を過ごす。

 街は闇に染まり、繁華街に光が灯る。



 深夜帯。

 客がいないのに何故か繁華街にある所々の店にほんのりと明かりが灯っていた。変な場所だな、と改め二人は繁華街にやってくると狂は犯罪の勘からとんでもないことを言う。


「変な場所じゃない。なるほどね、此処アレだよ。裏関係の店が集ってる隠れ繁華街なのかも」


「なるほどな。確かにそうだな」


 たまたますれ違う人は普通の人とは何処か違う雰囲気を放ち、見かけない彼らに対して殺気が飛び交う。長居は良くないかも、と狂は小走りでブラッドの店に向かうと来客がいるのか声が聞こえる。楽しげな話にしては乱暴かつ怒鳴り声。


「貴方とは話したくないわ。消えなさい」


 その不快な言葉にもしや――と狂は空気読まず入るとカニバルの姿。


「あぁ、来ましたか。待ちくたびれましたよ、青年くん」


 頬を叩かれたのか赤く腫れ、ニコッと笑うカニバルと腰に腕を当て怒っているブラッド。


「あーごめん。出直すわ」


 異様な空気に回れ右をするも剣崎が邪魔し、お前がタイミング見ずに入ったんだろ、と叱られ向き直る。すると、カニバルが何かを二人に伝えようと彼にしては荒い口調で言う。


「このババァ・・・が青年くんの血が気に入ったようで数時間前に電話が来ましてね。こう言ったんですよ。

『久しぶりに可愛い男の子が来たから、血を体から抜いて貴方に残骸送りつけるわ』って。まさかまさかと思いまして来てみたらビンゴ。殺されなくて良かったです」


「ん? オレ、殺され確定だった?」


「はい、人殺して血を舐める癖あるでしょう。それが彼女の性癖にヒットしたらしいので殺されぬよう文句ついでに説教しようかと思いましてね」


 ンフフッと笑うや冷える空間。


 仲良さそうで悪い二人。その関係が狂には”彼氏と彼女“に見えたようで――「カレカノみたい」と言うと場が白ける。


「このバカ。その口どうにかならんのか」


「えへへっ無理」


 剣崎の言葉の矢が狂に刺さるもブラッドの機嫌を損ねたのだろう。ワインの瓶が飛んで来た。

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