女性血液(ワイン)販売店

 車を飛ばし、狂が不器用に道案内しながら向かわせたのは駅近くにある繁華街。不動産、飲食店、パチンコ、電気屋と沢山ある店の中にひときわ目を引く店。


『ルヴァン』と記されたネオンの看板。


 見た目は木製の古そうなテ雰囲気だが大きなショーウィンドウにはワイングラスやレプリカのワインがズラリと並ぶ飾り方にワイン屋としては珍しい。

 此処か、と剣崎はスーツに乱れがないか確認し入ろうとドアノブを掴む。狂も付いていこうとしたが「此処からは大人の話だ」と邪魔してくると思ったのだろう。待て、と犬のよう言われる。


「分かった。そこら辺うろついてるよ」


 真剣な剣崎の眼差しに負け、渋々その場から離れるも狂は静かに店に視線を戻す。刑事さん、絶対聞き出せないだろう。そんな気がしてならなかった。


 彼が出てきたのは数分後――。


 不機嫌な顔に聞かずとも分かる。

 上手くかわされたのだろう。


 人目気にせず歩道に座り、コーラを飲む狂の前で立ち止まるや酷く深い溜め息。なんなんだ、あの女。見た目綺麗なくせして頑固な奴、と悪態が次々と漏れ、知らぬ間に狂は耳を貸す。

 殺してないだと。やはり証拠が必要か、と考え込む剣崎に飲みかけのコーラを狂は押し付け、仕方ないなと立ち上がった。


「オレ、聞いてくるよ。裏だと分かれば話してくれるだろうし。ついでに買い物もしてこようかな」


 と、少し小馬鹿にするよう口を開くと鋭い視線に小走りで店内へ。


「あら、いらっしゃい。ようこそ、ルヴァンへ」


 入るや出迎えてくれたのは普通のワインやとは違う赤くも黒いゴシックに身を包んだ女性。肩から手へとレースがほどよく露出を控え、美しさと怪しさをほんのりと漂わせる。人にしては少し白い肌に黒く長い髪の毛と赤い瞳。十センチほどのハイヒールを履いているか。狂よりも高い。


 店内も彼女同様、酒屋としてはゴシックな雰囲気が強く不快な匂いはない。ワインの独特な香りが店内に漂う。


「可愛い坊やね。さっきの刑事よりは好みだわ。弱そうで筋肉がなさそうで。独り言よ、気にしないで」


 真っ赤な唇を舐め、スタイルの良さを活かすナイスなモデルフォーク。軽く屈み親切に視線を合わせてくれた。


「何がお求めかしら?」


 女性の愛しそうな目に苦笑いしつつ本題をぶっ込む。


「人間の血で絵を描きたくて。赤でもいろんな赤が欲しいからオススメないかな」



 “ワイン”を“血”。



 ――という狂に目を丸くする。


「裏の子ね。いい度胸じゃない、日中から堂々と買いに来るなんて。普通なら夜に買いに来るでしょ。おバカさん」


 少しからかわれ、続けて。


「深夜帯に来なさい。準備しておくわ」


 ウィンクと投げキッスされ、表向き照れる狂だが実は吐き気がするほど嫌で我慢。


「私はブラッド。血が好きだからそう名のってるの。ぞくぞくしない? ヌメッてサラサラしてて、舐めるとガツンと来るあの鉄の味。あぁ、たまらないわ。人によって味が違うから癖になるのよ」


 ブラッドは自分の胸に手を当て興奮しているのかゆっくり下へやり股に触れる。


「貴方も好きなの?」


 色気ある声に性的な何かを察した狂は「いや」と冷たい態度で返す。そして、「また来ます」と急いで店を出た。


「あーら。つれない子。でも、私好みだわ」


 狂が気に入ったのだろう。ニヤリと笑いながらペロッとの付いた指を舐めた。

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