殺しは麻薬

「ごちそうさま」


 手を合わせ、美味しかった、と笑顔。そんな狂を剣崎は面白くなさそうに見つめる。


「で、剣崎刑事。どうやってそれ作ったの? それを話したくてムズムズしてんじゃない」


 足でわざと刑事の足を貧乏ゆすりのように蹴り付け、早く早く話してよ。剣崎刑事、とそんなノリでいると「ついてこい」と低い声で言われ、スキップしながらついていく。

 たどり着いたのは近くの立体駐車場。警備員に番号と車種を伝え、車が来るのを待っていると剣崎が車のキーを指で回す。


「お前に憧れて作ったんじゃないからな」


「へ?」


「嫁が……教会にあるマリア像のように綺麗に見えてな。別に関係が悪かった訳じゃない。DVとかそう言うわけでもなく単に――(小さな声で)殺したくなった・・・・・・。ホテルで結婚記念日かを祝ったら挙式で着たウェディングドレスを纏ってな。照れ臭そうに“綺麗”ってそりゃあ綺麗に決まってる。歳を取っても、老けても――心から愛した愛しき人は美しいままだ」


 何処か悲しそうな声で楽しげに話す剣崎。狂は情緒不安定なのかな、と空を見上げ静かに聞く。


「相棒の件があるんだろうな。誰かに殺されるより、死神が命を狩る前に――綺麗なまま保存したかったんだろ・・・・・・


 それは悪なのか、善なのか。

 どっちが言っているのか分からない。


 だが、何となくだが共感する。


「“死は救済”ってこの世が苦しくて死にたい人が言うけどオレは刑事さんに一票かな」


 ハッと笑い、さりげなく刑事の腕に寄り添うように身を寄せる。目を閉じ、ボソボソと呟く。


「“死こそ芸術。死は美しい”

 誰かに殺されるよりも、死が命を食らうより。自らの手で下した方が何倍も美しく輝く」


 狂の言葉に俯き、苦しそうに頭に手をやっては「やめろ」と苦しげな声。


「堕ちたら? オレは喜んで手を貸すよ。戦闘向けじゃないから刑事さんが味方についてくれるなら大いに歓迎だね。それに、あの写真――オレに見せるためのじゃなくて“映え”狙ったんじゃない?」


 その言葉に押し黙るや剣崎は顔を背ける。それを面白がるように狂は剣崎の裏のSNSプロフィールを開くと投稿された写真に目を向け言う。


刑事さんso-doさん、噂だとかなり上位者らしいじゃん。プロフィール拝見したよ。鍵垢のクセにメチャクチャ写真あった。残酷に殺すにしては静かな殺しが好きなのかなぁー。良いのかなぁ。世の中の正義の味方さんが殺しに手を染めて。しかも、かなりの腕前。笑っちゃうねぇ。ねぇ、剣崎けいじぃ」


 車がエレベータから顔を出し、歩き出す剣崎を小走りで追いかける。助手席に乗り、話し足りないかお得意なマシンガントーク。


「作り方、なんとなくだけど分かる。

 毒殺か、睡眠薬で弱らせて背後から襲ったんじゃない。なるべく表に傷が付かないように背中を傷つけて水を赤く染めて――違う?」


 答え合わせしてくれるかな、と期待しているとバタンッと不機嫌にドアを閉める剣崎にプッと笑うや頭を叩かれ、一瞬静寂が包む。エンジンを掛け、言葉吐き出すよう強く言う。


「次、俺の機嫌を損ねることを言ったら殺すぞ」


「ウケる。欲に負けて奥さん殺したくせに」


「煩い、黙れ!! 忌々しい!!」


 剣崎が狂ではなく自身と葛藤しているように見え、大変だねぇー剣崎刑事、とニヤリと笑いダッシュボードに足を乗せる。


殺しは麻薬・・・・・。一度やったら止められない。

 あぁー楽しいなぁ。ゾクゾクする。こんなに嬉しいことないよ。オレも殺されるなら剣崎刑事さんがいいなぁ。あー楽し。楽しすぎて“誰か”殺したいなぁ。刑事さん、オレとデート・・・しよ」

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