第十六話 結婚式会場

 都会のど真ん中のビルに、高級なホテルが建っている。

 名前は誰でも聞いたことがあるほど有名で、そこの最上階にチャペルがあるらしい。


 今はキャンペーン中なので、試着が無料だとか。

 とはいえ俺たちは高校生。冷やかし当然なので入れるかどうか……。


「どうして止まってるの? 律、行こうよ!」

「はい。もしかして……嫌でしたか?」

「あ、いや!? ……緊張してただけだよ」


 そんな不安を抱えながらも、俺たちはコンシェルジュが大勢いるホテルに足を踏み入れた。


 ◇


「どうぞ、こちらが当チャペルで試着できる商品となっております!」


 黒のタイトスカート、髪はビッチリとロールアップしている大人のお姉さんが、笑顔で俺たちにウェディングドレスを見せてくれた。

 楽々は興奮して駆け寄り、沙羅でさえも感激して声を漏らしている。


 ふと視線を横に向ければ、ガラス張りなので外が見えていた。

 ここは四十階の試着室で、チャペルはもう一つ上の階にあるらしい。


「すごーい! 楽々、見てこの服すっごい可愛くない?」

「そうですね、この純白なんて普通のお洋服で見たことがありません」


 ここまで大興奮で話す二人を見るの初めてだ。

 俺も感激していないわけではないが、やはり女の子にとっては特別なのだろうと思い知らされる。


 その横では、先ほどのお姉さんが丁寧に説明していた。


 というか、なぜ気づかなかったんだろうか。

 このキャンペーンはSNSに投稿することが必須。


 つまりハッキリ言えば、楽々と沙羅が断られる確率はグッと低くなる。

 

 二人はモデルと遜色ないほど目鼻立ちが整っており、更には一卵性双生児の姉妹。


 これほどSNSに向いている二人もいないだろう。

 実際、道端で何度もスカウトから声を掛けられたことがあると聞いたことがある。


「ねー! 律! 止まってないでこっちきてよ!」

「そうですよ、律くん!」

「は、はい!」


 心なしか、いつもより沙羅の圧も強い……。


 二人は満面の笑みで、次々とウェディングドレスを見ていく。

 そのうちの一つを手に取ると、楽々が大きく広げて俺に見せてきた。


「これ何かどうかな?」


 所謂オーソドックスな雰囲気で、奥ゆかしい感じだ。

 綺麗な純白で、両腕の部分が透けている。

 こういったらなんだけど、ちょっとだけ意外だった。


 けれども、もの凄くかわいい。


「いいんじゃないかな? 似合ってると思う。それに、見てみたい」

「えへへ、じゃあ……こちらお願いできますか?」


 はい、もちろんですよ。とお姉さんがニッコリと返す。

 どこかに連れて行かれる楽々を見ていたあと視線を戻すと、沙羅が一つのウェディングドレスを見て固まっていた。


 これもまた意外で、少し肌の面積がよく見れる大人の雰囲気があるドレスだ。

 透け感もあるが、スタイルがしっかりと浮き出るようなラインが作られている。


 その表情は悩んでいるというよりは、恥ずかしがっている気がした。


「凄い綺麗なドレスだね」

「そ、そうですか!? ちょっと……私にしては大人すぎませんか?」

「そんなことないと思うよ。沙羅なら似合うと思う」

「そう言ってもらえると、なんだか勇気が湧いてきました。ふふふ、楽しみにしててくださいね」


 いつもより少し小悪魔な笑い方で、沙羅は楽々を追いかける。

  

 その後ろ姿を見ていると、自分が笑っていたことに気づく。

 初めは怯えていたくせに、どうやらもの凄く楽しみらしい。


 何処に座って待っていようかなと思ったら、別のお姉さんに声をかけられた。


「千堂律様、お待たせしました。どうぞこちらへ」

「……え?」


 ◇


 エレベーターでチャペルに移動。

 扉が開くと、そこにはテレビでしたみたことがないような光景が広がっていた。


 真正面にはステンドグラスが七色に輝いていて、左右は前面ガラス張りで青空が見えている。

 試着だけだと思っていたが、どうやら実際にチャペルで撮影が出来るらしい。


 少し長い椅子も、色とりどりな花も、まさに結婚式に相応しい風景だ。


 少しぎこちなく歩くと、後ろから扉が開く。


 現れたのは、純白なドレスに身を包んだ、楽々と沙羅だった。


 同時にBGMが流れる。大人のお姉さんがニッコリと笑っている所を見ると、そういうサービスなんだろうか。


 楽々のドレスは胸元が少し透けているものの、肩から手にかけてしっかりとドレスで覆われている。

 腰から足にかけてふわりと白で覆われ、俺が想像するウェディングドレスという感じだ。

 

 純粋な雰囲気と、楽々のいつものイメージがいい意味でマッチングして、心にグッとくる。


「ど、どう……?」

「すっごく……綺麗だ。びっくりした」


 髪型もセットしてくれたらしく、ロールアップされていた。

 少し前髪に触れながら、楽々が頬を赤らめながら言った。


 その横、沙羅が近づいてくると、ドレスの背中が空いている事に気づく。

 きめ細かい白い肌とドレスの純白がマッチして、ものすごく大体なドレスに見えてきた。

 

 けれども、やっぱり奥ゆかしさもあって、大人のお姉さんな色っぽい感じが演出されている。


 そしてその表情もまた、色気があった。


「どうですか? 少し……大胆すぎますかね?」

「そんなことないよ。ものすごく……可愛い」

 

 いつもの雰囲気とは反対のドレスに、俺の心臓は高鳴りっぱなしだった。

 そして写真撮影に移ろうかと思うとき、楽々と沙羅の視線が俺を見て離さない事に気づく。


「どうしたの? もしかして……変?」


「……いや、かっこよすぎるでしょ……サプライズ過ぎてびっくりした」

「そうですね。私も言葉が出ないです。律くん、なんだか大人に見えます」


 かくいう俺も黒いタキシードに身を包んでいた。

 お姉さんに案内されて、着せてもらったのだ。少し恥ずかしいが、髪型もオールバックにしている。


「ちょっと、たまにはその髪型にしてよ。学校で騒ぎになりそう」

「女性は放って置かないでしょうね」

「言い過ぎだと思うけど……」


 そうして俺たちは、更にお姉さんたちに何度も何度も褒めらて撮影を終えた。


 データはもちろんのこと、後日郵送で写真も送ってくれるそうだ。


 突然決まったことだが、最高の思い出になった。


 ◇


「いや―楽しかったね! もう一度行きたいくらい」

「そうですね、私も同じ気持ちです。それに律くんにも驚きましたし」

「そう言われると恥ずかしいけど、嬉しいよ」


 そして二人は、すぐにデータを誰かに送信していた。

 ふふふ、えへへ、と笑っていたが、一体誰に送ったんだろうか。


 心配のような、恥ずかしいような。


「それじゃあ帰ろうっか? 旦那様」


 突然、楽々が俺の腕を掴んだ。実はさっき写真撮影でも、腕を組んだのだ。

 それも、楽々と沙羅が両腕に。


 俺が恥ずかしがっていると、更に沙羅まで。


「そ、そうですね。い、行きましょう!」


 耳の裏まで真っ赤っかだ。恥ずかしいのは俺も一緒だけど……。


「行くよー律!」

「……はい、行きましょうね律くん」

「同級生に見られたら命が無くなりそう……」

 

 


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