第十七話 イメチェン
結婚式から数日後、といっても実際にしたわけじゃないけど、学校で二人の花嫁姿が認知されてしまっていた。
なぜかというと、キャンペーン適用のために必須だったSNS投稿がバズりにバズったのだ。
イイネもコメントもすさまじく、楽々と沙羅はアカウントを持っていないので、どこのモデルですか? と質問がチャペルに殺到しているらしい。
そしてなんと……。
「この人、どこかで見たことあるんだよなあ」
「へ、へえー? そうなの?」
「この目とかさ、誰かに似てないか?」
「ど、どうだろう?」
教室で向かい合わせに座っている修が、SNSの投稿と俺の顔を交互に見る。
写真には、ウェディングドレスの楽々と沙羅が、俺の両腕を掴んでいるのだ。
そう、なぜか俺もバズってしまっている。
もちろん二人のおかげでしかないと思うが、オールバックが想像以上に似合ってくれていたらしい。
いつも仲良くしている修も気づかないとは、髪の印象ってのは凄い。
「うーん、このホクロの位置とか見たことあるな」
完全に一致している頬のホクロ。
同一人物なんだから当然なんだけど、修がまじまじと見てくる。
「りっちゃんに似て……似て……似てないような似てるような……」
「あはは、あははは、そういえば昨日のアニメ見た?」
「ん? ああ、見たぜ! 最高だったな!」
ホッと胸を撫で下ろす。
修、ごめんね。今はその天然な感じがとっても愛らしいよ。
◇
「ここかな……?」
スマホの地図と、目の前の美容室を見比べる。
どうやら合っているようだ。
今までは理髪店、もしくは千円カットしか行ったことないので、こんなおしゃれな外見に緊張する。
予約はもう済んでいるので、名前を伝えるだけ。
なぜここに来たかったかというと、素直にもっと変わりたいと思ったからだ。
もちろんワックスを付けたりはしていたが、まだまだ勇気が出なかった。
通いなれた床屋のおじさんに別れを告げ、扉を叩く。
「いらっしゃいませ~!」
「あ、ええと、予約していた千堂律です」
ニッコリと満面の笑みで現れたのは、ギャルっぽいお姉さんだ。
指名はしていないので、もしかして今日の担当なのだろうか。
ロッカールームに服を入れると、まるでおしゃれな服屋さんのような風景が飛び込んでくる。
「すごい……」
「こちらへどうぞ~!」
案内されたのは、本当に綺麗な椅子だった。
鏡が大きくて、右下には小さな画面がついていて、料理動画が永遠を流れている。
「雑誌は何か好きなのありますか?」
「え? あ、いや!? アニメとか……よく見てます」
突然趣味を訊ねられたので答えると、お姉さんはきょとんとして、そして笑った。
「あ、あははふふふ、ごめんね。私もアニメは好きなんだけれども、ここには置いてなくて」
その瞬間気づいて顔を真っ赤にした。そうか、左右を見るとファッション系の雑誌が置かれている。
好きなのありますか? は、何が見たいですか? だ。
てっきり雑談だと勘違いしてしまった。
「あ、いえ大丈夫です……」
「勘違いさせてごめんね。それじゃあ何か持ってきます。あと、髪型とかはもう決まってます? それか、持ってこようか?」
「お願いしていいですか?」
「はあい♪」
敬語と砕けた言葉を使い分けるギャルお姉さんの距離感が心地良い。
俺みたいなのでも話しやすいってことは、もの凄く有能そうだ。
「今日はどんな髪型にしますか?」
「ええと、次は髪を上げた時に……その割と評判が良かったので……」
「ふむふむ、なるほどね。ちょっといいかな?」
お姉さんが、俺の前髪を優しく掴んで上にあげる。
普段は完全におでこが隠れていて、髪も目にかかるぐらいだ。
「ほっほー、確かに可愛い顔してるね」
「そ、そうですか?」
「高校生だよね?」
「はいそうです」
「だったらあんまり切りすぎるよりかは、清潔感があるほうがいいね。整えながら都度聞いてみるから、そんな感じでやっていく?」
とても丁寧で、無理矢理な感じは一切ない。入る前は躊躇していたが、今は遊園地のアトラクションみたいにワクワクしていた。
当然、二人返事でOKをだした。
「えー!? 初めてなの?」
「はい……ずっとあの、五歳から通ってたおじさんのところで切ってました」
「そうなんだね、でも、床屋さんって気持ちいいいよね。私も近所のおじさんと仲良くて、そこからこの世界に飛び込んだんだ」
「はい、居心地がとても良かったんですけど、ちょっと冒険したいなって」
「ふふふ、じゃあ格好よくしてあげないとね。そういえば、理容師と美容師、理髪店の美容室の違いって知ってかにゃ?」
「え? そんなのあるんですか?」
「理容師は髪を整えたり、顔を剃ったりして身なりを綺麗にするの。美容師はパーマや結髪、化粧とかお洒落を目的としてるんだよね。だから、私たちは顔を剃ったりは法律上できないのよ」
「へえ……知りませんでした」
ギャルのお姉さん、だと思っていたが、もの凄くしっかりした人で、とても優しく何でも教えてくれた。
やっぱり俺はまだ世界を色眼鏡で見てしまっている。もっと反省しよう。
「……どう?」
「正直、自分じゃないみたいです」
お姉さんが整えてくれた髪は、今までの自分とは思えないほど恰好良い。
ワックスを付けて動かしやすいように頭部にパーマをかけてくれたので、ほんの少しで動きが出るらしい。
前髪は、ちゃんと目が見えやすいようにしてくれた。
「律くんは目が綺麗だからね、だから格好よく見えるよ」
「ええ……ありがとうございます!」
大満足、そして値段もリーズブルだった。
名刺をもらい、再び指名することを約束し、お店を後にする。
この後、実は楽々と沙羅と外食の予定があるのだ。
サプライズ、になるのかな?
楽しみだ。
「ねえ、今通った人みた? 高校生かな? もの凄く……かっこよかった」
「見た見た! めっちゃくちゃ恰好良かったよね!?」
「びっくり……ああ、目の保養ができた」
なんだか、俺の横を通る人がこっちを見ているような……。
まあ、気のせいだろう。
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