第3話

 ……また、戻ってきてしまった。


 神社、願掛けに……縁切りの神様と、ヨヒト。何か繋がりそうなワードが僕の頭をくるくると駆け巡る。


「本当に……僕が、二階堂先輩を」


 救うことが出来るのか。いいや、一緒に居ることが彼のためになるのか。


「邪魔に、ならないかな……」


 ポジティブで気遣いが呼吸をするように出来て、それでいて誰かに恋をしている。


 ……わかる、僕だってそうだから。けれど、それが僕だって保証はどこにもなくて、考えれば考えるほど虚しくなる。


「……七時、二分」


 あと少しで先輩の方から電話が掛かってくる。何度も起きた行事のようなもので間違いない……間違いはないはず、だけど。


「神社……」


 ふと、単語が口から零れる。


 ヨヒトが言っていたことに引っ掛かりを覚えた。

 ヨヒトがヒント……と題していいのかはわからないけどくだんの糸口になるような発言は今までになかった、気がする。全ての事柄を記憶しているわけではないけど、たぶん、きっと、おそらく…… 解決策になるかもしれない。それに。


「っ!」


 電話が鳴る。……タイムアップのようだ。

 携帯画面の表示には当然の如く、二階堂先輩の文字が刻まれていた。これに出たら改めて始まってしまう。また、先輩が目の前で死ぬのを目撃するかもしれない。今度こそ耐えられなくて、自分は壊れるかも。……それでも。


 それでも、僕は――やらなくては。僕が、僕の意思で彼の隣に立つって認めるために。


「……は、はい。た、田沼です」


 応答をタップ。相変わらず先輩相手に吃りを利かせているが、落ち着く声に励まされる。


『もしもし、おーっす、隼人。朝っぱらから急に電話して悪いな。昨日の部活帰りにでも話しておけばよかったのに。あー……もしかして、寝起きだったり?』


「あはは……ちょっとだけ。あ、でも先輩の声で目が覚めました。その、ありがとうございます」

『お、おう。ならいいが……ちゃんと眠れているか? 隼人は神経が図太い俺とは違って繊細だからなぁ気持ちを共有するのは難しいが、協力出来ることがあるならぜひとも遠慮せずに頼ってくれよ』


「は、はい。ありがとうございます」


 電話越しだったとしても、その優しさに身が染みる。……そんな彼を僕は。


「っ。せ、先輩! 頂いた電話で申し訳ないですが、お尋ねしたいことが!」

『おうおう、なんだ? 隼人から積極的に質問してくれるなんて珍しいな。ってか、そんな堅苦しい言い方しなくてもいいぞー』


「す、すみません……」


 別に謝らなくていいのに、と嫌味のない笑いに少しだけ心が軽くなった。


 さて、本題。

 神社についてききたいのだが、どう問えばいいのだろうか。先輩は生まれた時からこの籠池に住んでいると聞いたことがある。しかし小さな田舎町とはいえ、神社の数だってそこそこあって一日で虱潰しに回るのは不可能に近い。それに…… 。


  ――次は無いと思え。


 ヨヒトの言葉をそのまま解釈すれば、残された時間はそう多くはない。先輩に悟られず、けど問題解決に繋がるようにしなければ。


『それで、隼人が聞きたいことって?』

「あ、ええっと……」


 そういえば僕はどうして、ヨヒトのことを縁切りの神様と認知していたのだろう。


 ……ヨヒト自身がそう名乗った、というのは考えにくいし。誤った情報で記憶をしてしまっているとか? 


 とにかく、今はどんなに小さいことでも正しい情報が欲しい。食い違っているところはちょっとずつ訂正するしかない。


「じ、実は市内にある神社のことを少し知りたくて」

『神社? なんでまた……いや、隼人のことだから何かあるんだろうな。役に立つのかは

わからんが聞いてくれ。神社の何について知りたい?』


 きっと、得られる情報が限られている。だから本当に訊きたいことを選別して……今度こそ終わらせる。


 この絶望に満ちた、あなたが死んでしまう世界にさよならを言うために。


「その、先輩が知る限りで構わないのですが……籠池市には縁切りの神社って、あったりしますか」


『縁切り? うーん……俺もその類いに詳しくないから絶対とは言えないが籠池にはない、と思う』


「あっ……」

『でも、有名な厄払いの神社ならある』


「厄払い、ですか……?」


 縁切りと厄払いが似ているか、否かはわからない。それに、関係性がまったくないとも断言出来ないわけで。静かに彼の続きに耳を傾ける。


『ああ。俺の家に近くて実は今でも時々世話になってるんだが。高校受験の時にも成績を落とす悪霊を追い払って貰ったな。賽銭箱に金を投げ入れて願うだけのヤツだから信憑性はすっげー薄いけど』


 ……そういえば、先輩。前回も含めて電話は決まって七時三分に掛かってきても、寄る場所があるからと常に昼前の集合だった。


 ――実は今日もいつかは届くように、神社で願掛けしてきてさ。


 そうだ、あの時だって。

 彼の行動が鍵を握るなら……もし、可能性が僅かにでもあるならそこに賭けたい。


『まあ、有名は大袈裟かもしれないが。それに受験に合格したとはいえ、効果もあったのかは未だにわからないし』

「そ、それはなんという神社ですか?」


『え? まんま、というかまったく捻りがない名前だよ。籠池神社っていうザ・地元の小ぢんまりとしたところで――』

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