第5話:伝説艦、出撃!

 その日、横須賀市三笠公園付近では異様な雰囲気が漂っていて公園付近は警察や自衛隊によって交通規制がかけられていた。

 だが、公園の周囲には数万人の日本国民が固唾をのんである光景を眺めていた。

 それは……明治時代の軍装に身を固めた英霊達が続々と三笠に乗艦していくのだが霊体故、満員と言う概念はなく大行進は止まることがなかった。

「ああ、何という事……今の私達が不甲斐ないばかりに眠っていた英霊達に行動させるとは……」

「ありがたや、ありがたや、曾祖父もあの行進の中にいるのだろうか? 白黒写真でしか見たことが無かったが……」

「……凄い、あれを見ろよ! 俺達と同じ年齢の青年や少年が出陣していくぞ?」

 現代に生きる小中高生にとって眼前で行われている景色は映画を見ているような感じであったが自分達と同じ年齢の者達が軍装に身を包んで三笠に乗り込んでいく様相は何かを変える切っ掛けになったのは確かであった。

 三笠へ通じる導線の横には陸海空自衛隊員が整列して敬礼して見送っている。

「……俺は夢を見ているのか? 俺達が不甲斐ないから代わりに今の時代に来られたのだろうが本来なら俺達自衛隊が戦って北海道を開放しないといけないのに……専守防衛とかの呪縛に呪われて何も出来ない」

 彼の言葉は他の自衛官達も同じ気持であった。

 そして数時間続いた行進は最後の集団で終わりを告げるのだったがその集団の前を歩いているのは東郷平八郎を始めとする日本海海戦で艦橋に詰めていた者達であった。

「……俺達は凄い場面に立ち会っているのか」

 東郷平八郎が三笠に乗艦すると振り返って自衛隊員に敬礼すると無数の英霊達も同じく敬礼する。

 その光景を見た全自衛隊員及び市民達も知らず知らずの内に敬礼していた。

 そして数分後……突如、地響きがしたかと思うと三笠を埋めているコンクリートが崩れていくと言うか信じられない事に三笠がコンクリートを割りながら前進していて煙突からはモクモクと黒煙を上げて凄まじい轟音を上げて百数十年ぶりに海に出る。

 勿論、この情景は世界中に放映されていて三笠公園にいた自衛隊員も流石に度肝を抜かれて茫然としていた。

「し、信じられない……! どうやって動いているのだ?」

「砲弾はどうするのだろうか?」

 口々に発する皆を背に戦艦“三笠”は煙突からモクモクと煙を上げて外洋に向けて航行する。

 沖合に停泊していたイージス艦“あたご”は三笠の針路上を塞いでいる事に気が付いて直ぐに艦を後進させて三笠に譲る。

 三笠があたごの傍を通過する時、甲板上に並んでいる英霊達が敬礼をして笑みを浮かべていた。

 あたごでも甲板上に出れる者全てが出て敬礼する。

 全員が涙を流しながら歓喜の声をあげている。

「……この四十五年間、海上自衛隊勤務だったがこの瞬間の景色に立ち会い出来てよかったと心から思う」

 艦長『上嶋千晴』一等海佐が感慨無量で呟く。

「俺の曾祖父は三笠に乗艦していて幸いな事に軽傷で済んで天寿を全うした事だからあの中にはいないのだろうと思うが……」

 そして三笠は速度を上げていき信じられない事に四十ノットの高速で沖合に向かっていた。

 三笠艦上では東郷平八郎が最終目的地は函館でそこに全軍が上陸して札幌解放を目指す事になっている。

「乃木どん、陛下は陸軍全ての指揮を貴官に任せたというが?」

 東郷の背後で立っている乃木希典はゆっくりと頷いて203高地みたいな犠牲は出さないというが今の時点で英霊達は霊魂の存在なのだから無数に銃弾をくらっても死なないが。

「三笠も全力で応援する故、思いきり指揮をして北海道を取り戻すのだ」

 東郷と乃木は固い握手をする。

 三笠は沖合に出ると針路を北に取り津軽海峡に向かう。

 この一連の行動は海上自衛隊や航空自衛隊によって監視されていて何か起これば援助する準備を整えていたが海上幕僚本部からは一切、手を出さずに黙認するようにと厳命が来る。

「背広組の奴等、恐れているのだろうな? 事が終わってロシアから何を言われるかと」

「愚かな! 英霊達によって北海道は日本人の手に戻ってきます! 出来る事なら私達自衛隊の手でやりたいのですが」

 その時、三笠上空を飛行していた対潜哨戒機P-1がロシア潜水艦を探知する。

 その報は直ちに防衛省等に知らされるが返事は厳重な監視を怠るなとの事で万が一、魚雷を発射したとしても護衛艦に被害が生じる以外は一切の反撃はするなとの厳命がでる。

「ちっ、防衛省の奴等! 何を考えているのだ? 見捨てるというのか? 機長、やっつけましょう! 形式は“アルファ型原子力潜水艦”です」

 だが機長は悲しそうに首を振りながらそれを却下する。

 軍人はいかなる場合においても独断で行動してはいけないという世界共通の不文律がある。

 悔しそうな表情をしながら黙るソナー員だったがアルファ級潜水艦のある行動をキャッチしたので報告する。

「ロシア潜水艦の艦首魚雷発射管が開口しました! どうしますか?」

 機上内に緊張が走り無線通信士が本部にロシア潜水艦が魚雷を発射する旨を伝えると共に針路は三笠とのことを追加で送る。

 だが、送ってくるのは現状維持で護衛艦に被害を受けそうになる以外、一切手を出してはいけないとの厳命でこれを破れば軍法会議及び階級剥奪に自衛隊を追放処分するとの事である。

 この時、三笠周辺にいる護衛艦や潜水艦、戦闘機部隊はいつでも攻撃できるように対象をロックオンしていたがGOサインが出ない。

「くそったれ!」

 皆がほぞを噛んでいる時にイージス艦“あたご“から悲鳴にも似た声が発せられる。

「敵潜水艦から魚雷四本が放たれました! 速度百五十ノットで命中まで三分です!!」


 


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