ダイブ


『スキル【潜入ダイブ】の発動に成功しました』


 ぼ、僕が、魔物になっているぅ?


『【潜入ダイブ】発動中、対象者の意識は完全に眠った状態となります』


 つまり、今、この蝙蝠の身体は、僕の支配下にあると考えてよいのか。


『【潜入ダイブ】発動中、本体は極めて無防備な状態になります。殊更の注意を払うべく、推奨します』


 地面に、力なく横たわる僕自身を見て、その助言アドバイスには深く納得する。

 敵が複数いる状態で、このスキルを使うのは危険だろうな。

 て、いうか、元に戻るには、どうすればいいの。ず、ずっと、このままって訳じゃないよね?


『元の身体に戻る場合は、「ダイブ・アウト」と唱えて下さい』


 いや、この体じゃ、唱えられないんですけど?


『目を閉じ、強く念じるだけで大丈夫です』


 ホッ。この先、ずっと蝙蝠として生きていかずには済みそうだ。

 魔物以外にも、ダイブできるの?


『対象が生物であれば、【潜入】《ダイブ》可能です』


 人間にも?


『ハイ。ただし、一度【潜入ダイブ】した個体には、二度と【潜入ダイブ】できません』


 そうなのか……。

 ならば、<ダイブ・アウト>のタイミングには、慎重を期す必要がある。


 命の危険というのなら、昨日、グレンに刺されて、穴に落とされる前に、出てきてくれてもよかったのに。

 僕の不満に、助言者アドバイザーさんは冷徹に反駁する。


『あの落下で死亡する確率は、2パーセント未満でした』


 回復の腕輪ヒールリングを嵌めていたから?


『ハイ。加えて、支援魔法バフの効果も持続していました』


 ルースに掛けてもらったヤツか。それがなければ、おそらく即死だっただろう。


 また、命の危機に晒されたら、助言アドバイスをしてくれるの?

 できれば、二度とそんな体験はしたくないけど。


『一つの条件につき、助言を付与できるのは一度だけです。再び、同様の条件を満たしたとしても、助言付与は行えません』


 つまり、今度、死にかけても、自分で何とかしろという事か。

 結構、厳しめの助言者アドバイザーさんだな。

 他には、どんな条件があるの?


 ……。


 無視かよ。【潜入ダイブ】に、時間制限とかは、あるの?


 ……。


 助言者アドバイザーさん?


 ……。


 ダメだ。もう、どこかへ行ってしまったようだな。

 ミュウが、ふしぎそうな顔で、僕をじーっと見ている。

 わかるか? ミュウ。僕だよ。


「にゅぁ?」


 ミュウは、首を傾げるだけだった。


 ただ、よく考えたら、この状況、まだ完全に危機を脱したワケじゃないよな。今、元の身体に戻ったら、また襲われてしまうだろう。

 しかも、この蝙蝠への再度の【潜入ダイブ】は不可である。


 どうする……て、いうか、飛べるのかな、コイツ?

 僕は、大きな翼を広げ、羽ばたいてみる。お、浮いたぞ。さらに強く羽ばたく。


 スゲー、飛べた!

 僕は、うれしくて、洞内をぐるぐると飛び回ってみた。


「みゅおぉー!」


 ミュウは興奮したのか、両手を挙げ、ぴょんぴょん飛び跳ねている。

 て、待てよ。ここから、出られるんじゃないか?

 僕は、地面に横たわる、僕本体の傍に着地する。蝙蝠の足で、僕の両手首をガッチリと掴んで、そのまま羽ばたいた。


 うおおおぉッ!


 ……お、重い。

 上昇しようと試みるも、思い切り下へ引っ張られる感覚だ。本体の僕の足先が、地面から離れるくらいのタイミングで、落っことしてしまう。

 や、やべぇ。


 慌てて、僕本体の身体を確認する。どこも怪我とかはしていないよな。

 どうやら、この魔物、重いものを持ち上げる力はないらしい。もし、かなり高い所まで上昇し、うっかり落としたら……、想像すらしたくない。

 脱出は、難しそうだ。リスクが大きすぎる。けど、外の様子を見に行くだけなら、可能だよな。


 ミュウ、ちょっと出かけてくるぞ。


「んお」


 通じたのかどうかは、よくわからない。

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