助言者
抑揚のまるでない、女性とも男性ともつかない不思議な声だった。
まさか、ミュウが声を発した訳ではないよな。もちろん、声の主が蝙蝠であるはずもない。
そもそも、声は明らかに僕の頭の中で発せられた気がする。
「だ、誰だ?」
『
何じゃ、そりゃ?
そんな存在、はじめて聞いたぞ。
それに、極希有スキルって……。
【
「何で、今まで、黙っていたんだよ?」
『一度も、助言付与の条件を満たさなかったからです』
「条件て?」
『いくつかあります。たった今、そのひとつを満たしました』
「どんな?」
『スキル【
「そ、そんなにヤバいの?」
『この戦闘において、【
ほぼ、死亡確定じゃん!
『スキル【
「て、使い方、わからないんだよおぉ!」
蝙蝠は、今にも、僕に襲い掛からんとしている。
『対象者に両掌を接触した状態で、「ダイブ」と唱えれば発動します』
そ、そんな簡単な事だったのかよ?
もちろん、今まで、一度もそんな事を実行した例はない。
一応、これまでに、色々、試しはした。
ダイブ、と、口に出して唱えたり、心の中で強く念じてみたり。水の中に、長く潜り続けてみたこともある。
ただ、効果の不明なスキルを、人間相手に試す勇気はなかった。
「スキルを使えば、助かるのか?」
『【
使わない手は、ないだろう。
「キイイィッ!」
蝙蝠の魔獣は、翼を広げ、再びこちらへ突っ込んでくる。
どんな攻撃だろうが、まともに食らえば、僕などひとたまりもない。
魔獣の突進を、僕は、横っ飛びで、かろうじて避ける。
だ、ダメだ。速すぎるッ!
どうやって、あんなのに触れればいいんだ?
蝙蝠は空中で旋回し、こちらに向き直る。
僕がやられたら、次はミュウの身が危ない。
蝙蝠が、再び僕に向かってくる。
「うおおおおぉッ!」
僕は、あえて蝙蝠の方へ踏み出す。いわば自殺行為である。半ば自棄だった。
けど、こちらの行動が意外だったのか、魔獣は一瞬、怯んだように硬直する。
今しかないッ!
無我夢中で蝙蝠へ突進し、その胸部に僕の両掌を押し当てた。
「ダイブッ!」
瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。さらに撹拌され、周囲の景色とまじり合う感じだ。
なんか、身体が、強い力で、蝙蝠の側に引っぱられている気がするんだけど……。
て、大丈夫なのか、これ?
うわあああああぁーッ!
魔獣の身体に激突したかと思った瞬間、完全なる暗転が訪れる。
が、すぐに視界は戻った。
意識も明瞭である。
な、何が起きたんだ?
洞窟内の様子に、殊更な変化はないようだ。
……蝙蝠が、いないぞ。
どこへ行ったんだ?
周囲を見回しても、魔獣の姿は消えていた。
足元を見て、僕はゼッ句する。
地面に、僕が倒れていた。
うつ伏せの状態で、手足は投げ出され、微かな動きすらも見られない。
う、ウソだろ。
助かるんじゃなかったのかよ?
て、おかしいだろ。
どうして、僕が、ボクを見ているんだ?
じゃあ、僕は一体……。
地面に伸ばした僕の右手が、視界に入る。僕は、再び言葉を失くす。それは、よく知る自分の手ではなかった。
指は三本しかなく、やたらと鋭く伸びた爪。腕は……、いや、羽?
左手も、同様に黒い羽である。視線を下へ向けると、茶色い毛の生えた胸元が見えた。
こ、これって、もしや……。
『スキル【
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