第4話


 生まれて、最初に得るスキル。それは、何よりも重要である。

 【原初オリジナルスキル】とも呼ばれる。


 スキルは使用し続けるか、ある条件を満たす事で、新たなスキルを派生させる。派生したスキルは、また別のスキルを派生させる。

 そうして、手持ちのスキルは際限なく増やす事が出来る。


 ただ、派生するスキルは、原則、派生元のスキルと同系統か、類するものに限られる。農業系のスキルから、魔術や、剣術系のスキルが派生する事は、通常はあり得ない。


 【原初オリジナルスキル】により、人生は決まる。

 それは、厳然たる現実だ。



 目を覚ますと、身体じゅうに鈍い痛みがあった。固い地面の上で、そのまま寝たせいだろう。

 はるか上方に、相変わらず歪な月のような穴が浮かんで見えた。

 身を起こす。所々が、ぼんやりと光る壁に、囲まれている。自分が、今、深い穴の底にいる現実を思い出す。


 少し離れた位置で、青い髪の少女が、仰向けで、すーすー寝息を立てていた。コートが少しはだけ、裸身が露になってしまいそうだ。

 僕は、それを直してあげる。


 本当に、何者なんだろう?

 寝顔だけ見ていると、ふつうの女の子にしか見えないよなぁ。

 しかも、かなりの美人といえる。

 目を覚ました少女が、まぶたを薄く開き、僕と目が合う。


「お、おはよう」

「んにゅぅ……」


 目を擦りながら、少女は身を起こした。


「おはよう」


 改めて、僕が挨拶すると、少女は、ぼぉーっとした感じでこちらを見ながら、言った。


「……はよぉ」


 今、おはようって、言ったのか?

 僕の言葉を、ただオウム返しにしただけかもしれないけど。


 ぐるるるぅ。

 思い切り、僕の腹が鳴った。


 とはいえ、きのう食べてしまったパンで、携帯食料は尽きた。この洞窟内に、食べられるような物はあるのだろうか?


「お前、食べ物とかって、どうしてるんだ?」

「みゅぉッ」


 少女は、跳ねるように立ち上がると、パタパタと駆けだした。

 朝から、元気だな。

 今が、朝かどうかも不明なのだが。


 彼女が向かった先は、例の地底湖だった。

 僕もそこへ行き、顔を洗う。

 透きとおる湖面を、のぞきこんでみた。

 底が見えないくらいに、深そうだ。魚でも泳いで……、いないかぁ。

 隣を見ると、少女が僕を凝視していた。


「何だよ?」


 少女は、手をで水を掬い顔を洗う。

 僕のマネをしているようだ。

 湖面に顔をつけ、水を飲みはじめたが、昨日のように、頭をぜんぶ突っ込む事はしなかった。


「ぷはぁ」


 水面から顔を上げた少女に、僕は問い掛ける。


「お前、名前とかあるのか?」

「ぉあ?」

「名前だよ、な、ま、え」

「みゅぅ」


 思わず、ため息が漏れた。訊いた僕が、バカだったよ。


「よし、決めた。お前の名前は、『ミュウ』だ」

「んにゅ」

「僕は、エイルだ。よろしくな」

「んあ」

「いや、んあ、じゃなくて。エイルだよ」

「あぉッ?」

「エ、イ、ルッ」

「……ぇ、い、うッ」


 お、今、ちょっと、言えそうじゃなかったか?

 意味とかは理解しておらず、ただオウム返しにしているだけのようだけど。

 ミュウは、立ち上がると、元の広い洞の方へと駆けていった。


 しかし、やはり不思議だ。

 ずっと、ここにいたのだとしたら、どうして、彼女は、あの竜に襲われずに済んだのだろう。


 ……まさか、あの子が、竜を石にした?

 いや、そんな力の持ち主には思えないよなぁ。


「みゅわあぁッ!」


 ミュウの驚いたような声が、聞こえてきた。


「どうした?」


 僕は、通路を走り、大きな空間へと戻る。

 バサ……バサバサ。

 羽ばたくような音が聞こえた。

 僕は、一瞬、竜が動き出したのかと思い焦った。が、違った。

 さっきまでは、いないはずかった存在が、そこにいた。


 こ、蝙蝠?

 一見すると、そうだ。

 けど、ふつうの蝙蝠とは、明らかにちがうのは明白だ。

 まず、でかい。僕の身体の半分ほど、いや、それ以上はある。爪の長さ、鋭さも、羽の形状も、通常の蝙蝠のそれとは異なる。

 魔獣だッ!


「キイィッ!」


 蝙蝠の魔獣は、威嚇するように奇声を上げる。

 ま、まずい。逃げなきゃ……、が、周囲を見回し、ゼツ望的な気分になる。


 逃げられる場所なんて、どこにもない。

 自慢じゃないが、ボクは魔物を討伐した経験なんて一度もない。ゴブリン一匹、ひとりでは狩る事ができないのだ。本当、自慢ではないけど。


 蝙蝠の魔獣は、羽を広げ、真一文字に、こちらへ向かってくる。

 は、速いッ! 

 僕は、真横に身をかわすも、よけきれず、鋭い爪が右の肩を掠めた。


 痛あぁ!

 服が破け、傷口からじんわりと血がにじむ。

 僕の中に、これまで感じた事のないような、恐怖が湧きおこる。

勝てる訳が、ない。


「キイィッ!」


 まるで、勝ち誇ったみたいに、蝙蝠の魔物は鳴き声を上げる。翼を大きく広げ、その顔は、こちらを見下しているようだ。

 だ、ダメだ。詰んだ。……殺される。

 もう、おしまいか……。


 ポォーン。

 突如、頭の中に、鈴ような甲高い音が響く。


『スキル【潜入ダイブ】の使用を推奨します』


 ……だ、誰?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る