第43話 再会

※今回は三人称視点になっております。




 火口まで辿り着いたレイチェルは座り込んでいた。

 目の前にはオレンジ色に光る溶岩が広がる。

 あの中に飛び込めば、全てが終わる。


 全てを終わられる為にレイチェルはここへ来た。

 その決意に偽りはなく、本当に死ぬつもりだった。


「嫌だ……死にたくないよ……」


 それなのに生きることに対して、未練が生まれてしまった。


 魔王を打倒した直後なら死ぬことに今ほどの躊躇いは無かっただろう。


 他の勇者が全滅したのに自分だけ生きたいなんて我儘だとレイチェルは思っていた。


 しかし、今は違う。


 生きたい、と思ってしまった。

 一緒に生きたい、と思う人が出来てしまった。


「なんで私、あの時、アレックスの提案を断ったの? アレックスがいいって言ってくれたから、どこか人のいない土地で一緒に暮らせたのに……ううん、それは駄目!」


 レイチェルは自らの意志を否定する。


「そんなことをしたら、アレックスの一生を巻き込んじゃう…………! 私はここで死なないといけない…………! なんで死なないといけないの…………?」


 レイチェルは迷い、苦しんでいた。

 死なないといけない、生きたい、二つの感情がレイチェルの中で何度もぶつかる。


「アレックスのいた村、とても優しい雰囲気だったなぁ。あんなところで暮らしたいなぁ。それで結婚して、子供は三人。初めは女の子が良いなぁ。それでアレックスが溺愛して…………でも、私の子供だから強くて『お父さんに守られなくても私強いよ。むしろ私がお父さんを守ってあげる』とか言われて、アレックスが落ち込んで私が慰めて…………それで娘が大人になって、結婚っていう時、アレックスが私に寂しくなる、とか愚痴って…………私がまだ産めるよ、とか言ったら、アレックスは少し呆れながら『君は変わらないね』とか言って…………」


 レイチェルは現実から目を逸らして、理想を呟き続ける。



「レイチェル! 返事をしてくれ!!」



 だから、最初に聞こえたアレックスの声は幻聴だと思ってしまった。


「あはは、アレックスの声が聞こえるよ…………もう私、おかしくなっているのかな? …………だったら、これ以上、おかしくなる前に終わりにしないとね…………」


 レイチェルは立ち上がった。

 そして、火口に向かい、よろよろと足を進める。


 溶岩の熱気を感じるところまで近づいた時だ。


 ファイヤードレイクの咆哮が聞こえた。


「…………え?」 


 レイチェルは足を止める。


「あの咆哮は明らかに威嚇。でも、こんな山頂付近でファイヤードレイクが威嚇する対象って何?」


 レイチェルは自分にとって、とても都合の良いことを考えている。


 一度は突き放したアレックスが自分を追ってきたと思いたくなった。


 そんなはずないのに、とそれを否定しようとした時、



「レイチェル、そこにいるのか!?」



 今度ははっきりと聞こえた。


「アレックスの声だ…………!」


 レイチェルは声のした方向へ走り出す。


 すぐに飛翔しているファイヤードレイクを発見した。


 ファイヤードレイクは何かに攻撃をしようとしている。


「アレックス!?」


 レイチェルは、ついに幻影まで見始めたのかと思ったが、怒り狂ったファイヤードレイクが全てを現実だと知らせていた。


 レイチェルは夢中で走り出した。


 このままだとアレックスが死んでしまう。

 絶対に死なせたくない。


「お願い、当たって!」


 レイチェルは剣を抜き、そして、投げた。


 頭部に剣が刺さったファイヤードレイクは「ギャアアア!」と悲鳴を上げる。

 しかし、致命傷にはならない。


「でも、大丈夫、怯ませることは出来た。あとは私が近づけば……」


 レイチェルがファイヤードレイクへある程度近づくと、魔王の呪いが発動する。


 ファイヤードレイクは生気を吸い取られ、絶命した。


 強靭な生命力を持つファイヤードレイクでさえ、魔王の呪いの前では無力だった。


 レイチェルは初めてこの力に感謝する。

 魔王の呪いのおかげで大切な人を守ることが出来た。


 レイチェルはゆっくりとアレックスに近づく。


 本心は嬉しかった。

 もう会えないと思ったアレックスに会えたのだ。


 だけど、何故、アレックスがここにいるか分からない。

 

 結局、喜ぶべきか、怒るべきか分からなかったレイチェルは、



「なんで、アレックスがここにいるの?」



と色々な感情が混在する表情でアレックスに尋ねた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る