第42話  墓泥棒

 私の見つけた本命は、ベッドの下のだ。

 濃い魔力を纏っていたおかげで、すぐに見つかった。


 私はそれをベッドの下から引きずり出した。


 木箱か……。

 しかし、幾重にも掛けられた魔法による防護。見た目と異なり、力づくで壊すのは難しい。

 だが、解くのは容易い。


 私は波長の数だけ指で木箱を叩き、箱に掛けられた魔法をすべて解除した。

 どんな魔法かまではわからなかったが、すべての波長を同時に解除することで、その意味を失くさせた。




 さて、ご開帳と行こうか。


 私は蓋に手を掛け、勢いよく開ける。


 中には、銀色の指輪が二つ、ブレスレットが一つ、鈴が一つ、ローブ一着が入っていた。

 軽かったときは少しがっかりしたが、こういうことか。

 期待して……いいのだろうな。

 早速、簡単な性能だけでも調べてみよう。


 銀色の指輪は、糸を作り出すマジックアイテムのようだ。

 糸か……とも思ったが、なかなかどうして。汎用性が高かった。

 硬くもできるし、粘着力を強めることもできる。罠にはうってつけだな。


 そう、糸は馬鹿にできない。

 私がワーグナーに拾われるきっかけとなった盗賊退治の際、盗賊を八つ裂きにしたのは植物性の糸だった。

 糸をなめたらいけない。


 この指輪を一つ身に着けるだけで、すべての指から糸を生成することができる。

 ……一個余分だな。ブレスレットの中に保管しておこう。


 そして、このブレスレット。 

 見た目こそよく知っているし、日頃目にしているものだが、嵌っている宝石が青ではなく……赤色だ。


 このブレスレットの効果は……言うなれば、ブレスレットの親玉、もしくは上位互換だな。

 容量が、青い宝石のブレスレットの比ではない。


 今、私はブレスレットを三つ――ワーグナーから貰ったものと、死神の右手タナトス・バディの親玉から謝礼としてもらった二つ――身に着けている。

 三つとも、容量はかなりいっぱいいっぱいだ。


 しかし、それら全部をこれに移しても、容量の一割も占めないだろう。

 

 それだけではない。

 ――青い宝石のブレスレットと繋げることができる。

 私が親玉と呼んだのは、この性能が故だ。


 つまり、青い宝石のブレスレットから、この赤いブレスレットの中身を取り出すこともできる。

 また逆に、青い宝石のブレスレットに物を入れ、赤いブレスレットから取り出すこともできる。


 ……使うことはないと思うがな。

 しかし、仲間と分担して宝を漁るときには楽になるだろう。がっぽがっぽだ。


 早速赤い宝石のブレスレットを身に着け、中身をすべて移した。

 青い宝石のブレスレットは、赤い宝石のブレスレットの中で保管しておく。




 次だ。

 鈴は……罠検知の効果が込められている。

 だが……そんなものは自分の眼で破れる。つまり、ただの鈴だ。

 まあ、完全物理の罠は難しいところはあるから、まったく使えないわけではないな。万が一の保険と思っておこう。


 ……しかし、ある用途では……最高に使える。


 私が動くたびに音を発生させてくれれば、いつでも魔法を放てる。

 装備しない手はない。腰辺りに着ければいいだろう。

 音のオンオフも切り替えられるらしいしな。さすがはマジックアイテム。


 ……なぜ今まで、鈴などの音が出る雑貨を購入するという考えに及ばなかったのか、自分を殴ってやりたい。




 そして、最後のローブだ。ローブというか、コートか? どっちだろ。

 色は漆黒だが、着用者が念じれば、自由自在のようだ。まあ、無理に変えなくてもいいかな。

 着用者を透明化する〈不可視インヴィジブル〉の魔法が付与されているが、〈隠密ハイド〉を使える私には、ごみでしかない。


 目を引いたのは、その防御力の高さだ。

 着用者の、防御に関するすべての能力を大幅に上昇させる効果が付与されている。

 真似はできそうもない。複雑な波長だ。このローブの限定能力と思った方がいいな。


 ともかく、だ。

 このローブを身に着けるだけで防具の耐久性が大幅に上昇し、私の〈防護膜プロテクション〉や〈障壁バリア〉の耐久性までもが大幅に上昇するというわけだ。


 魔力との親和性も高い。

 破けたりしても、魔力を注げば元通りになるのかな。

 



 ……今日の戦利品はこんなものだろう。

 

 私は〈転移テレポーテーション〉を発動させ、騎士たちの元へ戻った。

 鈴は腰に着けているが、それ以外は赤い宝石のブレスレットの中に隠している。


「待たせたな、戻ろう」

「「はい!」」


 私は魔力を集中させた。

 正直、再び元来た道を戻るのが面倒だ。


 なら、私は全員を〈転移テレポーテーション〉で外に送ればいいと考えた。


 自他ともに魔法の効果を及ぼさせる波長は発見済みだ。

 しかし、〈転移テレポーテーション〉となると個人個人をちゃんと認識しないと失敗する。

 失敗した場合、この世界のどこかに出現する。

 深海かもしれないし、もしかしたら時空の狭間を漂うかもしれない。私自身は失敗しないから知らん。


 私は慎重に魔法を練り上げたうえで、〈全体転移マス・テレポーテーション〉を発動させた。





 一度、死んだ騎士の遺体を丁重に回収し、再度〈全体転移マス・テレポーテーション〉を発動させた。

 そして、洞窟の外へ転移した。


 レイとウィグ……聖騎士二人まで驚いている。

 私が〈転移テレポーテーション〉で戻ったときもそうだが、今回は特に驚いている。


「レスク……お前は聖騎士なのか? それに、休憩もなしに連続で……」

「そんなわけないだろう。学園すら卒業していないんだぞ」


 余計なことを言ってしまったようだ。

 二人の顔色が驚きを通り越して、青ざめた。


「学園を卒業していない……だと」

「何歳なんですか」

「…………五月半ばに十六になる」


 ……という設定だ。実年齢は大幅に下だからな。


「春に学園入学か……同級生たちが可哀そうだな」

「ともかく!」


 私は脱線した話を本線に戻すために大声を出す。


「今回の遺跡調査。あの先に行ってみたが、それらしい手がかりは何もなかった」


 これからもあそこに通うのだ。本格的に調査を開始されてはまずい。

 私がやったのは遺品泥棒だ。歴史的遺跡で泥棒を働いたのは、バレてはまずい。隠し通さねば。


「内部の造り的に神殿であるのは間違いない。ただ、悪魔信仰の邪教だろうな」

「奥には本当に・・・何もなかったのか?」


 レイが懐疑的な視線を私に向ける。

 手に入れた物はブレスレットの中だし、バレていないはずだ。


「通路があったが、奥には何もない部屋があった。信者たちが何か置いていた物置部屋だと思う」

「そうか。では、調査結果はそのように報告しよう。私たちはこのまま〈転移テレポーテーション〉で帰る」

「私共は元来た通りに帰還いたします!」

「「――〈転移テレポーテーション〉」」


 レイとウィグは〈転移テレポーテーション〉を発動させ、姿を消した。

 ……騎士は徒歩かよ。


「さて、ではとりあえずライアルまで送ろう」


 私は再び〈全体転移マス・テレポーテーション〉を発動させた。


 ライアルに戻ってすぐ、騎士たちは帰って行った。

 アドベンチャラーたちも家に帰り、休息を取る。精神的疲労が溜まっているだろう。

 私も今日は休もう。あ、ハウスに報告しておかないと。


 

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