第41話  遺跡の奥

 カツン……カツン……と、足音が響く。

 数百年もの永い歳月、一切、いかなる生き物も侵入してこなかった、この部屋に……。




 ふむ……。なかなか頑丈な造りだ。


 階段を降りた先にあったのは、床、壁、天井。そのすべてがレンガ造りの一本道だった。

 壁に手を当て、頑丈さを確かめる。簡単には壊せそうもない。


 レンガを組み立てて造られた一本道とは言え、まるで穴がない。

 おまけに、魔法で防護されている。


 ……有毒ガスが溜まっている様子もない。

 空気も新鮮だ。どこかで外と繋がっているのだろうな。

 空気の流れを辿れば、どこに繋がっているのか調べることができるが……今やることではない。何より、面倒くさい。





 少し進むと、そこは……行き止まりだった。


 ふむ……。魔法は見えなかった。

 魔力で防護されているとは言え、魔法の波長は別だ。波長を覆い隠せるほど濃い魔力ではないしな。

 つまり、これも魔法に頼らない物理的な罠。


 まあ、目星はついている。


 目の前の壁。

 そこのレンガの一つが、不自然に飛び出している。遠目では気付かない程度にな。

 完璧すぎたレンガの配置の中で、それは不自然すぎた。

 明らかに隠しスイッチだろう。

 罠の気配はない。押しても問題ないだろう。


 ……悪魔との関わりはあるのだろうか。

 ないわけがないだろうがな。


 ――ズズ……


 私が隠しスイッチを押すと、壁を防護していた魔力が波長を……魔法を紡いだ。

 壁のレンガがゴゴゴ……、と音を立てて動き出し、通路の続きが開いた。面白い仕掛けだな。


 いや、壁の向こうにあったのは、通路と呼べるほど長くない。

 人一人が寝るのに丁度いいぐらいの長さしかない。言うなら、一軒家にある短い廊下だな。


 通路の先はまた壁だったが、そこには、ちゃんと扉が備えられていた。

 

 扉の先が……きっと、ゴールだろう。


 人が踏み入った形跡はない。

 念入りにホルスの仮面の〈生命探知ディテクト・ライフ〉と〈熱探知ディテクト・サーマル〉で見てみたが、何も探知に引っかからなかった。

 〈透視シー・スルー〉は使わなかった。扉を開ける前に中を見たくなかった。


 私は扉を開け、中に入った。

 魔法は一切感じられない。問題なさそうだ。




 扉の先は、一つの部屋だった。

 部屋にはベッドが一つ、小さな机と椅子が一つ。本棚と、入りきらなかったのであろう、大量の散乱した本。

 ベッドの上には、二つの骸骨が折り重なって倒れていた。


 …………あれは……。


 そう私が思ったとき、二つの髑髏が浮き上がった。他の骨は……何もなさそうだ。

 生命反応はない。魔法の反応……アンデッドではない。一種のシステムか。


『『……アルジノ命ニ従イ、侵入者ハ排除シマス』』


 そう言った。

 髑髏の眼の穴に、七色の明かりが代わる代わる灯った。


 これらは侵入者撃退システムか。

 波長は十二個だが、それは別々の魔法を重ね掛けさせれているせいだ。組み合わせは見えないが、使うときはそうそうないだろう。


 波長を解くには……部屋全体に魔法が掛けられていて、どうにもできそうもない。

 部屋に掛けられた魔法の方は解けなくもない。あの呪いを見た後だとな。


 しかしよく見ると、部屋に掛けられている魔法と複雑に絡み合っているし、時間のせいなのか、一部が癒着している。

 その中に、部屋を維持する魔法がないとも限らない。いや、十中八九含まれていると推測できる。

 

 ……こうまでなると、解けない。

 しかし、この部屋はお宝だ。

 破壊はできない。〈障壁バリア〉で覆っても、ここが崩れては動けない。


 つまり、この部屋に微塵も被害を出さずに、二つの髑髏を撃破せねばならない。

 見た感じ、髑髏の攻撃手段は魔法だろう。……ってか、髑髏に物理攻撃ができるのか、甚だ疑問だ。


 私の勝利条件は、髑髏の攻撃を無効化しつつ制圧せねばならない。


 片方の髑髏の口内に紅い光が灯る。もう片方の髑髏の口内には蒼い光が灯る。

 魔法の発動の前段階か。想定される威力は……この部屋を吹き飛ばすぐらい訳ないだろう。

 そこで、嫌な予感が脳裏をよぎった。


 …………まさかとは思うが、この魔法防護……。

 

 ――髑髏の魔法攻撃を吸収するようにできているのか?

 

 髑髏の口内から微妙に漏れる魔力が壁に吸収されているのが見えた。

 最悪の予感は……当たってしまったようだ。こういう悪い予感こそ当たるのはなぜなんだろうな。


 二つの髑髏がそれぞれ、紅い炎と蒼い炎を放った。

 私はそれを、指を鳴らして打ち消し、もう片方の手の指を鳴らして〈超重力ハイ・グラヴィティ〉を発動させた。

 色こそ違えど、魔法自体は同じだった。あとでこの魔法も頂くとしよう。


 波長は五つの上級魔法だ。

 五つあってようやく一つの魔法を形成するタイプのな。


 増幅された重力に押され、二つの髑髏は地面に落下し、ミシミシと音を立てる。

 範囲で発動させることもできるが、対象を絞って発動させることもできる。


 髑髏を破壊したら……部屋が崩れるだろうな。部屋と髑髏は繋がっている。

 ……かといって、破壊しないと……魔法を放たれ続けるだろう。

 現に、二つの髑髏はすでに、次の攻撃の準備を開始している。


 私は二つの髑髏をそれぞれ別の〈障壁バリア〉で囲む。

 〈障壁バリア〉は、こういう使い方――相手を閉じ込めることもできる。


 私と髑髏の魔法の技術力の差はかなり大きい。

 この髑髏程度の実力では、〈障壁バリア〉の破壊は不可能だ。




 ふぅ……。

 これでようやく、静かに探索できるな。

 しかし、レイたちを待たせているからな。長い間探索はできない。


 しかし、次に来たときにまた髑髏を無力化させるのは面倒だ。

 こいつらは、今日、数百年振りに目覚めたのだ。次は扉を開け様に魔法が飛んでこないとも限らない。


 〈障壁バリア〉はともかく、〈超重力ハイ・グラヴィティ〉の長期間の維持は難しい。

 できても一週間が限度だろう。片手間ではもっと短いだろう。


 とりあえず、今日は本命だけを済ませるとしよう。

 また対策を考えてから来ればいい。


 

 

 

 


 

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