第35話 侮った
悪魔でも気を使えるんだな。
悪魔は生命力と呼んでいたが……ものとしては同じだ。
「それにしても、あんたら、魔法と生命力……ああ、人間は気って呼んでるんやったな。で、魔法と気を併用してるんかいなぁ。技術力だけは発達したんやな」
「気……?」
ウィグが首を傾げる。レイも口にはしないが、理解していないようだ。
やはり、そうではないかと思っていたが、理解せずに使っていたのか。
レイも〈
「そこの兄さんは理解してるようやけど……なんや、気はもう衰退しとるんかいな。勿体ないわぁ。平和ボケしとるわぁ」
昔の人間は、今より強かったということか。
平和ボケ……昔はどうだったというのだ。
この悪魔の口ぶりからして、昔は悪魔もこの世界に当たり前のようにいたのかもな。
今よりもっと、悪魔が身近に存在していたのだろう。
戦争の道具なのか、戦争相手なのかはわからないがな。
「――〈
私は地面にライアル鉱石を投げ、剣を生成する。
ライアル鉱石そのものを剣として使おうと試したが、その場合、ライアル鉱石は形を保てず、剣である以前に、武器として扱えなかった。
所詮、核としてしか扱えないというわけだ。
「錬金魔法でっか。こんなすごいんは封印前もおらへんかったなぁ」
「封印前……」
「わしがこっちに召喚されて……何年や。もう、何年……何百年経ったんかわからんな」
あれだけの数の屍。
この世界の基準がわからないから何も言えないが、あれだけの犠牲を強いられて召喚されたのであれば、この悪魔は強者だろう。
現に、ディヴィアルは気を認識し、使いこなしている。
というか、最低でも八百年は封印されていたのか。
封印されている間、どんな感じなんだろうな。……決して、経験したいわけではない。
しかし、封印されていた期間を把握できていないが、時間感覚だけはあるのか。意識だけは、朧気ながらもあるのかもな。
「ほいっ!」
ディヴィアルが地面に手を着くと、私と聖騎士二人の足元に波長が出現する。
「――〈
私は直前まで気づかなかった振りをし、直前で躱した。
その際に足を引き、発生した音で魔法を発動させる。
「おほっ。……やられましたわぁ」
ディヴィアルの足元に〈
ディヴィアルは気づけず、ふくらはぎらしき部分に傷をつけた。
血は出ない。変色もない。
「しっかし、今あんた、詠唱してへんよなぁ? どうやったんや?」
「……答える義理はない」
「ほーか、ならええわ」
瞬間、ディヴィアルは私の目の前に立っていた。
素の身体能力でこれか。……しかし、想定の範囲内だ。
「まずは兄さんからやな。魔法が上手いんを最初に潰すんは定石――」
ディヴィアルは私の目の前で喋り出した。
飛沫が散るじゃないか。
……そんなものは確認できなかったが……まあ、なんとなく雰囲気的に嫌な感じがしたんだ。
「――ペラペラうるさい」
私は〈
私はついでに〈閃撃〉を発動させ、吹き飛ぶディヴィアルに追いつき、回し蹴りを加える。
ディヴィアルは吹き飛び、壁に激突する。
……受け身を取られたか。
壁に当たる直前で壁に〈
私は〈閃撃〉を解除する。
ありとあらゆる戦闘において、相手に虚偽の情報を掴ませることは、勝利への確実な一歩となる。
私はここで、『〈閃撃〉の持続時間は短いかもしれない』という不確かな情報を相手に与えた。
これを繰り返せば、不確かは確かに変わる。
「いやぁ、やりますなぁ。魔法使いかと思ったんやが……両持ちかいな。天が二物与えたんかいなぁ、不公平な世の中やわあ」
ディヴィアルが何か言っているが、ここは無視だ。
私のこれは、才能ではない。長年の研鑽……努力の結果だ。
「努力の賜物と言えないのか?」
「いやいやいや……冗談きついでっせ、兄さん……。あんたのその若さと装備で、その実力はあり得へんって」
若さ、か……。
どれだろう。
見た目の年齢……十五歳前後なのか。この世界での年齢……四歳と七か月なのか。
精神年齢……は、六千オーバーだし、お世辞にも若いとは言えない。
「――私たちを忘れてもらっては困る。――はぁっ!」
ディヴィアルの横にレイが立ち、槍を構えたウィグの元に蹴り飛ばした。
「――〈
ディヴィアルと槍の先端が接触した瞬間、ウィグの〈
ディヴィアルは一度大きく痙攣し、膝をついた。
「おお……ぉ、読み違えたわあ。ここまで強力とは思わへんかった……」
おお、思いのほかあっさり受けたから大して効かないだろうと思ったのだが……効いているようだ。
雑魚だと侮ったな。
「…………ま、侮ったんわそっちも同じやけどな」
ディヴィアルは不敵な輝きを瞳に有して、そう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます