第32話  遺跡地下一階

 階段を降りると、今度は大広間に出た。

 広間の壁一面に穴が開き、そこには、大人二人分の背丈を優に超える石像がいくつも配置されている。


 ふむ……。ゴーレムのようだ。

 しかし、動いている反応はない。……いや、侵入者を迎え撃つための迎撃システムか。

 つまり……。


 そのとき、ゴーレムたちが動き出した。

 壁に開いた穴からゴーレムたちが飛び降りてくる。一体落ちてくるたびに、ズシンズシンと、地が揺れる。


 床が抜けたりしないのだろうか?

 これ以上地下はないのか? それならいいのだがな。


 ゴーレムの核は……どのゴーレムも、胸の真ん中に配置されているようだ。

 しかしどうして、込められている魔力が多い。あのキマイラ・ゴーレム以上だ。


 それが、目算でも五十体。

 騎士やアドベンチャラーたちでは話になるまい。私と聖騎士二人でどうにか……。


 体は幸い、キマイラ・ゴーレムと同程度の硬さしかなさそうだ。

 硬いことには変わりないがな。ライアル鉱石が核でなくてよかった。


「お前たちは下がっていろ。敵う相手ではない」


 レイが剣を抜いてやってきた。

 後方はケメとイトシに任せておこう。万が一にも、多少の時間稼ぎにはなるはずだ。


 ふむ……。一撃では収まりきらないほど広範囲に散らばっているな。

 私は剣を抜き、胸の高さで水平に構えた。

 そこに〈斬撃スラッシュ〉を纏わせ、中に管を作り、気を込める。


「……お前、それは……っ」

「――〈ワン〉」


 私は剣を振りぬく。

 剣閃は軌跡上のゴーレムの核を撃ち抜いた。

 そして壁に大きな『一』が刻まれた。


 ふむ、三分の一は消えたか。


「……――〈ポイント〉」


 ウィグの一撃はゴーレム十体の核ごと、上半身を破壊し、五体のゴーレムの体の一部を破壊した。


「……――〈ワン〉」


 レイが剣を一閃させ、九体のゴーレムの核を破壊した。そして三体の腕を斬り落とした。


 残りは十五体か。そのうち、手負いが六体。

 ゴーレムたちはばらばらに立っている。……うん、大丈夫そうだ。


 私が手を叩くと、ゴーレムたちが爆発した。


 先ほどの〈ワン〉に余分に乗せた魔力を爆発させただけだ。

 核を破壊……まではいかなかったが、ゴーレムたちに膝を着かせることはできた。


「――〈大地槍グラウンド・ランス〉」


 ゴーレムたちが膝を着いた瞬間、地面が隆起し、ゴーレムたちの核を貫く。

 

「ゴーレムの全滅を確認」

「よし、先に進もう」

「――待て!」


 大声を出して止めたのはレイだった。

 レイが真っすぐ睨んでいるのは……私だ。心当たりしかない。


「なぜお前が〈ワン〉を使っている? あれは我が家に代々伝わる奥義! いつ、誰に習った!?」

「キマイラ・ゴーレムのときに、見て覚えた」


 事実だ。

 まあ、気の扱いがなっていなかったから、私の方が威力は高いがな。詠唱は同じだし、効果も同じだ。

 

「それだけで……たったそれだけで、我が家の家宝でもある奥義を覚えただと?」

「その通りだ。構造はとても単純なものだったしな」

「……ッ。奥義は伝えられるために編み出されたものだ。先を急ごう」


 ふむ。合理化したか。賢明な解釈だ。


 私たちは広間の奥に続く道を進んだ。

 何も……罠や仕掛けはないようだ。





 そして奥へ進むと、また大きな広間があった。だが、ここで道は終わり。

 しかし、そこには様々な物が置かれており、少々狭く感じる。


 そして、中央に置かれているのは四角い箱。……あれは棺か。


 こいつの墓だったのか、ここは?

 見た感じ、かなりの影響力、権力を持った者だったようだな。


 部屋の最奥には、どこか神聖さを感じさせる装飾の観音開きの大扉があった。

 扉に描かれているのは……入り口にあった天使と同じものだ。


 


 私たちは軽く黙祷し、大扉へ近寄った。


 ……近くで見なければわからなかったが、魔法が込められてる。

 波長は四つ。しかも、それを守るように幾重にも別の波長が掛かっている。


 ふむ、〈封印シール〉か。


 封印はどこの世界でも厄介な代物だ。

 魔法体系が若干、他の魔法と異なるのだ。つまり、魔法に通じる常識が通じないこともある。


 波長で魔法を管理する私の前には関係ない。どうしようもないこともあるが……。それは置いといて。

 封印にも波長はある。そこに反魔法を当ててしまえば、解除は容易だ。基本はな。

 封印の解除に詠唱は必要ない。反魔法だからな。


 私は扉に手を触れようとすると、電気が走った。

 最後の防衛手段か。だが、私の〈防護膜プロテクション〉を破れはしない。


 私は棍で地面を複数回叩き、それぞれの波長――罠と封印――に合わせた反魔法を放つ。

 

「開いたぞ」

「……そこに何かあったのか?」


 ウィグが棍で叩いた部分を凝視していた。その目は兜で見えないがな。


 私は扉に力を込め、扉を開ける。

 長年開かれていなかったせいか、少々軋んだが……問題なく開いた。


「「な……こ、これはっ!?」」


 騎士たちやアドベンチャラーたちが声を上げたのも無理はない。

 中には…………



 ――何百という白骨によって築かれた、真っ白な山があった。




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