第31話  遺跡調査

 少なくとも八百年前――王国誕生前に造られた遺跡か。

 ここは大山脈の西の王――巨王が支配している領域。しかし、王国に近い山だ。

 王国の歴史に大きく影響される。


 それに、王国誕生前のここら一帯は誰にも支配されていなかった。

 何百何千という小さな村々が存在する、未発達領域だったらしい。


 文明レベルは低い、というのが共通認識だった。

 だからこそ、目の前の遺跡は面倒というわけだ。


 王国誕生以前かつ、帝国で造られたものではない可能性が高い。

 独自の文化による建造物ということは、罠の傾向も読めない。


「……なんだ、この気配は?」


 ウィグとレイ、ケメ、イトシも気づいたようだ。

 遺跡に入った瞬間、なにか……むわっと空気が変わった。

 間違いない。この遺跡には……得体の知れない何かがある。


「注意して進むぞ」


 毒ガスが溜まっている気配はない。


 ……だが、妙に綺麗だ。

 洞窟内部に建てられていたことを考えると、相当重要な何かだったのだろう。

 どことなく、神殿っぽさもある。


「……穴?」


 騎士の一人が、壁に何かを感じたようだ。

 全員、一時停止した。私が見落とした……物理的ななにかか?

 

「どうした?」

「いえ、ここから風が……」


 騎士が壁に開いた小さな穴に顔を近づけたそのとき、


「――うわぁっ!」


 穴から小さな白い何かが出てきて、騎士の鼻に噛みついた。……蛇か!


 即座に近くの騎士が蛇を斬り落とした。


「あ、ありが……ッ!??」


 瞬間、噛まれた騎士の鼻、目、口……ありとあらゆる穴から、血が噴き出て……バタリと倒れた。


 一瞬で致死性の毒が広がった。

 特に、顔部分からの出血が早かった。脳に作用する毒か。顔を噛まれたのがその速さの原因……か。

 

 ――!!


 これは……まずいな!


「私の元に集まれ! 速く!!」


 みんなを集めたあと、全員を守るように半球状に〈障壁バリア〉を展開する。〈障壁バリア〉の外に魔法を設置する余裕などなかった。


 穴は壁に、天井に……至る所に開いていた。

 ただのぼろ建造物の隙間だと認識していた。

 幸い、地面には開いていないが……。


 穴から無数の白蛇が這い出てきた。

 まずいな。〈障壁バリア〉に阻まれ、中から攻撃はできない。


 ……ふむ、〈障壁バリア〉の構造を変化させるか。

 今は一枚の膜でできている。本来なら、十分に時間が取れるときにやりたかったが……今の魔法制御技術であれば、成功できるはずだ。


「……なぜ〈障壁バリア〉のマジックアイテムを?」

「それより、もう一枚張れるか?」

「……私がやりましょう。――起動」


 ウィグがベルトに差さった短剣を取り出し、地面に突き刺した。

 

 ……私の〈障壁バリア〉の内側に、薄い膜が形成される。


「〈障壁バリア〉の劣化版ですが、これら相手なら問題ないでしょう」

「助かる!」


 私は〈障壁バリア〉の構造を弄る。


 私がやりたいのは、〈障壁バリア〉を一枚の大きなプレートではなく、数枚の小さなプレートをいくつも集めて形成することだ。

 そうすることで、一部に穴が開いても〈障壁バリア〉全体が消えることもなくなる。


 …………なかなか難しい。

 

「――できた!」


 難しいと思った瞬間に完成するとはな。

 

「――〈障壁バリア〉!」


 私は進化させた〈障壁バリア〉を張り直す。


「解除してくれ」

「……わかりました」


 私はウィグに、ウィグの張った〈障壁バリア〉もどきを解除させる。

 

 外はすでに蛇の山だ。


「――〈火球ファイアー・ボール〉」


 私は半球状の〈障壁バリア〉の上のプレート一枚を消し、そこから〈火球ファイアー・ボール〉を放つ。

 軌道を変え、外の蛇たちの山の上に着弾させる。


 蛇たちは炎に呑まれ、絶命する。

 だが、それもほんの一割にも満たない。仕方ない。


「――〈火雨ファイアー・レイン〉」


 続けて、遺跡の天井から火の雨が降り注ぐ。

 中級だが、威力は〈火球ファイアー・ボール〉に劣る。しかし、その効果範囲はかなり広い。

 蛇たちは毒こそ協力だが、体は脆弱だ。殲滅に大して時間は掛からない。


「終わったぞ」


 蛇はこれ以上出てこなさそうだったから、〈障壁バリア〉を解除した。

 予想通り、これ以上は現れないようだ。しかし、念のために壁の穴は塞いでおこう。


 しかし、必要もない詠唱をいちいちするのは面倒だな。

 だが、そんなことは言っていられない。何があるかわからないからな。詠唱を必要とする世界では詠唱を怠らない。

 ……詠唱する必要性がないことを確認できるまでは。


「――〈土操作コントロール・グラウンド〉」


 私は周囲の土を動かし、穴を塞ぐ。

 よし、完璧だ。


「引き続き、気を引き締めて進もう」


 騎士一人死亡か。

 ここで埋めるべきではない。


「…………〈死者衣コールド・コフィン〉」


 死んだ騎士を氷の棺で包む。

 帰りに連れて帰ればいいだろう。





 少し進むと、大きな下向きの階段が現れた。

 大人五人が横一列になっても通れるぐらいの幅はある。しかし、先ほどのように……っと、魔法の波長が見える。


 私は棍で地面を複数回叩き、階段に設置されたそれぞれの罠魔法に反魔法を放つ。

 設置型の魔法は反魔法を当てると簡単に解除が可能だ。


「よし、行こう」


 私は階段を降りた。




 まだ、この先に何が待ち受けているのか……私は知らない。

 

 




  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る