第30話  遺跡へ

 私たちが隊列を組み、遺跡調査に乗り出してから、すでに一時間が経過していた。

 遺跡内部は暗く、道も狭かったが、ようやく大広間に出た。

 道中、魔獣は一切現れず、大した罠もなかった。


「ここで休息を取ろう」


 新たに火の玉を複数生成し、広間中を照らす。

 そして〈地面探知ディテクト・グラウンド〉で広間中を探知するが……何もない。

 広間の奥から、一本の道が伸びている。


「……何もありませんね」

「ああ、何もない。休息を取っても大丈夫そうだ」


 騎士の言葉を断定形にして繰り返し、休息を促した。

 休めるときに休まなければ、これから先、どうなるかわからない状況に対応できなくなる。


 ……広間の端に猿の白骨が転がっている。魔獣が存在したのは確かだろう。一部の骨が欠損している。

 しかし同時に、魔獣の死体も多く転がっている。猿たちは善戦したようだ。


 ……おっと、お出ましか。


「魔獣が出てきた」

「どうしますか?」

「……大して強くなさそうだ。誰が行く?」


 正直、面倒というか……ここまでの功労者は私なのだ。

 少しぐらい休ませてくれてもいいのでは、というわけだ。というか休ませろ。


「そういうことであれば……私が行きましょう」


 槍を持った聖騎士――ウィグが進み出た。

 

「魔獣は何匹いますか?」

「……手前から三、奥に二だ。おそらく、シャドウハウンド」

「承知しました。――〈ポイント〉」


 ウィグは〈ポイント〉を一撃、放った。

 それだけで五匹の魔物は体を大きく貫かれ、絶命した。


 ふむ……まだまだだがな。

 私の〈点〉の下位互換だな。しかし、強力な一撃だ。なるほど……ポイントか……。


「……死んだな。あれだけのようだ」

「しかし、こんな場所にシャドウハウンド? まさか、外と繋がっているのでは?」


 ……いや、正確にはあれはシャドウハウンドではない。

 額に角の生えたシャドウハウンド、とでも言おうか。亜種だ。


「いや、亜種だな。洞窟に生息する亜種か何かと見るのがいいだろう」





「――さて、そろそろ出発しよう!」


 レイがそう言うと、一同は立ち上がった。

 一時間歩きっぱなしで、肉体的疲労は少ないとはいえ、精神は張りつめられていたのだ。精神的疲労があるだろう。

 三十分もの休息は、それらを癒すのに十分な時間だったはずだ。


 まあ、先頭である私が一番疲れるはずなのだがな。

 魔法を使って探知していたおかげで、疲労は軽い。それに、伊達に六千年以上生きていない。


 私たちが歩き出した瞬間、突如として魔法の波長を探知した。


「止まれ。何か来る! 警戒態勢!」


 ウィグは……気づいていないか。


 この波長は……〈転移テレポーテーション〉か。

 味方だと嬉しいのだがな。そんなわけないか。


 私は棍を地面に着け、音を鳴らし、〈転移テレポーテーション〉の反魔法を放つ。

 発動から時間が経ったせいで、阻害こそできないが……遅らせることはできる。


 数秒後、私たちが態勢を整えたとき、ようやく〈転移テレポーテーション〉が発動した。

 ……人ではない。


 姿を現したのは、奇怪な生き物だった。

 化け物、と呼びたくなるような見た目だった。 


 目は三つあり、腕は四本。皮膚の色は緑色、尻尾が三本もある。口は耳元まで裂け、中にはびっしりと細かい歯が並んでいる。

 おまけに、強い。……そこそこな。


「……私とレスク殿で相手をする! その他は後方で警戒!」


 ウィグが指示を出す。

 的確な指示だ、悪くない。私一人で相手しても問題ないがな。

 レイは念の為に待機か。あの日、私の位置を正確に把握したレイなら安心だな。


 それにしても、〈透視シー・スルー〉で体内が観察できるとは。あいつの向こう側を警戒して発動したつもりだったのだがな。

 中身がまるで詰まっていない。特徴的なのは、三つの心臓のみ。


「……私が片付けよう。――〈火矢ファイアー・アロー〉」


 私は三本の炎の矢を生成する。 

 それらを寸分違わず、三つの心臓に突き刺す。

 そして、編み込んだ爆発の波長を起動させる。


 ……焼失した。


「今のは一体……?」

「わからないが、何者かによって、人為的に生成されたなのは間違いない。……今回の遺跡調査、厄介なことになりそうだぞ」


 これだけの戦力が派遣されていてよかった。

 聖騎士一人でも手に余るだろう。


 それにしても、今の化け物からほのかに漂うこの匂い……。


「……っ。これは死臭か?」


 香りを嗅いだケメがそう言う。


 やはりか。

 つまりこれで、生成物であることが確定したな。


「外と連絡が取れるマジックアイテムは持っているか?」


 私は後方の騎士に尋ねた。


「はい、それでしたら私共が身に着けております」

「異常が発生したらすぐに知らせるように。魔法であれば私が見破るが、それ以外はな……」

「「は!」」


 一度経験したことがある。

 強力な磁気が発生し、人と物の、両方すべての方向感覚を失わせる罠が。


 そのための棍なのだが……鉄製のため、引力を感じやすい。


 罠対策はこれで万全…………だと思いたい。

 しかし最も警戒すべきは、罠でない場合だ。


 洞窟の最奥に存在する洞窟の主、が一番厄介な代物だ。

 そいつとの戦いは、変則的かつ反則的な攻撃をできないと有利に進められない。

 なぜなら、高確率で迷宮の主はそんな攻撃をしてくるからだ。

 

 これだけのメンツを見れば、敵なしに思えるが、それすら凌駕してくる可能性を常に頭の片隅に入れておかないと……命を落とす。




 私たちは奥へ奥へと進んでいった。


 そして、更に三十分ほど進んだところで、ようやく問題の遺跡を発見した。


「これが遺跡……」

「何か、少しでもわかることはあるか?」


 遺跡とは、外観から大体の年代を測定できる場合がある。

 

「……あの天使像……。王国史では見たことがないですね」

「世界史ではどうだ?」

「……帝国の建築方法とは違いますね。ですがどことなく、あらと独創性が目立ちます」


 王国史とは、王国が誕生した年を0としてできた歴史だ。

 世界史とは、大陸でもっとも古い国……帝国の歴史だ。万国共通で、世界史とは帝国史を指すものとなった。


「王国誕生前のここら辺の建築物に、これと似たようなものがあった気が……」

「ああ、あれか。それなら……少なくとも、八百年以上前でしょう……」


 正直、その土地の有史以前の遺跡は厄介だ。

 どんな罠が仕掛けられているかもわからない。既知以前の未知というわけだ。

 それこそ、変則的な、な。


「ということは、独自の文化の天使像ものか?」

「はい、おそらく。国が誕生する前は、複数の民族や、それによって作られる集落などが集まっていたようですので……」

「そうか。……とりあえず、入ってみるしかあるまい」

 

 




  


 

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