第29話  巨王の依頼

 私はアドベンチャラーとして、五年近くの月日を過ごした。

 そして遂に、自分自身の波長の解析まで済ませた。そして、魔法の波長もある程度。


 誰も、私を強いと認識できなくさせることもできる。私の感情を感じさせないこともできる。

 何事も使い分けが必要そうだな。





 死神の右手タナトス・バディ襲撃から早や二十か月。

 私は、ある重要な依頼を受けていた。


 依頼主は……ほんと、何やってんだ、と叱責したくなるのを抑えて。


 依頼主は、大山脈の西の王――巨王だ。


 巨王が……人外が依頼を出せるとはな。

 まあ、人畜無害な彼だし、問題はなかったのかもな。エヴァンスじゃ守り神扱いだし。


 依頼内容は、遺跡の調査。

 なんでも、西の山脈にある山の洞窟内で見つかったらしい。


 発見当初は、巨王が配下の猿を数匹ほど向かわせたらしいが、猿たちが何匹かやられたため、こうして依頼が来たというわけだ。


 ここ、ライアルのアドベンチャラー・ハウスに依頼を出したのは……単に、顔見知りで実力が信頼できる私がいるからだろう。


 そして、今回の依頼には私の他にイトシ、ケメと数人のアドベンチャラー。

 加えて、騎士が十五人と聖騎士が二人。

 

 今は、遺跡の前で打ち合わせ中なのだが……。


「久しぶりだな、仮面の君」

「お久しぶりです、聖騎士様」


 まさか、あのキマイラ・ゴーレムの事件にいた、剣を持った聖騎士がいるとは。おまけにもう一人も、あの槍を持った聖騎士とは。

 戦力としては嬉しいのだが、もう少し聖騎士の内情を知りたかった。

 人手不足か?


「それでは今回の遺跡調査の隊列を確認します。AAランクアドベンチャラー、レスク・エヴァンテールを筆頭に、聖騎士ウィグ・ドミィ、騎士七人、アドベンチャラー六名、騎士八名、Bランクアドベンチャラー、ケメ、イトシ。殿しんがりに聖騎士レイ・マイン」


 槍を持った聖騎士――ウィグが確認を取る。

 誰も異論はないし、間違いもない。


 ……こうして聞くと、声が高いな。

 まあ、音程で言うと……アルトぐらいか。女にしては低く、男にしては高い。


 魔法を見破れる私が先頭、中距離武器である槍を得意武器とするウィグが私の後ろに。

 剣を得意武器とする、剣を持った聖騎士――レイが殿しんがりで、それを補佐するためにケメとイトシか。


 そう、私はAAランクまで昇格したのだ。

 おかげで付き纏う……最早、憑き・・纏うとでも言うべき、不確かな噂が広まっているらしい。

 私は何も――顔以外――隠していないというのにな。確かな噂を流してほしいものだ。

 

「今回の遺跡調査は、西の王、巨王直々の依頼だ。これは異例中の異例。十分に注意して進むように。特にレスク殿。頼みます」

「ああ」


 私に降りかかる重責!

 二十二人の命が掛かっているのだ。

 ……聖騎士は含めていない。〈転移テレポーテーション〉がある私と聖騎士は緊急離脱が可能だ。


 私には〈未来視フューチャー・プレディクション〉がある。

 この五年近くで、私は仮面の能力を自力で扱えるようにもなった。仮面がある以上、必要のないことではあるがな。


 ちなみに、〈未来視フューチャー・プレディクション〉は使うと、現在の視界と数秒先の未来が重なって見える。

 そのため、酔うし頭も痛くなるしで、あまり使ってこなかったが、波長を調整することで、それらを解消した。

 あまり使う機会はなさそうだけどな。


 今の私は、謙虚に自己を評価しても、この二人の聖騎士を同時に相手しても勝てる。

 初級魔法は九割九分マスターした。あとの一分は、私の知らない魔法の存在を考慮して、だ。


 それらの波長を組み合わせ、中級、上級魔法を再現した。

 それとして存在する上級魔法は、書物によると、存在自体が希少らしい。ほとんどの上級魔法は組み合わせで生み出されるらしい。

 まあいいがな。私としては好都合というもの。


 そして切り札として、超級魔法を一つ……編み出すことに成功した。

 どの魔法世界でも、最も編み出すのが簡単かつ、代償が大きい魔法だ。


「――〈武器創造クリエイト・ウェポン〉」

 

 私は左腕にブレスレット状に巻き付けたライアル鉱石から一部を取り出し、地面に投げる。

 それを核として、棍が創造される。


 ライアル鉱石はやはり良い品だ。

 そこら辺の土くれを鉄に変えることもできる。その分、質量を必要とするが、目を瞑るべきだろう。


「棍をどうするつもりだ?」

「足元をつつきながら進むしかないだろう? 魔法の罠であれば見破れるが、落とし穴みたいな、物理的な罠だとどうしようもない」


 一応、〈未来視フューチャー・プレディクション〉で少し先が見えるとはいえ、私が気付かなくてもそこにあったかもしれない。

 ……ちょっと先の未来が見えるだけなんだから……。初級魔法だし、しょうがないけどな。


「なるほどな」


 それに、土属性の魔法〈地面探知ディテクト・グラウンド〉で周囲の地面、壁、天井の様子がわかる。

 落とし穴や隠し扉があれば――かなりの厚みがない限り――わかるだろう。


 棍は念の為の保険だ。奥から何かが飛んでくる可能性も考慮してな。


「明かりはどうする?」

「レスク、できるか?」

「……」


 私は周囲に小さな火の玉を複数生成し、ケメの問いに無言で回答した。

 その中の一つを棍の先に置き、少し明かりを強めにした。残りは目に付いた騎士やアドベンチャラーに渡す。


 なんだか、便利屋扱いされている気がする。


「さて、それでは…………出発しよう!」



 

 

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