第28話 死神の一手
まずは会話で、どうにかしてみよう。〈
「さて、イトシ。こいつらを潰した場合、どうなる?」
「…………こいつらはお偉方とも癒着している組織だ。俺も一時期、所属していた。潰しても表立った問題は起こらないだろうな」
「アジトはどこにある?」
「それはわからない。かつての俺や、こいつらみたいな下っ端には知らされないんだ」
「――俺たちが下っ端だと!? 脱走者の分際で何を!!」
やかましいやつだ。
しかし……よく喋るな。
しかし、どうしたものか。
聞いた限りでは、かなり大規模な組織のようだ。
「お前たちの主と話をしたいな。まず弁明させてもらうが、私は何も、自分で【死神】などと名乗っているわけではないぞ」
「しかし、そう呼ばれ……ように行動した結果で……………か!」
まるで私が悪いみたいな言い草だ。
まったく、どっちが死神だ。噂を広めたのは私じゃないってのに。
「そうだ! 確か、こいつらに暗殺の依頼を………それも、かなりの実力者の暗殺を依頼するときは、対象に【死神】という二つ名を付けるんだ」
「なるほど、そういうことか。誰かがこいつらに依頼を出した、と。道理で二つ名に無理やり感があったわけだ」
私に狙われた魔獣は悉く命を落とすことから、私は死神と呼ばれていると聞いた。
確かに今思えば、根拠が薄かった。そんなの、アドベンチャラーなら誰にだって当てはまることだ。
「どうすれば解決する?」
「………対象を抹殺するしか……」
面倒なことになった。
それより、依頼主はどこのどいつだ? 心当たりは……ないこともないが。ここまでされる筋合いはないぞ?
私はライアルでのみ活動し、それなりに大人しくしていた。
「なあ、なぜ私がお前たちに狙われるんだ?」
「俺たちが知るかよ……」
……面倒だ。
今までの人生で、刺客に襲われた経験は無数にある。しかしどれも、襲われる筋合いがあった。
しかし、今世ではない。人との関わりも薄くしてきた。
唯一ある心当たりは、東のティシザス帝国皇族関係からの依頼。
しかし、常時仮面を着用して素顔を隠している私を、なぜ? という疑問が残る。
皇家特有の特徴は……あるとすれば、ほくろか? しかし、目立つほくろは……鎖骨上に三つ並んだほくろぐらい。……十分か。
こんなもの、誰にも見せたことはない。ワーグナーにも、だ。
……あ、山賊討伐の時は上裸だったから……。見られたとしたらそのときか。
このほくろが皇族由来でないことを願おう。でないと、おちおち服も脱げない。
「ここまで殺される動機がないのは不自然だな。それに他の、お前を言い表すものも、無理やり感があるように感じる」
「そうだな。それも、こいつらへの依頼の一端なのか?」
「おそらくな。【死神】に無理があったし、お前は常に怪しげな仮面を着けている。様々な噂を流されてもしょうがないんじゃないか?」
…………返す言葉もないな。
だが、目的あってのことだ。そう、仕方がない。
「こいつらのトップと話をして……」
「――それはやめるべきだ。一度、仲間が任務に失敗したとき…………死んだ。それが
「なるほど。ちなみに、どう死んだ?」
「……一瞬にして、炎に包まれ…………消えたよ。叫び声一つすら、上げられずにね」
「となると、こいつらもいつそうなってもおかしくは…………」
と言った瞬間、黒ずくめの男たちは炎に包まれた。
たしかに、叫び声一つなく、一瞬で燃え尽きたな。
そこに人がいたことすら信じられない。しかし、間近で見ていたにも関わらず、熱は感じなかった。
つまり、魔力操作技術が超一流であること。
波長も一瞬だし、一瞬で読み取れるものでもなかった。少なくとも六つはあった。
…………ん?
炎が一所に集まって……形を……人の形を形成している。
人の上半身を形作り、頭であろう部分に、小さな穴が生まれる。
『やあ。君が“死神”だね』
声は……中性的だ。男なのか、女なのか判断ができない。
「……お前が
『ご明察。まずは……
謝罪? ……まさか、人違いなどと言わないよな?
さすがの私でも怒るぞ。
『今回の真の標的は、隣の都市の【白面】と呼ばれる暗殺者だった。しかし、何が起きたのかは不明だが……噂が独り歩きし、君に付いてしまったようだ』
「つまり……人違いだと? ふざけるなよ?」
『ああ、
いい加減にしてもらいたいな。
こちらは命を狙われたというのに。
感謝だ? 私じゃなかったらどうしていたつもりだ?
『受け取ってほしい。――〈
瞬間、私の目の前に、金色に青黒い宝石の嵌った
容量いっぱいまで物を入れたのか。
『そして、君を殺せという依頼は、金輪際受け付けないと約束しよう。その腕輪の中に証がある。それを身に着けている限り、安全は保障する』
ふむ……。巨大暗殺組織に狙われないというのは、大きな利益だ。
それに、ブレスレットに入っているものも、どれも実用的だ。
『では失礼する』
炎が消えた。
先ほどの、暗殺者たちを焼き殺した魔法の仕組みは見えた。
暗殺者の肉体を介して魔法を発動したのだろう。
暗殺者の胃の辺りから魔法が発動したのが見えた。食べ物に何か混ぜられていたのかもしれないな。
食べ物に混ぜられていたのであれば、体内に取り込まれるし、短時間で排出される。任務前となれば、何かしらは軽く口に入れるだろうしな。
「……まさか、こんなことがあるんだな」
「どうだろうな。しかし、リターンが大きかったし、とりあえず良しとしよう」
「ははっお前らしいな」
「それと、ここで見たことは他言無用で頼む」
「もちろんだ」
そう、これでよかったのだ。
しかし
先ほどの、炎を介した伝達魔法。遠隔操作であるにも関わらず、魔法の波長の行き先がまるで見えなかった。
僅かに南に向かっていたのが見えたが、すぐに見えなくなっていた。
あの炎の攻撃魔法もだ。
摂取した物を触媒に、遠隔で魔法を発動させたにしても、上級魔法を使うとは。
しかも、いろんな波長を組み合わせたものではなく、
中々侮れない。
私も、魔法の波長の解析を急ぎたいが、複数の波長でようやく一つの上級魔法を形成するものばかりは……な。
ある程度の法則性を見つけるしかあるまい。
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