第22話  頭を〆る

 さて、この都市に二人いる頭の片方を締め上げるとしようか。

 ここに呼んでもいいが……店主は悪くない。逆らえないことは悪いことじゃない。が、罰は受けてもらおう。


 奇襲をかけるか。……それだと味気ない。

 やるなら、真正面からだ。そっちの方が、後々楽になるしな。


「それじゃあ……」


 私は古臭いドアを開け……閉める。

 その際に発生した音に魔法の波長を乗せる。乗せた魔法は――〈気絶スタン〉。

 目に見える範囲に侵入者たちはいなかったが、音が聞こえた者に効果を発揮するように仕組んだ。

 

 扉がバタン、と音を立てて閉まる。

 直後、部屋の中でバタバタンッと、立て続けに何かが倒れた音がする。


 確認するまでもない。

 魔法が発動した。それだけだ。


「さて、と……」


 私はパチン、と指を鳴らす。

 そして〈隠密ハイド〉を発動させる。


 古臭い木造の床は、一歩踏む度に、ぎぃ……、と音が鳴る。

 しかし、それも〈隠密ハイド〉で隠せる。これを破るには、魔法自体を見破るか、私自身の本質――生命いのちや波長を見るしかない。


 そんな技術はあるだろうが……難易度は高いのだろう。


 しかし、物を動かしてはバレるだろう。

 ……しかし幸運なことに、扉は開けられている。すぐにでも突入したいからだろうが……。裏目に出たな。

 

 私は扉を抜け、男の前に立った。


 ふむ……。ハーレムを形成するだけのことはある。

 青い色の髪に、紫色の瞳。整った目鼻立ち。鋭い眼。白い肌。

 美青年を体現したような容姿だな。暗殺者にいそうな顔だ。


 筋肉は私と同じ『柔』だろう。

 武器は……鞭か。剣も携帯しているな。


 私は扉の前まで戻り、〈隠密ハイド〉を解除した。


「「――な!?」」


 その反応にもいい加減飽きた。他にリアクションはないのかね。


「どうも、いい朝ですね」


 絶句する襲撃犯たちに、そう言う。

 相手の冷静さを取り戻させてやらないとな。


「何をしに来た? あいつらがお前を拘束しているはずだが……」

「それを答える義理は、私にはない。降りかかる火の粉を払って何が悪い?」


 こいつらを……この街を取り込む。


 ――私が優雅に過ごすために。


「ふっ……。はっはっは……! いい覚悟だ、少年! これだけの人数を相手に! 勝てるとでも思っているのか?」

「思ってる」

「……っ! くくっ……――やれ」

「「――〈火球ファイアー・ボール〉」」

「――〈火槍ファイアー・ランス〉」


 女たちが火の球を放ち、男が火の槍を放つ。

 男の魔法の練度は少し高めか。消せるが、消す必要はないだろう。


 ――パチンッ


 私は左手の指を鳴らし、九個の〈火球ファイアー・ボール〉を消す。

 魔法を消す波長を音に乗せた。音は放射状に広がるしな。同じ波長の魔法はいとも簡単に消える。


 火の槍は……頭を傾け、避ける。

 ちょうど開いた扉から店の中に入って爆発した。


 やはり、爆発の波長だったか。

 爆発の威力は大したことないとは言え、劣化した木造建築の宿は無事では済まない。

 何、店主へのちょっとした罰だ。


「なに……魔法を消した?」


 ほう、こいつはちゃんと知覚したようだな。そこらの雑兵と一緒にしてはだめだな。

 一センチと三センチ程度の、微妙過ぎるほど微妙な違いだがな。


「……魔法を消すって……そんなことが可能なの!?」

「――知らん! だが事実、あいつは魔法を……九個の〈火球ファイアー・ボール〉を消し去った……!」

「だったら武力で攻める!」


 女の一人がナイフを持って真っすぐ走って来た。ナイフの切っ先は真っすぐこちらに向けられている。


 いい動きだ。しかし、一撃加えればそこで終わりの、捨て身の攻撃だ。

 動きは通り魔だな。通り魔の才能ならあるかもな。


 ちなみにこの場合、一般人でも対処は可能だ。……相手が戦闘経験なしの素人の場合に限り。


 まず、突き出されたナイフを半身で避ける。

 次に、ナイフを持っている手を掴み、相手の背中にもう片方の手を置き、体重を掛け、押し倒す。

 すると通り魔は、腹ばいで倒れることになる。

 あとは上に跨り、ナイフを持った腕を完全に固定すれば……。


「通り魔対処方法、一丁上がり。……と言ったところか」

「ふ……ふざけっ――」

「――寝とけ」


 私は声に〈気絶スタン〉を乗せる。通り魔女は気絶した。

 

 この隙に、残った九人が私を取り囲む。


「……これでお前も終わりだな! 魔法の詠唱をしていなかったところを見ると、魔法具頼りのボンボンだろう?」

「お前がこの都市の頭の片方だな?」

「……そうだ。どうだ? 今、ここで俺の軍門に下れば、命だけは助かるかも――」


 ――パァンン……!!


 私は〈気絶スタン〉を込めて手を鳴らした。対象は……取り巻きの女八人。


「な……また魔法具か!」

「まさか。よく見ろ」


 私は指を鳴らす。次に出したのは〈火球ファイアー・ボール〉。

 

「――ぐあっ!」


 次は〈土弾ロック・バレット〉、そして〈風弾ウィンド・バレット〉、更に〈水球ウォーター・ボール〉を放った。


「馬鹿な……四つの属性を……指を鳴らしただけで……?」

「――さて、ここでお前には選択肢を用意しよう」


 私はぼろぼろの男の目の前でしゃがみ、広げた右手を見せる。

 そして、人差し指と中指以外の指を曲げる。


「一つ、私の配下になる。二つ、今まで受けたこともない屈辱を受ける。ちなみに、人としての尊厳…………わかるな? さあ、どうする? 時間はないぞ」

「…………ッ! くっ……わかった。一つ目を受け入れる……」

「……命あっての物種。賢明な判断だ。お前の配下も望むのであれば、配下に加えていい。ただし、私の前に連れてくることだ。わかったな?」


 とりあえずはこれで終わりか。

 しかし、今はまだ寝首を掻かれる可能性がある。私の魅力カリスマを魅せなければな。

 そして、キマイラ男だが……あいつの配下はどちらかと言えば舎弟で、あいつさえいればまともな者が多い。放っておいてもいいだろう。おいおいだ。




 生後九か月と二週間。

 私は一つの都市のアドベンチャラーの、約半分を配下に置くことになった。 






☆★☆★☆★☆★☆★


少しでも面白いと思った方は、ぜひハート、星、フォローをお願いします!

感想、レビューも待ってます!


それでは引き続き、【アドベンチャラー】レスクの活躍をお楽しみください!!

それではまた〜〜(^_^)/~

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る