第18話  ライアル支部

 ふむ……。先ほどのアドベンチャラー。あれがこの都市のアドベンチャラーの平均レベルだったのか。


 ここがいくら無法都市とは言え、アドベンチャラーたちの実力だけは本物のようだ。

 ……いや、そうであるからこそ、ここが無法地帯でいられるのだろう。




 話を戻そう。


 ハウス内のアドベンチャラーたちだが、エヴァンスのガラの悪いアドベンチャラーなど、赤子も同然……と、思わずにはいられないほど、ガラが悪い。

 エヴァンスのアドベンチャラーがガキ大将とするなら、ここのアドベンチャラーの大半はマフィアやヤクザだ。


 ハウス内には、たしかに元は綺麗な内装だったと思わせる装飾が見られる。

 しかし、そのほとんどは剥がれ落ちてしまっている。


 それに何より、右手側が改装……もとい、改造され、酒場ができてしまっている。

 受付嬢は……いるが、華奢な容姿とは裏腹に、歴戦の猛者の雰囲気を感じさせる。

 ……いや、それぐらいの実力でないと、ここのアドベンチャラーたちについて行けない、ということか。


 私はアドベンチャラーたちを刺激しないよう、気配を薄め、受付へ向かった。


「失礼。……B……ランクアドベンチャラーだ」


 私は「B」の部分を声を落として言った。

 今の私は見た目十五歳ほど。こんな若い見た目でBランクだと知られたら、厄介事になりかねない。


「……ここはおすすめできません。直ちに去ることを、強く・・推奨させていただきます」

「いや、こんな場所だから都合がいい。腕試しに持ってこいではないか?」

「……であれば、私は止めません。……ようこそいらっしゃいました。ごゆるりと」


 ふむ……。Bランクであれば、問題はないと思われたか?

 なるほど。平均的な強さは高いが、そこに集約している、ということだろう。


「早速だが、何か依頼はあるか? 溜まっているものがあるなら、片付けるが……」

「であれば、特には。この付近は魔獣の群生地帯ですので、ここのアドベンチャラーさんたちが、依頼を受けずに退治してしまいます」


 それだけ聞けば、何もすることがないように思われるが……。

 波長は隠しきれていないようだな。まだ何かを隠している。いや……もったいぶっているのか。


「ふむ。……まだあるのだろう?」

「……よくおわかりになりましたね。その通りです。西の森の奥に生息するキマイラの討伐がありますが……どうなされますか?」


 受付嬢は一枚の紙を取り出した。

 ……キマイラ討伐。討伐目安はCだが、なぜ誰も受けないのだろうか?

 この街のアドベンチャラーであればこの程度、難しくないはずだ。


「そもそもキマイラとは、滅多と出会うことのない希少な魔獣です。攻撃手段も多彩なので、誰も受けたがらないんですよ」


 なるほど。

 希少なうえに攻撃手段が多いため、わからない手の方が多いから面倒、ということか。


「どうなされますか? 長年達成されていない依頼なので、報酬は弾みますよ?」

「キマイラを倒した場合、環境……生態環境への影響は?」


 そう、魔獣を倒すうえで一番懸念すべきは、生態環境への影響だ。

 まあ、依頼として出されている時点で問題はないんだろうが……念の為、な。

 長年放置されていたのなら、生態系に組み込まれていてもおかしくない。


「ありません。なんでも、キマイラは洞窟の奥に生息しているらしいので。たまに調査員を森に派遣しているので、何も問題はないかと……」


 ふむ……。酔狂な魔獣だ。

 もしかしたら、Cランクではすまない可能性が高い、か。見ただけでは、強さの変化などわかるはずもあるまい。


「では受けよう。場所は?」

「西の山の頂上付近に位置する洞窟の最奥です。広い空間となっているため、内部での戦闘は可能でしょうが……お気をつけください」

「ああ、ありがとう」


 私は依頼書を持って、ハウスの扉へ向かって歩き出した。

 やはり、と言うべきか。…………絡まれた。


「おいおい僕ぅ? ここに来て早々、あの・・キマイラを討伐しようとするたぁ、いい心構えじゃねぇか」

「こんな細い体で、キマイラの相手が務まんのかい? どうだい? あたしを雇わないかい? 安くしとくよ?」


 やれやれ。粘っこい喋り方だ。


「一緒に来たいなら来てもいい。ついてこれるのならな……」


 私はそう言い残すと、早々にハウスを出た。

 ハウスの前の通りの真ん中に立つと、やはり、先ほどのアドベンチャラーたちが飛び出てきて、私を囲んだ。


「おいおいおいおいぃぃいい……」

「舐めた態度取ってんじゃないよ。ここのルール、知らないのかい?」

「年上と先輩は敬いましょうって習わなかったか?」


 習ってない。

 目上の人と接するときに敬語を使いましょうとは習ったがな。


「痛い目見たくなけりゃ、その仮面を外して、両手着いて額を地面に擦り付けてさぁ。……謝れよ」

 

 はぁ……。面倒だな。

 私の話を聞いていなかったのか、こいつらは。


「さっきも言っただろ? キマイラを倒したい、私を貶めたいのであれば、私より先にキマイラを討伐することだな」

「ぶち殺――!!」


 男が何かを言い終わる前に、私は手を叩いた。音に〈麻痺パラライズ〉を乗せた。

 アドベンチャラーたちは地面に倒れた。


「な……なに……をぉ?」


 私は地面で呻き声を上げるアドベンチャラーたちを一瞥し、腰を低く落とした。

 そして地面を蹴り、勢いが消えないうちに宙で〈閃撃〉を発動させ、山へ飛ぶ。


 飛ぶ際の角度がかなり急になったが、まあいい。結果的に、成功したのだから。

 ……つま先が屋根に掠ったけどな。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る