屑拾い


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 働くぞー。

 今日は『屑拾い』に行く。斡旋所で紹介されて給料をもらって働くわけではなく、自分で脚を用意して漁り場まで行ってお宝ゲットして帰ってくる、完全出来高制だ。

 仕事の現場は街の外の廃墟である。


 この世界の地面は地震がしょっちゅう起こるせいか流砂や土石流がそこらじゅうで起こっていて、街や都市は比較的安定した地殻のうえにしかできない。

 その街や都市も浮島のように地殻ごと漂流し続けているので、たまに街どうしが近づくことがある。ずっと街の中にいて安全に暮らすような一般人にとっては商売や出会いのチャンスだ。ほとんどの場合はお祭りイベントのような扱いで経済が活性化する。

 ごくまれに敵対的な街が近づいてきたときには大規模戦闘になる。野盗が大勢集まった巨大アジトの街になっているような場合にそうなるのだが、地域によっては街どうしが戦争をするのが当たり前のような物騒なところもあるらしい。

 そして友好的でも敵対的でもどちらでもない街──『死んだ街』が近くへ漂着してきたときは、そこは屑拾い屋たちの格好の稼ぎ場となる。


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 よく晴れた朝、日の出と同時に出発の時間になった。

 ジャンク街の沖に、屑拾いたちが稼ぎ場へむかうための船──巨大なホバータンカーが出ている。砂漠を海として移動できるホバー車両だ。タンカー船を太い台形にしたようなズッシリとした見た目で、砲などの武装が少なく輸送用のものだとわかる。

 普通の車輪の車両は街の中でしか使われないが、ホバー車両は荒野でもそれなりに使われている。数メートルほど浮遊できるので、荒野の劣悪な路面をある程度まで無視して動けるのだ。崖や山はさすがに無理なので龍震による地形変化に弱いが、安定したルートの大量輸送には適している。

 屑拾いたちが縄梯子で乗り込んでいく。俺と同じ肉体労働者たちがゾロゾロと砂漠の海を歩いてホバータンカー傍に集まり、ブラブラと揺れながら縄を登っていく………のだが、渋滞している。せっかちな獣人などは自力で壁を登っている。

「なんでこんなもんで」「しょうがねえだろ、故障中なんだから」「おい揺らすな、ひとりづつだ、揺れるっ」「金払ってるってのに」

 大型車両用の桟橋やタラップはあったのだが、どうやら少し前にキメラ蟲の襲撃で壊れてしまって、こんなことになっているらしい。

 ホバータンカーに乗るには乗車賃が要る。荒野で移動するためのコストは安くはない。これから重労働で元手をとらないといけない屑拾いたちにとって、朝一番でこんな手間は面倒だろう。

 意外と縄梯子に慣れていない人間が多いので、俺は下の端を掴んで引っ張る役をしてやることにした。ピンと張ってやればかなり楽になる。パンツと同じだ、ブラブラさせていては動きにくいのだ。

 こうして登っていくのを見送っていると若い労働者が多く、子どものような年齢の者もかなりいるようだ。身一つしか無いが危険を承知で稼ぎたい意欲のある奴らということか。

 タンカーの中央部では労働用アーマーがクレーンで吊り上げられて積み込まれている。現地での作業用なので最下級アーマーばかりだが、部分的に重装甲化されており、自衛能力と生存性がやや強化されている。街の外では最低限これくらい必要ということだろう。低予算で改造されたジャンクマシン感のあるアーマーというのもなかなか味があるものだ。

 俺も縄梯子を登りきると、船橋?のような高いところにカッコいい赤いアーマーが立っているのが見えた。空力特性をそなえた曲線装甲、鋭角なジェットスラスタ、高精度なカメラアイ……労働用アーマーと比べると段違いに高性能なことが一目でわかる。装甲が角度によって虹色に見えるのは対光熱コーティングがデフォルトで備わっているからだ。そのせいでナノメタルによる自動修復コストが高くなるらしいが。

 あの女神のように美しい紅いアーマーは何者だ? 


『ジェイ、なにをボーっとしている。面倒は起こすなよ』


 まあ、当然、それはリンピアの機体赤兎セキトだ。

 リンピアと赤兎はタンカーを警備するための戦闘役として雇われている。本来ならただの乗客である俺の方は乗車賃を払わなければならないのだが、リンピアが交渉して無料になっている。リンピアさまさまだ。


「心配するな、なにもしない。今は回収屋の作業用アーマーを観察するのに忙しい」

『……大人しくしておけよ』


 ボー、と汽笛のような音が響いた。地球のフェリーをちょっと思い出す。

 ホバータンカーの振動が大きくなり、砂漠の海を進みだした。


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 数時間で目的地に到着した。

 ボロボロの建築物がいくつも倒れ折り重なっている。何か大きな力でなぎ倒されたような壊れ方だ。アスファルトやコンクリートの地面もひび割れ歪んでいて、人の足で歩き回るのは困難だ。

 ここは岩の街のいちばん近くにある屑拾い場──数年前に漂着してきた『死んだ街』だ。殺人機械マーダーの大群の襲撃をうけて壊滅した街だったようで、街中には迎撃されて破壊された殺人機械も転がっている。街と殺人機械の残骸が両方とも狙えるということだ。

 もちろん既に高値のつく代物は回収されたあとなので、そこらを見渡しても屑鉄くらいしか落ちていない。だが屑鉄でも溶かせば資材になるし、たまに見落とされていたお宝も見つかる。危険なやつらは排除されたあとなので安全にそこそこの収入が手に入る。アーマーという資本を持たない身体一つの屑拾いにとっては十分な稼ぎ場になるわけだ。


 ホバータンカーは廃墟のなかでも原型を留めているビルに近い場所にとまり、作業用アーマーを降ろし始めた。

 今回回収屋がやってきたのは、この廃墟のとあるビルでまだ使用可能な大型発電機が見つかったからだ。それを引っこ抜くために作業用アーマーをホバータンカーに乗せてきた。

 回収作業のあいだ、同乗してきた屑拾いたちが拾ってくるジャンクパーツなども受け付けて積み込んでいく。正直、乗車賃をとって屑拾い屋たちを乗せるのはオマケだろう。だが彼らが廃墟を漁った結果もたらされる情報は馬鹿にできない。今回のような大物すぎるお宝はただの屑拾いには回収できるはずもないので、それを発見した屑拾いは位置データを売る。それを買い取った回収屋が、また漁り場へと船を出すことになるわけだ。持ちつ持たれつである。

 ちなみに『屑拾い』とは身一つでジャンクパーツを漁るような者をいう。『回収屋』もやることは同じだが作業用アーマーや重機を用いるような者を指す。これに対して『ディグアウター』は遺跡のような危険地域を戦闘用アーマーで攻略する者たちのことだ。やっていることは同じく金目のものを拾ってくることで、とくに明確に区切られているわけではないが、だいたいのイメージで呼ばれている。今回のように、ディグアウターが回収屋と同行することもある。


『じゃあ、私はタンカーの護衛についているからな。なにかあったらすぐにこっちまで戻ってくるんだぞ』


 リンピアの赤兎セキト機がホバータンカーのそばに立ってライフル砲を構えている。

 このホバータンカーは回収屋にとっての仕事の要だ。当然リンピアやタンカーの持ち主の回収屋はこいつを最優先で守り、廃墟へ入っていく屑拾いたちは二の次となる。タンカーに近いほど安全で、遠いほど危険になるわけだ。

 ここの滞在期間は発電機回収の進捗次第だが、予定では三日間ほどになるらしい。その間、日が暮れるたびにタンカーへ戻ってくるか、ぶっ続けで廃墟の中を漁り続けるかは屑拾いたちの判断次第だ。


『日没前には必ず帰れよ』

「了解」

『大型の虫なんかはとっくに駆除済みだが、雑魚はまだいるだろう。新しく巣を作っていることもある、あまり奥には行くな』

「了解、ほどほどに拾って帰ってくるよ」


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「といっても、掘り出し物ってのは危険な場所に眠ってるもんだよなあ」


 俺は廃墟の街の奥へとズンズン進んでいった。

 タンカー近くで溶かして資材になる屑鉄を集めるか、危険地帯でお宝を狙うか。屑拾いのパターンは2つに分かれる。

 俺はハイリスクハイリターンをとりたい。屑鉄ばかり集めていても並の金にしかならず、街の中で安全に働いているのと変わらない。せっかく街の外まできたのだから大きく稼いで、はやいところ自分のアーマーに乗りたいものだ。

 そこそこ歩いてきたが、金目のものはない。ボロボロのアーマーの片腕や下半身だけの残骸などのハズレだけだ。なんだか田舎の空き地によく錆びた車が転がっていたのを思い出す。こんなものは鉄屑としての価値しか無いし、これを拾うにはタンカーから距離がありすぎる。

 ほかの屑拾いたちも、俺と同じくらい奥に来ているのをチラホラ見かける。考えることは同じということか、掘り出し物はそうそう見つからないということか。まあ稼ぎたいならこれが正しいということは確かだろう。


「おー、やってるやってる」


 ダーンという銃声や固いものが倒壊する音が聞こえてくる。

 屑拾いはアーマーこそ持たない漁り屋たちだが、そこそこちゃんと武装している。砂埃を防ぐ外套、胴を守るボディープロテクター、戦闘用も兼ねたハンマーや大型バール、大型拳銃や安価なサブマシンガンすらも平均的な装備のようだ。

 探索しつつ中型のキメラ蟲までならなんとか撃退して金に変え、大型の蟲や殺人機械が来たら逃げるというのが一般的らしい……という光景を実際に何度か見かけた。同じ屑拾いと言っても、ここまで奥に来るやつらは狩りを兼ねていることも多いようだ。

 俺はといえば武器はすぐそこで拾った鉄筋一本だけだ。鉄筋丸と名付けた。錆びているが発掘品由来の建材なのか異様なほど頑丈で、俺が本気で瓦礫へ叩きつけてもかすかに曲がるだけ。気に入ったのでナノメタルの棘を生やして細い釘バットのようにした。虫相手なら十分だろう。


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 2時間ほど倒壊しかけの家屋を漁りまわっているが、成果は芳しくない。

 割れた圧縮水ボトル。

 無傷だが内部に汚臭ヘドロが詰まった料理プリンター。

 焼けて曲がった工具。

 便座カバー。

 まずい。このままではせっかく奥まで来た意味がない。タンカー近くで屑鉄を集めていたほうがマシだ。とはいえこれより危険地帯となるとこの街を襲った大型殺人機械マーダーの生き残りがいる可能性がある。キメラ蟲なら大型でも時間をかければ削り倒せるが、大型殺人機械はさすがに硬すぎて無理だ。アーマーの火力が要る。

 悩んみながら歩いていると、戦闘音と人の気配が近づいてきた。


「あら、ピンチか?」


 屑拾いの集団が中型のキメラ蟲に襲われているところを見かけた。

 フードマントをかぶった小柄な屑拾いたちだ。どうやら装備が貧弱で苦戦しているらしい。数人が拳銃を撃っているが火力不足だ。ほかはバールやナイフしか持っておらず、攻めることもできていない。

 逃げるべきじゃないかと思うが、撃退にこだわっているように見える。なにか理由があるのか?

 どうしよう、助けるべきかスルーすべきか。

 ……。

 考えるの面倒くさいな、助けよう。


「よっと」


 鉄筋を投擲。これくらいなら回路で筋力増強するまでもない。

 ブンと飛んでいった鉄筋はキメラ蟲のど真ん中に突き刺さり、串刺しにして動きを止めた。まだ生きているが、足をバタバタするだけで何もできない。


「いまだっ やれやれー!」


 小柄な屑拾いたちは身動きできなくなったキメラ蟲をボコボコにした。


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「なんだよ、礼は言わねーぞ」

「ココはオレたちが見つけ場所だ」

「あっちいけ!」


 小柄な屑拾いは少年たちの集団だった。薄汚れたフードから幼さの残る顔が覗いている。マントの下はただの服らしい。数人だけが持っている拳銃は弾切れ寸前のようだし、貧弱な装備だけでここに来てしまっているようだ。大丈夫なのだろうか。

 彼らはオタカラを発見し、掘り出し作業中だったらしい。だから手強い蟲にも逃げなかったのか。

 野生動物のようにシャーシャー威嚇してきているが、あまり腹は立たない。助けたのは見返りを期待していたわけではなく、ただ反射的に虫を駆除しただけだ。そしてそれは、親切な行為とは言えない。無法地帯ではただの虫よりも人間のほうがよほど怖い、そんな状況で勝手に近づいて援護とはいえ攻撃行為をしたのは俺の方なのだ。

 どうしよう。警戒を解くか、このままスタコラ去ってしまうべきか。

 とか考えてたら、ほかの少年たちが難儀しているのが見えた。


「なんだこの棒」

「ぐぐぐ……おいこれ抜けねえぞ」

「聖剣かよ?」


 どうやら中型キメラ蟲に突き刺さった鉄筋丸を抜こうとしているようだ。

 瓦礫に固定されている蟲の体が、掘り返す作業の邪魔になっているらしい。

 もう少しだけ手助けをしたら好意的になってくれないかな。


「それ、トゲ付いてるんだよ。抜いてやろう」


 刺激しないように歩み寄ると、掘り出し少年たちはサッと距離をとって威嚇のポーズになった。

 ……拒絶ではないようだ。

 棘はナノメタルなので硬化解除すれば楽に抜けるが、わざわざ錬銀回路を実行するのも勿体ないし、そういえばあまり人前で見せるべきではないと言われた気もする。

 力任せで引き抜く……引き抜こうとしたら、突き刺さった先の瓦礫ごと引っこ抜いてしまった。


「おおっ」

「なんだその棒」

「勇者じゃん」


 子供屑拾いたちが口を開けて感心してくれている。

 好感触か?と思った時、なにか嫌な音が聞こえた。


「おい、崩れるぞ!」


 どうやら引っこ抜いたせいで瓦礫の山が不安定になったらしい。

 ガラガラドコドコと雪崩を起こして崩落する。

 崩落がおさまると、瓦礫の中になにかが見えた。


「最下級アーマー……いや、ちょっと改良されてるな?」


 瓦礫の中にアーマーがあった。ほとんど損傷がなく、ナノメタルを補給すれば自動修復して動きそうだ。おそらく過去この街で使われていたものだろう。

 ディグアウターにとっては最下級アーマーはハズレ扱いだが、それは嵩張るわりに金にならないからだ。ジャンク屋に並ぶときは安い中古車ほどの値段にはなる。それに実際に街の中で働いているものはジェネレータや駆動系をチューンアップして使いやすくされることが多い。最安中古の原付きと業務用スーパーカブくらいの差だ。これが作業用アーマーとして実用されていたものならそれなりの金になるだろう。

 機体に歩行させれば簡単に持ち帰れる。ゆっくり歩かせるだけなら整備用機能で比較的楽に外部実行可能なのだ。

 屑拾いとしては『当たり』だ。


「あっぶね!」

「あ、出てきてる」

「オイ見られたぞ、どうするよ」


 やべ。

 また好感度が下がった、というより警戒度が上がった。

 やっぱりさっさと撤退すべきだったか。今からでもずらかるか。

 と思っているところ、やや年長の少年が歩み寄ってきた。


「やめろ、おまえらは掘り返すのに戻れ」


 鋭い目をした少年だ。拳銃を2丁持っている。若いが手下を従えるのに慣れている様子で、どうやらリーダー格らしい。

 鋭い視線をうけた少年たちはキビキビと作業に戻っていった。


「アンタ、ナニモンだ? ひとりなのか?」


 リーダーくんは俺の相手をしてくれるようだ。

 なにかお礼くれないかな。


「二人で来たけど、今はひとりだ。相棒はアーマーで仕事してる」

「ふん、お前はアーマー持ってないのか」

「そーなんだよ、早く買いたくて屑拾いに来たんだ」

「そんな素人まるだしの格好で?」

「最近街に来たからな」

「どうりで見ない顔なわけだ」

 

 攻撃的ではないが、俺をいぶかしんでいるようだ。

 警察のひとに職務質問でもされてる気分だ。警察のひとって優しい人と怖い人の二人組で、怖い人が尋問担当だったりするんだよなあ。優しい人きてくれ。まあ優しい人は追い込まれた獲物を待ち構える役なんだけど。

 とか暇つぶしに考えてると、他の子が掘り返している作業が目に入ってくる。


「こっちは無理だぞ」

「そっちを先だな」

「よし、そこ砕け」


 見物しているうちに、アーマーはどんどん掘り起こされていく。子供でも立派な屑拾いだ。

 アーマーはついにその姿を表したが……


「よしゃ」

「あれ?」

「脚が……」


 瓦礫が取り除かれると、残念なことがわかった。アーマーには下半身が無かったのだ。完全に潰れていて股関節の残骸がくっついているだけだ。


「チッ……ハズレだ」


 俺の相手をしていたリーダーくんは悪態をついた。

 さっきまで当たりだと思われていた掘り出し物は、ただのハズレに変わった。脚が無いせいで持ち帰ることが非常に難しくなったからだ。こんな重量物を移動させるには作業用アーマーを連れてこないといけないが、この場所までは悪路ばかりで難しいし、彼らは別の雇い主に高給で雇われている最中だ。パワードスーツや携帯圧縮倉庫があれば最適だが、そんなものを持っている金持ちはもっとマシな仕事で稼いでいる。

 このアーマーがアタリだったのは、あくまで身一つの屑拾いが持ち帰ることができればの話だったのだ。歩行不能では、到底無理だ。


「アンタも残念だったな、オコボレは無しだ。オヒトヨシには感謝するが、オレ達には礼を返す余裕なんて無い。これからは親切をするときは、もっと金ェ持ってそうな奴らを相手にするんだな」


 リーダーくんは俺を小馬鹿にしたように鼻で笑った。アウトローを気取ったような態度だ。

 俺ももう、『お礼』を受け取る気は失せていた。彼らは本当に金なんて持っていなさそうだったからだ。


「ここもハズレか……クソ……」


 リーダーくんは強がっているが、目から力が消えている。鋭い目つきだと思っていたが、よく見るとやつれている。疲労と栄養不足だ。


「……」

「……スカかぁ」

「……」


 ギュウウと腹の鳴る音が聞こえた。腹いっぱい食えるだけの金が手に入ると、ついさっきまで想像していたのだろう。

 少年たちはパタリと静かになった。消沈している。怒る元気すら無い様子だ。手足は土と瓦礫の粉塵にまみれ、爪は黒く、フードマントは汚れきっている。

 屑拾いたちはホバータンカーに乗車賃を払ってこの漁り場にやってきている。こんなに奥まで苦労して侵入して成果無しなんて最悪だ。銃弾などを消費していればさらに赤字。次以降の仕事にすら影響が出るかもしれない。

 屑拾いをやるようなやつらにはまともな貯金なんて無い。ひとつ黒字が出なかっただけでも人生が行き詰まって、そこから転げ落ちていくというのは身近でありふれた人生だ。ジャンク街にはそういう終わった人間がいくらでもいる。

 少年たちは終わりを感じ取っていた。その気配を。


「なるほど、よくわかった」


 俺は『お礼』をもらうのは辞めることにした。


「おまえら、ソイツを俺と『山分け』にしないか。俺がソイツを持ち帰ってやる」

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