第五話

もう時間がない。

急がないと。

僕は、一番忘れることのできない友人を探していた。

友人…というより、友人だったと言った方がいいかもしれない。

なかなか見つけることができなくて困っていたら幼馴染が彼の連絡先を知っていたので教えてもらった。

いじめられていた僕から連絡が来たことに

とても驚いた様子だったが、この前の

クラスメイト同様いじめていたことを忘れたかのように接してきた。

いじめをしていた人達っていじめをしていたという認識がないのかもしれない。

された側は一生忘れることなんてないのだけれど。

僕はどうしても彼に会わなければいけない。

適当な理由を並べて会う約束をすることができた。

早く、早くしないともうそこまでせまってきているんだ。


彼とドライブしながら僕は楽しそうなふりをして学生時代の話をしていた。

時々本心がでてしまって

“もっとちゃんと仲良くしたかったよ”

などと言って彼を困らせてしまった。

まだ本当の気持ちを言ってはいけない。

もう少し我慢しなくては。

僕は一軒の空き家へと彼を連れて行き

「昔みたいに探検しようよ。

一緒に色んな所に行ったみたいに」

と言った。



彼と探索しながら僕は話し始めた。

『あの頃…仲がよかった頃、二人で色んな

いたずらしたよね。

理科準備室で骸骨の模型壊しちゃったり、

友達の椅子引いてころばせちゃったりしてさ』


「そういえばそんなことしたな。

よく覚えてるな」

彼は笑いながら言う。


『いつも一緒にいて君は僕を守ってくれた』


「そうだったかな」


『僕はさ、あの当時みんなに理解されなくてすごく辛い毎日を過ごしてたんだ。

でも、君だけは普通に接してくれてすごく嬉しかった』


彼は黙っている。


『まさか、男でも女でもない心で生まれてきたなんて、その当時は僕ですら分からなくて…。

見た目は女なのに着る服も言葉遣いも男だったからみんな変人扱いしていじめてきて…』

言葉は止まることなく勝手に溢れでてくる。

『君だけは味方だと思ってた。

思っていたのに…いつ頃からかみんなと一緒にいじめるようになったよね。

すごく悲しかった』


彼は段々足元がおぼつかなくなってくる。


『心にぽっかり穴があくってこういうことなんだってすごく実感したんだ』


立っていられなくなり膝から崩れ落ちる彼を見ていた。


『どうして…どうして君は変わってしまったの?』


ガタンと床に仰向けに倒れた君は顔だけ

こちらに向けて

「何をしたんだ?」

と聞いてきた。


『さっき、君の飲み物に毒をいれたんだ。

神経が麻痺していって最後には死んでしまう』


「なんだって…?」


『でも、心配しないで。

僕も一緒に行くからね』

そう言って持ってきていた大量の睡眠薬を

飲み、体が動かくなった彼に寄り添った。

『僕はね、君のことがずっとずっと好きだった』

薄れゆく意識の中で彼をそっと抱きしめた。

最後に…僕から“私”へプレゼントだ。

遠くでパトカーのサイレンが聞こえる。


“自分勝手な僕へ。

ねぇ、“私”が間違っていたんだ。

生きるのは辛いね……”


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もう一つの『0』 梅田 乙矢 @otoya_umeda

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