第14話 こんな

 「以上が、今日の出来事だ」


 「おつかれさ~ん」


 事務所に戻り、カエルのぬいぐるみを手入れしながら内容を不誠実に聞き流すバカ

神原。


 「そういうお堅い話はいいから、ご飯食べようぜ~」


 命がけの案件の後でも平然とこういう態度を貫ける血も涙もない男に作る飯は無

い。そう言ってやりたいが、心が子供の神原が腹を立てて俺を探偵事務所から追放さ

れることを考えると、安易に強気にも出れないのは事実。


 でも、どうしてか、今日は怒れる気分にはならない。


 「なんかいい事あった?」


 「はあ? ただ、ドレッシングが無かったからスーパーに行っただけっつったろ」


 「ふうん。今の駆、いい顔してる」


 「意味わかんねえよ」


 「そのうち分かるよ。てか今日、キュウリ食べるんじゃないの? どこかに無くし

た? それとも、暴漢の凶器とすり替えたとか?」


 ニヤニヤと笑いかけるムカつく顔から目を逸らす。


 「なくしただけだよ、バーカ」


まな板の上のキャベツを叩き切った。



 

    △△△




 3世帯の家族でも余裕で住めるような高層マンションの1室。


健次郎さんが用意してくれたその一室の、大きなベッドに横たわり、今日の冒険を思い出す。


怪物のように大きな男の人が神原さんの事務所に来た。


 その妹が、怪しい店に出入りしていて、私はその子とLINEを交換した。


 悪い人たちの罠に掛けられたけど、足利駆が打破した。


 足利駆。


 あんなに優しい顔が出来るとは思わなかった。


 相変わらずプライドが高くて謝ることは無かったけど、態度は昨日と比べて柔らか

い。


 違う違う!


 あんなのは結局、ビジネスで笑っただけ。私のモチベーションを高めて手っ取り早

く青バラに認めてもらう作戦だ、きっと。


 「せっかく触れられたのに」


 私の『トゲ』が通用しないあの人も、仕事を終えれば私の元から、いなくなる。足

利駆は私みたいな弱くてずるい人間は嫌いだろうから。


 私なんかが、簡単に受け入れられるわけがない。


 こんな、・・・の私なんかが、幸せになっていいわけがない。

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