第14話

何かと世話好きな麗歌は兄の事も気になっていた。音楽家としては成功していても、一向に結婚しない神音が心配で仕方なかった。


そんな折、軽井沢の家に連れてきたのは、森下二二だった。

ニニは父親が指揮者、母が声楽家の家庭にそだち、本人もオペラ歌手としてイタリアで活動し近頃帰国したばかり。麗歌が連れて来たのはいつまでも結婚しない兄を思っての事だろう。

「ニニはね、なんとうちのすぐ裏にお住まいなのよ。」

旧軽井沢には多くの別荘が立っているが、そこで暮らしている神音のような人もいれば、別荘として使っている人もいる。森下家は年に数回軽井沢に来るだけでそれほど軽井沢にはいないと言う。

「先日コンサートに行きました。美しい音色に感動しました!」

イタリア生活が長いと言うだけあって、とても快活な魅力的な女性で太陽のにおいがした。

「有難うございます。ニニさんはどちらにお住まいだったのですか」

「始めはミラノに4年。それからローマには15年くらいいました。ローマ歌劇場でトスカをやるのが夢だったのです。だけど、その夢の舞台に選ばれたのに直前にコロナが流行って中止になってしまって。日本人がトスカをやるチャンスってなかなかないでしょ。結局諦めて帰って来たんです。」

「おにいちゃま、今度は新国立で田口美智子さんの演出でカルメンをやるそうよ。今最も期待されているオペラ歌手なの!」

「そうなんです。是非いらして下さい!」

音楽の話が弾む神音をみて、沙織は何となく寂しさを覚えていた。

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