第15話

神音はニニのオペラにしばしば足を運んだ。

もともとがパニック障害だったので、はれ物に触るように大事にされてきた神音は、ニニの明るさ快活さが眩しかった。心証と過去の世界に取りつかれてきた彼の心の扉が少し開かれたようだった。


一方沙織は、言いようもない寂しさを感じていた。もともとオーストラリアの寮に入れられていた彼女は両親の暖かさを知らない、事件があってからは神音とフキと麗歌の愛情に甘えて、努めて明るく振舞っていたが、しょせんは赤の他人の自分は不要になったら捨てられる、と言う概念があった。それはいつかと覚悟していたものの、失うことへの辛さと哀しさは例えようもなかった。


「レイカ 神音の家にいるサオリはどういう人なの」

ある日ニニが聞いた。

「なんて言っていいか。もとは私の幼馴染のお子さんなの。幼馴染は良い人だったんだけど、ノイローゼになって奥さんやお子さんにDVをするようになっちゃって。奥さんは娘のサオリをオーストラリアの寄宿舎に入れて家出したのね。偶然だけど、しばらく軽井沢のこのうちに匿っていたこともあったの。でも最後はもみ合った末に奥さんの方がご主人に怪我をさせてしまって。ご主人は心身喪失で奥さんのほうは行方不明。あんまり可哀そうだったのでおにいちゃまが引き取ったの。うちには同じ年頃の男の子がいるし軽井沢の家は広いし。まあ、簡単に言うとこんな話なんだけど、実際はもっと複雑・・・」

「可哀想な子なのね、さおりは」

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