第14話 見た目で判断は出来ない

 クラス展示がクレープ屋に決まってから数日。

 文化祭まで残り二週間程になった。


 現在、僕を含めクラスメイト達は文化祭に向けて着々と準備を進めている。


 役割分担としては食券販売係と調理係、そして集客係と大きく分けて三つに分担された。

 集客係は主にステージ発表に出るメンバーが務め、それ以外の二つは僕のようなステージに出ないものが務めることに決まった。

 

 準備期間中、ステージ発表に出る人はその練習をメインとして手が空いている時に展示の準備を手助けし、食券販売係は主に装飾を、調理係はクレープ作りの練習をメインとして作業を進めることになった。


 言わずもがな僕は食券販売係という一番安全といえるような仕事を担当している。


 そして肝心なクレープ屋の内容を話し合った結果、クレープの味は三種類でいちごとチョコバナナ、そしてブルーベリーとなった。


 焼き器であるプレートは大繁盛すると見据えて強気の三台を当日にレンタルするという話だったのだが、予算の都合上それは厳しいということになり二台となった。

 しかしクラスメイトに立派な焼き器を持っている生徒がいて、それを含めて三台運用していくことが出来ることになり、その一台は現在進行形で練習のための焼き器に用いられている。


「うわぁ! また失敗したぁ」


 この準備時間の時は男女問わず調理係の方から悲観的声が幾度となく聞こえてくる。

 どうやら薄い生地をゆっくりと巻きながらひっくり返すのが高難易度なのだそうだ。


「大変そうだなぁ。調理係の人たち」

「そ、そうだね」


 僕は白銀さんと一緒にペーパーフラワーを作製している。

 教室の装飾は桃色と白色をメインとしたデザインにしようということになっている。

 彼女も僕と同様食券販売係だ。


 花蓮と簑島君は体育館にてステージ発表の練習をしている最中で教室に姿は見受けられない。

 体育館での練習は各クラスに少しずつしか与えられないため貴重だと二人が口を揃えて言っていた。


「はいはいそこ手抜かない!」

 

 遊んでいた男子二人組に注意を促すのは佐藤さんだ。

 文化祭実行委員としての役割を全うして、現場監督のような立ち位置である。


「すごいよね。佐藤さんは……」


 僕は手を動かしたままボソッと呟いていた。


「本当だよ。私には真似できないことだな」


 白銀さんは僕の意見に賛同しているようだった。

 確かにこうして話し合っていても彼女はどことなく自分と似ていると思うところは所々にあると感じていた。


「生まれつきのリーダーとしての率先力っていうか……」


 そんな風に二人で佐藤さんの能力を褒めているところに一人のクラスメイトがやってきた。


「なあ早見。ちょっといいか……」


 声の主は斉藤君だった。


「さ、斉藤君? どうしたの?」

「少し話がしたいのだが……」

「……わかった」


 彼とこうして話すのはこれが初めてな気がする。


「悪い」

「ちょっと行ってくるね。白銀さん」


 白銀さんは頭を縦に振って相槌を返してくれた。

 にしても一体何の話だろう。


 言われるがままに教室から出ると、斉藤君はドアの横で僕と対面する。


「それで話って何かな?」

「……単刀直入に聞く」

「う、うん……」


 何か重大な雰囲気を醸し出しているが一体何だろう。


「早見は白銀さんと付き合っているのか?」

「…………へ?」


 一瞬何を言っているのか理解できなかった。

 数秒遅れて、彼もまた白銀さんに好意を抱いているのだろうと脳が認識した。


「……あ、いや……えっと……僕と白銀さんはそういう関係じゃ……」

「じゃ、じゃあ俺が白銀さんを好きでいても問題ないということだな!?」

「ま、まあそういう事になると思う……」

「そうか。ふぅ……てっきり早見と白銀さんは付き合っているのかと勘違いしていた」


 言動から察するに彼もまた割と大分前から白銀さんを好きだったのかもしれない。


「あのさ……」

「ん?」

「急にこういう話をしてくるってことはさ……その……文化祭で告白でもしようとか考えた的な?」

「……何言ってんだ?」

「あ、ごめん……何でもない……」


 学校行事などの期間で意中の相手に想いを伝えるというのは割と二次元での王道的なパターンだと思い込んでしまっていた。


「それしかあり得ないだろ」

「……は?」


 まさかの斉藤君は僕の言ったことを否定ではなく当たり前過ぎて話にならないといった様子で肯定してきた。


「それはどういう……」

「あーまぁ……この際だからいっか。俺けっこうなアニオタってやつでさ。最近ハマってるラブコメが急展開迎えて文化祭中に主人公が告ったのよ」


 おそらくだけど斉藤君の言っているアニメのことは分かる。

 今季の覇権と言われているほどのアニメだったはずだ。


「だから俺もここはいくしかないかな的な?」


 それにしてもこの男――斉藤一誠はことごとく僕の予想を裏切ってくる。

 優等生そうな見た目で成績もそこまで。

 挙句の果てには僕と同じオタクときた。


「ま、まあ事情はわかったよ。一応僕ものそのオタクって人間だからさ」

「……そ、そうか!」


 目を宝石のようにきらきらと輝かせたかのような顔で僕の両手を掴んでくる。


「きっと俺たち仲良く出来ると思う! よろしくな早見」

「え!? あ、うん……」

「白銀さんのことは応援してくれると助かる!」

「わ、わかった……」


 満足気な様子で斉藤君は教室に戻っていった。


(……まじか)


 あのルックスをお持ちの白銀さんなら誰かから告白されるというのは別におかしいことではない。

 ただいつも彼女と話している異性として根拠のない自信というか……そんなものがついさっきまであったが、今それが崩れた。


 しかしこうなってしまった以上は成り行きを見守るしかない。


(よしっ)


 特に意味はないが胸中で活を入れて教室に戻った。


 ☆☆


 あたし、佐藤碧は正直不安に駆られている。


 現在は文化祭実行委員としてクラスをまとめつつ作業を行っている。

 決まりそうになかった展示はなんとか早見のおかげで決まることが出来た。


 しかし予想以上にクレープ作成の難易度が高い。

 それに加えてこのクラス内で調理が得意という人がそこまで多くない。


 このままだと調理係の負担が増えるほか、途中で店が回転しなくなるという結果もあり得る。


 このままでは駄目だと思うのはあたしだけだろうか。


 去年もあたしはクラスの文化祭実行委員だった。

 クラスメイトの推薦によって選ばれたあたしは皆の期待に応えたいと思って頑張った。


 しかし結果はどの順位においてもランキング外。

 クラスのリーダーとしての責務を果たすことは出来なかった。


 だけど今年は大好きな翔や彼の友人の早見、色々な人と同じクラスになることが出来たし、文化祭実行委員としてクラスの代表に自ら志願した。


 今年こそは皆と一緒に最高の思い出を作りたい。


 だからこそこのままじゃ駄目だ。


「皆! ちょっと聞いてほしい」


 気が付くとクラスメイトの作業を止めさせて、あたしは口を開いていた。

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転校してきた金髪ギャルは、昔結婚すると誓った幼馴染だった!? 空翔 / akito @mizuno-shota

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