5 小さな錬金術師は猫に名付ける

『我を……我らを……助けてくだされ』


 デカい猫は伏せながらそう言った

 ノルン達と話せる様になったのは精神とパスを繋ぐことで意訳的な翻訳が出来るようになったに過ぎない。魔獣側も徐々に意訳の学習状態を抜け出し、を正しく理解出来る様になるだろう。後にアンナ曰く、「私達女神の言語翻訳より精度良いですね」とのこと。


 デカい猫はノルンが回復術式をかけたことで今は傷が癒えたが重傷とも言える怪我を負っていた……


 誰かに襲われたか?はたまた天災の様なものか?


「おい猫、何があった」

 

 クーフィーは尊大にも聴こえる言い方で猫に聞いた。しかしこれが素だ。


『ね……猫……?いえ……我ら、いえ私達は群を成してただそこにいただけなのですが、いきなり襲われたのです』

 獅子とも虎とも呼べそうな自分を猫呼ばわりされ。確かにデカい猫ではあるが……とツッコミを入れたいが頭の良い彼女は短身矮躯にみえるクーフィー達が自分より格上であることを感じとり、どこか懐かしくも感じていた。


 故に助けを求めた。


 猫にでもなんにでもなってやるの精神だ。なのだから


「襲われた?」

『はい、得体の知れぬものに……皆、散り散りになって逃げたのですがどうなったことやら……』


「おい猫、今からいくぞ」

「あらクーちゃん張り切ってるわね」

「クーフィーさんかわいい〜」

「張り切ってない」


 ノルンの目には「おねえちゃん、これ飼ってもいい?」みたいなノリに見え聴こえていた。概ね合っている。


 クーフィーもクーフィーで無自覚だがデカい猫をみてから目を輝かせ、更に腰を微妙にふりふりしている。まるで尻尾があるかの様だ。無自覚にも猫の首元を擦り、擦られた猫は困惑している。飼うというよりは困ってるなら面倒をみてあげたいのだ。かつて姉がしていた様に自分も困っている誰かに道を示してあげたいのだ。


 クーフィーはお姉ちゃんの真似がしたい


 クーフィーは実際こんなにも誰かに自分から積極的にコミュニケーションをとりにいくのは珍しい。だが初めてみる地球産の魔獣であることも相まって静かに興奮する。


『クーフィー様、我……いえ私に名はありませんが種族としてはスカーレットパンサーと言うみたいです』


 流石に猫と呼ばれ続けるのがアレなのか種族名をすかさず伝えるスカーレットパンサー


「ふ〜ん……みたい?ってどういうことだ?」

 クーフィーは気になった。


『ステータスをみればそう書いてましたよ』

「あらあら、ステータスって言葉がでてきたわね……」

 ノルンはやっぱりか〜と、地球が既に『そういう状況』であることを察し始めた。


「ステータスってどうみるんだ?おい下っ端」

「はいはいクーフィーさんの下っ端のアンナが説明しますね」


 アンナは下っ端と言われることに少し慣れた、どころか喜びを感じながらもどこか嬉しそうに質問に応える。


「ステータスは女神ノエル様や私アンナが作ったんですよ。こうなってしまった世界で、生物が魔素フラッピングエーテルと身体が適応するまでのリミッター&補助をする機能になります。例えばいきなりこんな濃厚な魔素フラッピングエーテルが活性化しだすと地球生物にとっては毒にもなりえます。アナフィラキシーショックも怖いです。あとは【魔モノ】もいますので人間や魔獣が絶滅しない様に、の救済措置になりますね。ちなみに魔獣に理解出来る様に言語理解のスキルを多少与えています。またフラッピングエーテルの適応が早い生物はその分知性も高いです。このお猫さんが良い例です」


「なるほどね〜、やっぱり魔素フラッピングエーテルがこの世界にいきなり発生したということなのね?それでこの世界はこうなった」


 ノルンはそう考えていた、比較する情報が前世の知識である為、そうとしか考えられなかったからだ。


「う〜ん、なんといいますか……魔素フラッピングエーテル自体はあったのですが、此処はというかこの宙域は永く永く遠い過去に魔素が不活性となってですね……魔素フラッピングエーテル自体はありました。でも宇宙の摂理により魔素フラッピングエーテルが活性化したことでこの世界はこうなりました。」


 なるほどね、とノルンは思ったが腑に落ちなかった。この状況、人の少なさを考えると恐らくはとんでもない惨状だったのかもしれないし、故郷である故に納得しきれない部分もあった。


魔素フラッピングエーテルの活性化を止めることはできなかったの?」


「此処は……この宙域は……元々事故で魔素フラッピングエーテルが不活性となっていたのが自然の摂理で活性化したのです。このまま不活性が続けば宇宙全体のバランスが壊れ惑星ノエルがある宙域、他にも様々な宙域が不活性化し死に絶えます。色々とサポートはしたのですが…………いきなり人間に沢山の魔素フラッピングエーテルを適応させようにも身体が魔素を受けきれられません……徐々に鳴らしていく必要があり、その為の経験値機能、ステータスシステムです」


 ここでもノルンはなるほど……とは思った。

 まあ色々と手を施してくれたがこれが限界だったと。


「だから、適応するまで……私に頼りたかったのね?女神ノエルは」

「そうなりますね……」

「願い事聞くとかいってたけど、そういえばいいのに……」

「ほんとうにすみません……でもノルンさん達聞いてくれなか………いえすいません。でも願い事は最終的に叶える予定です。」


 はあ……とため息を漏らすノルン。

 まるで異世界召喚だ。

 でも元々そうなる運命だった惑星なら仕方がない、と彼女は自分に聞かせ出来ることをしようと考えた。


「ひとまずは私が【鑑定魔法】でこのスカーレットパンサーのステータスを表示させますね、自分のは自分で念じれば出ます。私は一応全部なんでも使えますので」


 アンナがスカーレットパンサーに【鑑定魔法】を使うことで、視覚野にウインドウが表示される。本来はアンナにしか見えないはずだが一応女神なのでノルンやクーフィーにも見えるようにしたらしい。

 見え方はいわゆる拡張現実のような感じだ。


-------

種族:スカーレットパンサー

種別:魔獣

名前:無し

性別:女

レベル:385

HP:50000/170000

MP:200000/200000

攻撃:15000

防御:8500

魔攻:20000

魔防:30000

俊敏:10000

魔素抵抗:560

理力:1

称号:咲々流山の獣王


「あ、ここ咲々流山なのね……風浦町の」

「そうです、首都方面から700kmほど離れたノルンさんの前世の故郷の裏山からも繋がる山々です」


 本当に故郷に帰ってきたのだな……という実感が強まって来た。


 ノルン達は地球基準の強さはまだわからない。でもこの猫は強いのではないだろうか?とノルンは前世の感覚で考えていた。獣王と記載があるくらいだ。それを襲い手負いにする者がいる。


「2人共、大丈夫だろうとは思うけどね警戒だけは怠らずするのよ」


 全員でスカーレットパンサーの案内に従い現場へ向かうことにした。

 ちなみに3人ともスカーレットパンサーの背中に跨っている。


「おねえちゃん、猫の名前決めていい?」

「あらクーちゃん、しっかり面倒みれるの?」

「うん、絶対にみるから」

「おねえちゃん心配だな〜」

「ほんとに!ほんとに!お願い!」

「まず食べ物の調査も済んでないし」

「お願い!名前だけでも」

「スカーレットパンサーが望むなら良いと思うわよ」


 この会話を聴いたスカーレットパンサーは喜びに歓んだ。

 この様な格上の御方々の加護をいただけるかもしれない!クーフィー様の様にどこか自分達の様になにか近い存在なら大歓迎!なのだった。

 しかもメガミ?というワードも聴こえたがそれがなにを指す言葉なのかスカーレットパンサーは理解ができなかった。


 またクーフィーに甘々なノルンに限ってはかわいい妹のお願いに抵抗なぞ無意味だったのだが、そもそもスカーレットパンサーがそれを望むなら良しと考えていた。


「おい猫、名前つけるぞ~」

 のそのそと3人を背中に乗せたていた猫は思わず立ち止まり、伏せた。

『本当によろしいのですか?貴女の様な御方の眷族になれるということでしょう?』


「おねえちゃん、良いみたい」

「しっかり面倒みるのよ〜」

「うんわかった!」


 双方の意図は違うのだが結果的に間違ってないのかもしれない。スカーレットパンサーは名前を与えられることとなる。


「じゃあ猫の名前は【タm『あ!!頭文字がタだと少しお腹が痛くなりそうです!』」


 絶対にその名前はなんとなく「ちょっと違う」名前だと察したスカーレットパンサーは割り込んだ。それば絶対嫌だ


「お腹がいたいなら仕方ないな、私もお腹が痛いのはやだしな」


 いつもなら我慢しろと押し付けるクーフィー。だがおねーちゃんの真似がしたい彼女は『お姉ちゃん風』を吹かすつもりでスカーレットパンサーの『我儘』を受け入れた。


「じゃあミイす『うわ!今度は頭痛が!!』」

 ミイスケだけは絶対になにがなんでも避けたいスカーレットパンサー

 それに自分はメスだしなにかオスっぽい名前だなと言語理解のスキルで感じとっていた。それならばタマの方がまだかわいい。


『もっと、クーフィー様やノルン様、アンナ様みたいなニュアンスの名前が良いです』


 絶対に同じ様な名前しか出てこなさそうだと洋風な名前に寄せていこう作戦だ。


「う〜ん、じゃあ……シャルロッテ……う〜んそれだとその辺の農家の娘みたいで畑荒らすベヒーモス追払うくらいの強さしかなさそうだな〜う〜ん、やっぱりタマにしない?」

『シャルロッテがいいです!シャルロッテしかありえません!!』

「クーフィーさん……惑星ノエルむこうだと災厄とか呼ばれてましたよね……ベヒーモス」


 その名前がいいと尻尾を地面に何度も叩くスカーレットパンサー、今は【人間】でしかないクーフィーだが尻尾を振る行為が獣にとって、何かしら気持ちを伝える行為だと知ってる。

 そんなに気にいったならそれに応えてその名前にしてやろう、クーフィーはそう考え満更でもないと微笑んだ。


「今からお前はシャルロッテだ」

『やったー!!』

 タマやミイスケみたいな名前でなければなんでも良かったが、適当にクーフィーが言う『微妙な名前』が大当たりだった。シャルロッテは喜び歓んだ!


 その瞬間、シャルロッテに濃厚な魔素フラッピングエーテルが集約していく。そして身体が小さくなり前の凄く大きな猫が少し大きい2mくらいの猫になった。


「ありゃりゃ、どうしちゃったの?」

 ノルンも『お姉ちゃん風』を忘れ素の口調が思わず出る。


『あれ、私小さくなりましたね。これでは全員をお乗せ出来ませんね』


「あ〜、これは進化ですね!所謂、ネームド名前付きになったから妥当の進化ですね、しかもクーフィーさんの眷属ですし……ってあれ?」

「眷属化?そんなシステムがあるのね~!」


 割と重要な事なのにノルン達は「いいね眷属化、かっこいいね」とあまり気にしてなかった。ノルンがいいなあいいなあと思っていると、アンナがシャルロッテを鑑定し見せてきた。


-------

種族:エンシェントスカーレットパンサー

種別:魔獣

名前:シャルロッテ

性別:女

レベル:385

HP:100000/300000

MP:500000/500000

攻撃:300000

防御:15000

魔攻:50000

魔防:50000

俊敏:100000

魔素抵抗:400

理力:47

称号:咲々流山の獣王、クーフィーの眷属



「なにこれ?エンシェント?」


 ――エンシェントスカーレットパンサー


『エンシェント』この言葉は「古代から」の意味を含む。ノルンは地球産の魔獣にこの名称がつくことに疑問を持った。


「シャロ、貴女何歳?」

『4歳です』


「生まれた時からスカーレットパンサーなの?」

『いえ、普通の飼い猫でした。2年前くらいから体が大きくなりましたね。まあ当時のことあんまり覚えてないですけど。小さかったですし。』

「???」


 ノルンの中で色んな思考が宙に浮かび弾けるが、情報が足りなすぎることで「まあ、いいや」となった。


「私もステータスみようかしら……いくわよ!ステータスオープン!!」


「ノルンさんノリノリですね〜!地球で流行ったラノベみたいです!!あ!シャルロッテさんの見て気付いたと思いますが惑星ノエルのステータスよりかなり詳細に設計したんですよ〜!まあ惑星ノエルだとステータスなんて最近では誰も見てなかったし存在すら忘れられてましたけどね!ノルンさん達のせいで!」


 ここぞとばかりにクレームを入れてくるアンナはさておき、どれどれ?とステータスを確認する。

 これが異世界転移の醍醐味ねと言わんばかりに興奮していた。


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種族:人間

種別:アルティメットヒューマン

職業:大錬金術師

名前:ノルン・フォン・リリシュタイン

性別:女

レベル:1

HP:10 ※不老不死により固定

MP:100〜 ※可変式

攻撃:10 ※不老不死により固定

防御:10 ※不老不死により固定

魔攻:100〜 ※可変式

魔防:100〜 ※可変式

俊敏:10

魔素抵抗:0.000001

理力:9999

称号:大聖女、大魔王、惑星ノエルの支配者

属性:不老不死

スキル:情報が多すぎる為にツリーで折りたたみました


※惑星ノエルでノルンさんから観測した魔素フラッピングエーテル量を基に数値化しました。そもそもフラッピングエーテルに順応済なのでノルンさん達はレベルあがりません!称号はノエル様が面白がって御付けになられました!特に効果はありません

 by開発部アンナ


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〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここまで読んでくださりありがとうございます!


ノルンとクーフィーの活躍をもっと見たいぞ!

ノルンかわいい!クーフィーかわいい!


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