第31話 影木 無子

 小学校高学年の時、影木は肺の病気で長期入院することになった。学校に通えない、外にも出られない。退屈で仕方がない彼に与えられたのが、パソコンだった。

 ネット小説を読んだ。そして、ネット小説を書き始めた。

 何せ時間だけは無限にあった。最初は拙かった文章も、徐々に読めるものに変わっていった。

 そんな幾つか短編を書き上げてから挑戦した長編シリーズ、それが『ネオ・ラグナロク』だ。

 ペンネームは薔薇咲円。なんとなくふざけて、棘のある花に、角の無い円と名付けた。

 退院してからも、中学校にあまり馴染めず、連載は継続した。

 だが、高校に入った際には、そこそこ、何か良い感じになった。友人も出来て学校生活が充実し始めると、『ネオ・ラグナロク』を書く時間は無くなっていく。

「そういえば最近更新してないわね。ま、良いかなもう、卒業で」

 そして、気持ちの一つ区切りとして、『ネオ・ラグナロク』を削除したのである。

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