最終章 〇

第30話 ● ~舞台裏~

 『ネオ・ラグナロク』は、全九章からなる物語だ。

 正確には九章を更新中に連載が止まってしまった為に暫定的になされる表現であり、完全な内容があるのは八章までである。高校生達がデスゲームに巻き込まれ、与えられた能力でバトルロイヤルを繰り広げるという基本構成は全章に共通している。その代わりに、章ごとに能力者に選ばれる登場人物や能力が一新され、結果として章ごとの展開が大きく異なる。


「「お疲れさまです」」


 プラとマイナの悪キューレ姉妹は、物語中盤から登場する、いわゆるデスゲームの黒幕であった。その正体は滅亡した母星の文明を地球に復活させようと企む悪の宇宙人であり、頭に巻いた羽衣は、実は触覚である。


「──ええと、本物? と言うのも、変だけど」


 影木は、自分が生み出したキャラクター、プラとマイナに出迎えられた。

 リタイアを選択した影木無子が転送された先は真っ暗な、丸い部屋だった。液晶から漏れる光が、灯り代わりに部屋を照らしている。まるで残業を誤魔化すためにフロアの電気を消したまま徹夜で作業をしているブラック企業の一室の様だと、影木は思った。無論影木は高校生であり、そんな実物を見たことは無かったが。

 と、次の瞬間、「パーン」という派手な音と、それにしては弱い衝撃が影木の頭に響いた。

 相手を張り倒すための扇子──いわゆるハリセンである。


「え、ちょ、なんで!?」


 姉妹は構わず影木の頭を叩き続ける。痛みは少ないが、大きな音がするので心臓に悪い。


「うるさい! 早く! 続きを書いてください!」


「休載反対! 連載再開! 連載再開!」


「ちょっと、待って、弁明! 弁明させて!」


 黒の女は、情けなく懇願した。

 

 閑話休題。ハリセンを受け止め終えた影木は、まず今回の経緯について姉妹に尋ねる。


「──というわけで、『ネオ・ラグナロク』が引いたクジに◯と書かれていたのです」


 そしてマイナが経緯を語り終えると、影木は「えー」と混乱を表明した。


「まあ、科学的な説明が聞けるとは期待してなかったけれど、全創作によるクジ引き──そうか、そんな大層なものに私の作品がねえ」


「全くですよ、肩身が狭かったですからね。薔薇咲円にはもっと頑張っていただかないと」


 プラが影木にジト目を向ける。

 自分の生み出した作品から説教されているとは、影木は非常な奇妙な気分になった。


「それで、どうしてデスゲームなの?」


「一番の目的は、薔薇咲円に私達のことを思い出してもらうことです。続きを書いて欲しかった。ですが、『続きが書かれますように』と願うのは、違う気がしたので」


「ま、その願いでは直接文句を言ってシバくという目的が遂げられませんし。それに、気になったのです──どうして続きが書かれないのか。何故、薔薇咲円はそれどころか、ネットから全文を削除までしたのか」


 姉妹は淡々と、準備して来たかのようにそう口にするが、緊張からかハチマキがピンと逆立っている。二人は、否、作品が問い掛けている。何故、存在ごと初めから無かったかのように扱われたのか。その答えを欲している。

 影木は覚悟を決めた。


「──わかったわ。聞いて、判断してちょうだい」

 

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