第24話 〇 ~『まる』~

「つまり、生流琉君はブログで事前に参加者の一人と連絡を取っていた。そして、その相手、『まるさん』こそが、青月君だというのだね」


 生流琉の語った内容に皆が黙って耳を傾けた。そして最後に、雄々原がそう総括する。


「ええ、その通りですわ。そしてだから私は、青月さんを信じることにいたします」


(そうですわ。格だの、何だの──どうして皆、そんなことを気にするのでしょうか)


 大切なものと、その重さは、人によって違う。他人がどうこう口にすることは間違っている。

 解っていた筈なのに、青月が内訳を告発した時に一瞬、裏切られたと思ってしまった。自分は、勝利を諦めてまで友人に勝たせようと決意したのに、と。諦めたことを責めそうになった。


(ですが、青月さんは泣いていましたわ。私は知らなかったし、解っていなかったのです。青月さんにとっての、『赤糸さんを勝たせないこと』の重さを)


 その怒りはきっと、願いよりも重いのだろう。一時の感情が何でも叶う願いよりも重いはずはないと、外側から勝手に低く見積もった値段をつけた自分自身を、反省していた。


「私は、青月さんを信じて──青月さんの言った通りの内訳で投票いたしますわ!」


「うむ。話は分かった。しかし、やはりそれはただの感情論ではないかね」


「いえ、違いますわ。影木さんの話だと、青月さんと赤糸さんは《アイテル》で内通しているのですよね。そして、青月さんと、私はゲーム開始前からの協力者ですわ。──ですが、私の元には《アイテル》で通信が入りませんでしたわ!」


 生流琉は懸命に思考していた。ずっと◯で周囲から一歩遅れた位置にいると自認してきた。考えるのは得意ではない、喋るとなると尚更である。だが、やらない訳にはいかなかった。


「これは変ではありませんか? もし青月さんが影木さんの言う通りの能力と考えの持ち主だった場合、私と赤糸さんという二人の無条件の協力者が得られるのなら、もっと別のやりようがあったはず! というような、気が──するのですけれど」


(──具体的な案は、思いつきませんけれど)


「生流琉さん」


 青月が何か言おうとするのを遮り、影木は言った。


「此方も、主張させてもらうわ」

 

「『作者は、自作に自分より頭の良いキャラクターを登場させることはできるのか?』、という有名な議論があるの。自分の脳味噌で考えたキャラが、自分より頭の良い答えを出すなんてことは果たしてあるのか──という話ね。けれど私は、答えは『できる』だと思う」


「何の話かな? もうあまり時間がないんだけど」


「関係ある話なの。その理由は簡単で、方法が三つあるから。一つ目は──時間を使うこと。作者が2時間かけた結論を5秒で出したことにすれば、天才は演出できる。二つ目は、他人の思考からキャラを持ってくること。これは何も盗作という話ではなくて、アイデアや発想というのは結局、人の中身で自然発生することよりも、会話や散歩といった外との関りから出てくることが多いの。そしてその一環として──『頭の良い考え方』を頭の良い他人から引っ張ってくることが出来る。そして最後の一つ──結局、全てのキャラクターは作者が動かすのだから、頭が良くて全てが思い通りになる人物は、思い通りに動く人物を書けば解決するのよ」


 全く無関係にしか思えない創作論のようなものを口にしてから、影木は生流琉に確認する。


「シキルちゃん。『クフちゃん、賢過ぎないか?』みたいなことを言っていたでしょう」


 ──『あの、へ、変な気がしますわ!』


 ──『な、何かこう──赤糸さんが賢過ぎる気がするのですけれど!』


「それは、はい、確かに言いましたわ」


「こうは考えらない? クフちゃんが一際賢く見えたのは、《全知×全Know》で最初からルールを知っていたから、『他の人より考える時間があった』。そして、《アイテル》で誰かと話し合うことも出来ていたから、『他人の思考も受け取っていた』。そして──ジュウちゃんは、自発的にクフちゃんの『思い通りに動いていた』」


「なるほど」


 それは雄々原の中では説得のクリティカル、決定打となった。

 雄々原の立場からすれば、そもそも青月と影木の言う事どちらが正しかろうと脱落は決まっている。それ故に、極めて客観的に、より腑に落ちる方を真実と採用することができた。


「決めた。私は影木君の方を信じよう」


「いえ、私は──!」


 だが、生流琉はそうはいかない。彼女は友人の、『まる』の味方をすると決めた。所詮はネットの知人だと、人は言うかもしれない。だがその重さ、大切さは、彼女のみぞ知る事である。


「シキルちゃん、何も難しいことないわ。協力者がいる人は、その協力者とスイッチした内訳を最終投票で提出するの。それを、協力者以外にもやらせようとしているのがクフちゃんとジュウちゃん──」


 影木の説得にも、生流琉は激しく首を振る。


「シキルちゃん。頼む、私を信じて欲しい」



 そう影木が最後にそう言ったところで、時間が訪れた。

 こうして、全ての議論が終了したのである。

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