悪役令嬢は辺境の貴族を味方にする

 マリアンヌが当主となってから1ヶ月程が経過した。

 マリアンヌはそのカリスマ性と交渉術、そして、第二王子派閥によって婚約破棄され、酷い目にあわされたという、同情される点、また第二王子派閥引いては王家に対して少なからず思うところがあるという事実。

 これらを武器にして様々な派閥を貴族を取り込んでいった。

 その結果・マリアンヌの元にはこの国の約2割もの貴族が加入している大規模派閥、否。大連合が出来き上がっていた。


 だがしかしまだ満足はしていなかった。

 マリアンヌの計画の為にはもう二手が必要であった。


 一つ目は辺境の貴族をほぼ全て自身の派閥に引き込み味方にする。


 二つ目は同じ公爵家であり帝国からこの国を守護している偉大なる武人であり帝国最強の男【守護者・バルバッセロ】を味方につける、ないし最低でも中立の立場にもって行かせる。


 そう、この二手が必要であったのだ。


 何故この二手が必要かというと、一つ目の辺境の貴族を味方に引き込むというのはマリアの計画が全て成功した後に売国されない為だ。

 辺境の貴族の扱いというのは非常に雑である。


 税収さえ一定額収めればそれでよし、干渉は特になし、領主である貴族による脱税もある程度の犯罪も見逃している。

 見逃さざる負えないのが現状なのだ。


 何故なら面倒だから手間だから。


 ディステリア王国はかなり広い。

 そんなディステリア王国全方向全てに存在している辺境の貴族達を御するとなったらば非常に大きな労力が必要であり、それ相応のお金と人員が割かれる。

 そしてそのお金と人員は手間をかけたことによって生まれる税収よりも下手をしなくとも簡単に上回ってしまう程である。

 それを考えれば見逃すという選択肢は至極納得のいくものであった。


 だからこそ辺境の貴族というのは貴族という立場ではあるがどちらかというと小国に似た立場であり、王国に対する忠誠心など持ち合わせていない貴族がほとんどであった。

 むしろ隙を見て牙を向いてやろうとすら思っている。

 そんな辺境の貴族達がもしも王都で何かしらの大事が起きたとすればそれを理由に勝手に独立をするのではないか?


 答えは当然イエスである。


 そしてマリアンヌの計画が上手くいけば王都はかなりの混乱に陥るし辺境の貴族が独立する良い理由を作ってしまう。


 だから味方につけるのだ。


 もちろんそう簡単に味方になるとは思っていない。

 だけどマリアンヌにはセリカと共に考えだしたとある作戦があった。


 その作戦名とは【正義と恐喝・飴と鞭】である。


 まず辺境の貴族には大雑把に二種類の貴族に分けることが出来る。

 一種類目は正義感に溢れて、民のことを大事にし、正しい税収に正しい統治を行っている。良い領主。

 二種類目は悪しき欲にまみれて、重い課税を行ったり民を連れ去って無理やり奴隷にしたりして遊ぶ。悪しき領主。


 この二種類が基本的な辺境の貴族の在り方だ。

 そしてこの二種類はマリアンヌにとってみればいとも簡単にこちら側に落とせる上質な鴨であった。


 やり方は凄く簡単である。


 まず一種類目の良い領主は今の腐敗しきっている王都の状況に王城の有り様に個人差はあるが良い感情は抱いていない。

 だからそこを狙う。

 敢えてここ最近起きた王都での貴族による不正と横暴を悪意をマシマシにして少し大袈裟に伝えるとともに、【第二王子が自分を婚約破棄した理由について国王が少女趣味であり、第二王子の不倫相手を気に入り寝ていたから】というパッと見は嘘に見えるが納得してしまう嘘を伝える。

 何故なら今の国王はかなりの女喰らいであり、女性関係で揉め事を起こすというのは今までにも多々行っているのだ、その上で差別主義者であり、平民で気に入ったから抱いて子供が出来て気に食わなかったら殺すというのを平気でする。それが今の国王である。

 王都には貴族絶対主義者が非常に多いのでそこまで問題にはならないが、辺境にいる良い領主は違う。

 多少なりとも憤りを持っている。

 だから、それをあわせて、甘い言葉を囁きながら、この国をより良い国にする為にそして計画が終わった後に悪しき領主の処刑とその領地の統合という美味しい餌をぶら下げてこちら側につかせるのだ。

 もしもこれが上手くいかなくても第二プランとして、今や良き協力関係にある聖教会を使っての「神からのお告げがあった」という真っ赤な嘘を伝えて騙すというのと。

 第三プランとして、もう既に国王を玉座から引きずり下ろすためにこれだけの義に厚い騎士が頭脳明晰の魔術師が正義に心を燃やす貴族がついているというのを大袈裟に伝えて、自分を味方にして貰わないと逆に危ないのではないかという危機感を煽る方法も用意してある。

 因みに全てのプランが失敗に終わってしまった場合においては忠告だけして諦めるつまりである。ただこのプラン全てが通じないような頑固な人はいないと予想されるが。


 そして二種類目の悪しき欲にまみれた貴族の方がもっと簡単だ。

 恩を売っている騎士団からは戦闘力の高い騎士を協力関係にある教会から教会の最高戦力である異端審問官を貸して貰い、それこそドラゴンですら容易く討伐できるメンバーで腐敗を暴きに来たと脅迫をする。

 もちろん武力に訴えかけてきたら、その場で護衛を全て殺す。

 殺した上で交渉という名前の脅迫を開始する。

 「今までの犯罪行為について私は見逃してやる。代わりに指定した時期に王国に向けて出兵をしろ」と。

 ようは最終計画をより円滑に進めるための陽動である。

 もちろん大義名分はこの国の王が腐っているからというものとする。

 因みにもしもその場で武力行為に訴えなかった場合はこちらが武力で殲滅を行ってから無理やり言うことを聞かせる。

 基本的に悪しき領主ということで民から反乱されないように過剰に戦力を持っているから多少減らしたところで問題はないという考えも含めての見せしめ含めの殲滅である。

 因みにそれでも反乱に協力はしないといいう場合はその場で殺して最も近くにいる善き領主に領土をあげつつ。多少の援助もしてあげて恩を売る。

 なお勝手にそんなことをしたら普通は駄目であるが、公爵家が教会と騎士団の人間を連れて、教会から神の名の元に行った民を悪しき領主から解放するという正義の戦いという立派な大義名分があるので問題は一切ない。


 そうして辺境の貴族を落としていき味方につける。それが今から行う作戦行動である。

 なお、第二手の方は辺境の貴族をほとんどこちら側に引き込んでから行う為に今は少しパスである。 


「さてと、セリカ。次は辺境の貴族を落としていくわよ」


「そうですね。これが上手くいけばかなり最終計画がやりやすくなりますからね。それにしても、最終計画が終わってからの未来も考えての行動。流石マリアンヌ様です」


「何を言っているのよ。この計画の大部分の立案者はセリカでしょ」


「いえいえ。これもマリアンヌ様あってこそです」


「そう。まあいいわ、取り敢えず私の可愛い戦力もとい、騎士団員と異端審問官を借り受けに行きましょうか」


「もちろんお供致しますよ」


「当然でしょ。さあ。行くわよ」


 そうしてマリアンヌとセリカは護衛を引き連れて歩き出した。


――――――――――数時間経過――――――――――


 マリアンヌは騎士団の中でも特に忠誠心を持ってくれている、アレン含む騎士団員5名と教皇直属の異端審問官5名を借り受けた。

 人数にすればたった10人。

 しかしならが、全員が文字通り一騎当千の実力者であり、この10人だけで一つの戦場を支配出来る程の巨大な戦力であった。

 この巨大な戦力を率いるのはマリアンヌではなく、マリアンヌの妹にして現在、マリアンヌの政略により聖女となっている齢7歳の少女・サヤカであった。

 何故、マリアンヌではなくその妹のサヤカがいくかというと、凄くシンプル、普通にマリアンヌは公爵家当主としての仕事があり長期間家を空けるということが出来ないからである。

 もちろん、マリアンヌも齢7歳の妹に交渉をさせようとは思っていない。

 そこは最も信頼における部下であり、優秀な部下、セリカに任せており、マリアンヌとしてはセリカならば何があっても一切失敗せずに完璧に仕事をこなすであろうと考えていたのだ。

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