悪役令嬢は騎士団にド級の恩を売る

「お疲れ様です。マリアンヌ様、どうぞ紅茶です」

 教皇から良い返事、否、良すぎる返事を貰ったマリアンヌは一旦公爵家に戻り休憩をしていた。


「ありがとう、セリカ」


「それが私の仕事ですから。それにしてもマリアンヌ様、まさか教皇様がこちら側についてくださるとは」

 セリカはマリアンヌが教皇を協力者にするなど到底思っていなかった為、出来る限り驚きを顔には出さないようにしているが、心の中では心底驚いていた。


「まあね、やっぱり教皇も私の王の風格ってのに気が付いたのかしらね?」

 マリアンヌは少し冗談交じりにそういったが、しかし、その言葉は事実であった。


 教皇はマリアンヌから感じた王の風格を見て協力者になろうと決意をしたのだ。

 そう、俗物的ではあるが貧しく困窮してた正教会をたった一人で建て直した、あの教皇がマリアンヌには王の資格があると認めたということだ。

 それはマリアンヌの想像している以上に大きな意味を持ち、そして凄いことであった。

 そんな凄いことをマリアンヌは当たり前だと思って、さして気にしていなかった。何故ならマリアンヌは傲慢であったからだ。 

 だけど傲慢であった為に教皇から王の資格があると認められたのだから。なるほど少々皮肉が効いている話である。

 ただ、セリカはあの教皇が協力者になってくれた意味とその凄さを正確に理解していた。


「そうですね。あの教皇が協力者になったということは。教皇なりにマリアンヌ様の王の風格を感じ取ったのでしょう。本当に流石でございます」


「そんな褒めないでよ。まだ第三段階は途中だわ。私を褒め称えるのは全部終わってからよ。さてセリカ、じゃあ次は騎士団に向かうわよ」


「はい。分かりました。マリアンヌ様」

 そしてマリアンヌはお父様の元妾と騎士を連れて騎士団に向かった。


 ―――――――――――


 騎士団というのは全員が男である。

 また、騎士団には全員騎士という称号が与えられる。

 この称号には騎士道に乗っ取り清き精神でいなさいという意味が込められている。

 その為、騎士団は清き精神ということで風俗に行くことを禁止されている。より正確に言えばお金で女性を買うという行為が禁止されている。

 もちろん、性行為自体は禁止されていない。しかし、風俗が禁止されているのだ。エロいことがしたければ自力で彼女を作るしかない。

 しかしながら、騎士団は大変多忙である上に主な職場は貴族街や王城もしくは戦場だ。

 そんな場所にまともな出会いがあるか?否。ない。ある訳がない。あるのは欲に染まりきった貴族共と魔物や人間の血肉であろう。

 とどのつまり何が言いたいかというと、一部の彼女持ちや貴族で婚約者がいる場合等を除き騎士団は常にムラムラしているのだ。

 そして、そんな騎士団にマリアンヌは全員元平民であるが女性を見る目は確かなクソ父親が作った妾達を連れてきたのだ。

 つまりどういうことだ?こういうことである。


「さあ、騎士団の皆さん取引をしませんか?何?簡単な取引ですよ。私の亡き父が作った妾達を彼女にしませんか?

 実はというか何というか、私は見ての通り女性です。そんな私に妾なんて要りません。

 しかし、だからといって彼女たちをいきなり公爵家から追い出すのも酷な話です。

 じゃあせめて、次の仕事を用意しようと思ったのですが、彼女達に出来るのは家庭レベルの簡単な家事と男性に奉仕することくらいです。

 さて?どうしようかと考えていた所、私のメイドが妾達に男を紹介してあげたらどうかと案をくれました。

 というわけで、私が思いついたのは、力が強くて、責任感があり、立派な騎士道を持ち合わせた。素晴らしい人達、そう貴方方騎士団です。

 というわけで、もう一度聞きます。私の亡き父が作った妾達を彼女にしませんか?」


 ・・・・・・・・


 因みに今集められたのは全員彼女のいない騎士団員だ。マリアンヌが彼女のいない騎士団員を集めよと公爵権限を使い集めたのだ。

 少し沈黙が流れる。皆余りにもいきなり過ぎる提案に戸惑い不安になったのだ。

 それを突き破ったのは一人の若い騎士だった。彼は勢いよく一人の女性に近寄ると膝をつき言った。


「アイリス覚えているか。俺だよ俺、アイクだよ。15歳の時にアイリスが貴族に強引に連れていかれてからアイリスにもう一度会うために騎士団になったんだ。

 アイリスここで合えたのは運命だ。幼い時から言えなかったことを言おう。君が好きだ。俺と付き合って下さい」

 そう、ロマンチックに言った。

 何ともまあ、凄い偶然が合ったものだと言いたいところだが、違うのだ。計画通りなのだ。

 あらかじめセリカから騎士団の中にアイリスと深い関係にあるアイクという人物がいると教えて貰っていたのだ。そしてもしアイクが気が付かなくても、アイリスの方からアイクに迫るように予め準備はされていた。

 つまりこれは確定された事項、ある意味での出来レースなのだ。でもそれで良かったのだ。それが良かったのだ。出来レースだろうが一組のカップルが出来るというこの行為が大切なのだ。


「アイク、アイクなのね。でも、私は汚れてしまって・・・」


「そんなの俺は気にしない。どうか俺と付き合ってくれ。俺はずっとアイリスのことが好きだったんだ」


「アイク、ありがとう。ええ喜んで」

 アイリスはそう言ってアイクに抱き着いた。抱きしめた。そして互いに激しいキスを交わす。


 そして、一組の熱々なカップルが誕生した。

 こうやって前例が出来てしまうと後は超絶簡単であった。

 皆、我先にと好みの女性に告白をしだした。


 ――――――――――

 30分後

 ――――――――――


 マリアンヌが連れてきた妾達、総勢28人は全員騎士団の彼女となった。

 もちろん、騎士団の方が数は多いから。彼女を作れなかった人もいる。しかし、そんな人も安心であった。

 何故なら、騎士としての清き精神とか言うけれども、それには女を金で買うのは禁止と書いてあるだけであり、同じ騎士団の彼女と性行為に及ぶのは禁止されていないからである。もちろん屁理屈である。常識的に考えてそんなこと駄目だからそういう規則が作られていないだけである。

 ただ、偶々、同じ騎士団の仲間の彼女と仲良くなって、友人としてそういう関係になっただけ、それを件の彼女も彼氏である騎士団の人も特に気にせずに訴えを出さなければ何一つ問題はない。

 騎士団の法的にもこの国の法的にも何ら問題はないという訳である。

 更に言うのであれば、その友人にお金を払うのも禁止されていなし、騎士団が自分の彼女に生活費としてお金を渡すのことも禁止されてはいない。


 つまり、そういうことだ。そういうことなのだ。そういうことである。

 かくしてマリアンヌが連れてきた妾達は一部を除き、騎士団の専属娼婦兼家事担当となったということである。


「マリアンヌ様、この度は本当にありがとうございました」

 騎士団員達は全員揃って、マリアンヌに頭を下げた。


「いえ、こちらこそありがとうございます。彼女達を幸せにしてあげて下さい。ただ、騎士団の皆さんの力が必要な時が訪れましたら力を貸してください」

 マリアンヌはそう言って頭を下げた。

 頭を下げるという行為を上の者が下の者に行うというのはその人達に対する最大限の敬意の一つであり信頼の証であった。


「分かりました。マリアンヌ様、我らの力が必要な時はいつでも声を掛けてください」 

 そんなことをされたのだ、騎士団はマリアンヌに最大限の恩返しをしなければならなくなった。

 ただ、騎士団にとってもそれは本望というものである。何故なら騎士団員達にとってマリアンヌは自分たちの行き場のない欲望を救ってくれた恩人であるのだから。否、大恩人であるのだから。


「ありがとうございます。勇敢な騎士団の皆さん、では、私はこれで」

 かくしてマリアンヌは騎士団に自分の派閥を作り上げた。


 ――――――――――


「さてと、取り敢えずは上手く言ったわね。こうなると私の評判も大分上がるでしょうし。後はゆっくり中立派閥や揺れている所を取り込んでいきますか」

 教会に派閥を作るというのは簡単なようで非常に難しい物である。何故なら聖女方式を行うには幼い自分の身内と莫大なお金がいるからだ。

 更に言えばこの2つを用意したとしても派閥として機能するレベルとなると非常に運と更なる大きな寄付金が絡んでしまうからであった。

 そして騎士団に派閥を作るというのはもっと難しい、というか不可能に近い。何故なら騎士というのは十分な給与が支払われているためお金にもなびかなければ、政治に興味関心が無いからそう言ったものに関わろうとはまずしないからだ。

 それなのにマリアンヌは騎士団の半数以上が参加する大規模派閥を作ったのだ。


 そんな正教会派閥と騎士団派閥。これは非常に大きな力を持つ。

 何故なら正教会派閥はそのまま正教会を信仰している者を取り込む大きな武器となるのだから。

 更に言えば今の教皇の慈善事業により民から絶大の信頼を持った正教会が後ろ盾となるのは、そのまま=で民から絶大な信頼を得られるということなのだから。


 騎士団派閥では、中立派を動かす大きな武器となるし、場合によって敵対派閥だったりも引き込める大きな武器となるのだから。

 ようは騎士団の力によって救われ、大きな恩を感じている貴族の数は非常に多いのである。

 騎士団というのは全体で100人と少ししかいない、小さな集団である。

 しかしながらその100人と少しが万の軍勢に匹敵する、否、余裕で超える程の力を持った部隊である。

 騎士団員達は貴族もいるが8割以上が平民で構成されている。

 貴族至上主義の多い王国でこのような騎士団員が生まれた理由はズバリ、徹底的な実力主義による為だ。

 そんな徹底した実力主義によって生まれた騎士団が弱いわけがないという話だ。


 聖教会と騎士団に派閥を作ったマリアンヌの手腕と交渉術は恐ろしい物であり。同時に他の貴族達にその手腕と交渉術は高く評価され認められていたのだ。


「そうですね。マリアンヌ様。では私はもう少しいくつかの派閥に手紙を出してきます」

そしてセリカは心の底から楽しそうな笑顔を浮かべて部屋を出た。








 ――――――――――











「にしてもまさか、教皇を協力者につけるとわね。これはもしかしするともしかするわね。ハハハハハ。アハハハハハハハ。いいわいいわいいわいいわいいわ。凄く奪いがいがありそうだわ」

 とある理由の為に男の姿をしたナニカが狂気に満ちた笑いをあげる。


 その笑い声は誰にも聞こえず、そのまま掻き消えた。



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