悪役令嬢のメイドは計画を変更する

 辺境の貴族達を落とす為にセリカが行動を開始してから3ヵ月が立った。

 マリアンヌの思惑通り、優秀なセリカは一通りの辺境の貴族をこちら側に引き込んだ。

 少なくとも最終計画が実行された後、いきなり独立からの反乱とはならないように手は打った。

 ただ、ここで、セリカは計画を少し変更した。

 変更内容は凄くシンプル。

 悪しき領主には第五計画の時にわざと反乱を起こさせて、王都に攻め込むように指示をしたのだ。

 そのためにぶら下げた餌は爵位や莫大な金銀財宝に領土に税の免除等々、果ては王女の身柄まであった、もしも与えるとなったらば揉めること間違いなしである。

 しかしながらセリカは全てを承諾した。

 全ては第五計画をスムーズに行うために、そして、最終的には全員を殺す為に。

 そう、セリカの計画として、最終計画まで全て終わったのならば、すぐに兵を集めて悪しき領主を皆殺しにして計画全体を通して活躍した者達にその土地を報酬として与える予定であるのだ。

 だから、それも含めての反乱を起こさせるであり、大義名分を作ってからしっかりと攻め落とすという非常に合理的な行動であったのだ。

 そして何故、悪しき貴族に大盤振る舞いと言っていい程に餌をぶら下げたのは、どうせ始末するからそもそも論として報酬がいらないという意味であったのだ。


 この突然の計画変更をセリカは全部終わらせた後にマリアンヌに事後報告した。

 そしてマリアンヌはこれを喜んで承諾した。


 そう、全てはこの国をより良いものとする為に。


 ――――――――――――――――


「さて、辺境の貴族の対処は終わったし。セリカのおかげで計画はよりスムーズにいきそうだし。次は【守護者・バルバッセロ】をどうにかしないとね」


「そうですね。マリアンヌ様」


「当たり前だとは思うけど、セリカにはもう既に彼をこちら側に引き込む策は用意出来てるわよね」


「もちろんでございます。マリアンヌ様」


「フフフ。流石セリカだわ。優秀ね。それでその計画ってのは何かしら?」


「はい。まず前提条件としては【守護者・バルバッセロ】はこの国が豊かになることを望んでいます。また、人柄も良く、民に部下からも信頼されている清き心を持った善良なお貴族様でです」


「そうね。確かに彼を称える声は非常に多いわね。そこは間違いないと思うわ」


「ですので大胆に私たちの計画を全て話して味方につけようかと思っております」


「それは、かなり大胆ね。もしも裏切られて王家に報告されたら終わりじゃないかしら?」

 

「はい。その通りです。終わりです。確実に計画しは失敗します。最悪の場合はマリアンヌ様が死ぬ可能性すらあります。しかしながら彼が敵に回る、もしくは、都合の悪い方に動かれた場合も計画は失敗します。少なくともマリアンヌ様ではなく彼が王になる可能性が出てきてしまいます」

 

「確かにその通りだわ。分かったわ。私は貴方を信じるわ」

 マリアンヌにとってセリカはこの世界で最も信頼しているメイドであり、幼い頃がずっと一緒にいる、ある意味での家族のようなものであった。

 そんなマリアンヌからしてみればセリカの言葉を信じないというのは自分の言葉も信じないと同義であり、そもそも今までの計画も大部分がセリカの立案であるので、信じないなんて選択肢は元からなかった。


「ありがとうございます。マリアンヌ様」

 少し大袈裟に一礼をするセリカ。

 その姿はかなり堂に入った物であり、惚れ惚れする程綺麗な礼であった。

 しかしその姿を見てマリアンヌは「ハハハ」と思わず吹き出してしまう。


「そんなことしなくてもいいわよ。私と貴方の仲じゃない。というかそのわざとらしい礼はわざとでしょ」

 長い付き合いのマリアンヌには何となくセリカがわざと自分をからかう為にそんなことをしたんだなというのが予想出来た。


「あ。バレました。流石マリアンヌ様ですね」


「まあね。どれだけ貴方と一緒にいると思ってるのよ」


「確かにそうですね。では、私は今から【守護者・バルバッセロ】の所に交渉に出向きますね」


「待って。セリカ。私も行くわ」


「マリアンヌ様。それは難しいです。何故なら公爵k」


「公爵家当主としての仕事があるからでしょ。分かってるわよ」

 セリカの言葉を先回りしてマリアンヌはそう言った。


「分かってるのでしたら、それが無理だということは分かってるでしょう。少なくとも【守護者・バルバッセロ】のいる領地まで片道でどれだけ急いでも1週間以上はかかるのですから」

 王国という巨大な領土の端に位置する場所にあるのがバルバッセロの領土である。    

 そんな場所へ王都という王国の真ん中に位置する場所から出向くとなればそれ相応に時間がかかるというのは当たり前である。

 

 更に言えばこの片道1週間以上というのは驚くほどに早い。それは公爵家という力を使って飛竜や土竜といった高速で移動できる手段を自由に使えるからという理由であり、普通に馬車で行った場合は最低でも1月以上、下手をすれば2カ月以上はかかる道のりである。


 そんな場所に毎日仕事で多忙な現在公爵家当主のマリアンヌが行く。

 無理である。


「いいえ。出来るわ。宝物庫にあった転移の結晶を使えばね」

 転移の結晶、それはその名前の通り、指定した場所に使用者1名のみを転移できる結晶である。

 ただし、転移する場所にはあらかじめ指定の魔方陣を描いておく必要と、転移する対象が一定以上、具体的には常人の100倍以上の魔力を持っていないの成功しない上に使いきりで一度しか転移することが出来ない、片道切符という中々に使い勝手は悪いアイテムである。

 といっても一瞬で魔方陣さえあれば指定した場所に自由に転移できるというメリットは計り知れない。

 かなり貴重なアイテムではあった。


「そんなものが宝物庫に会ったのですか。確かにマリアンヌ様の魔力量でしたら発動にはそこまで問題ないと思いますが、転移の結晶は二つないとこの場所に帰ってこれませんよ」


「安心しなさい。転移の結晶は三つあるわ。という訳で私が2個セリカが1個使いなさい」


「私が使うですか?」


「ええ。そうよ。やる方は簡単まずはセリカに【守護者・バルバッセロ】の所まで行って貰うわ。その後、私が魔方陣を書いておくから転移の結晶で戻ってきなさい。もちろん私が転移するための魔方陣を書いてからよ。そしたら後は私が転移して交渉を終わらせた後、もう一回転移して戻ればいい。物凄く簡単ね」


「確かにそうですね。流石マリアンヌ様です」


「まあね。という訳でセリカ、受け取りなさい」

 マリアンヌは空間魔法・異空間を使い転移の結晶を一つ取り出してセリカに手渡す。


「確かに受け取りました。では今度こそ行ってまいります」


「ええ。気を付けていきなさいよ」


「分かっておりますと」

 

 かくしてセリカは【守護者・バルバッセロ】の所に向かうのであった。

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